転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

第3話:氷の公爵アルフレッド

 薄くあいたセレスティアの口から「……ぇ」と、思わず声がこぼれる。

 現れたのは乳母のポーラではなく、ダークブラウンの髪に涼やかな顔立ちの美丈夫。
 リシャール公爵家の現当主であり、そしてセレスティアの父親であるアルフレッド・リシャールだった。

「おとう、しゃま……」

 仕事が忙しく不在がちで、滅多に娘のもとを訪れない父が、まさか見舞いに来てくれるとは思いもしなかった。

 戸惑うセレスティアのそばへ歩み寄ってきたアルフレッドは、凍てつく冬の海を思わせるアイスブルーの瞳で静かに見下ろしてくる。

 感情の読み取れない無表情と、威圧感をともなう長身の体躯(たいく)
 実の父ながら、顔立ちは非の打ち所がないほど整っており、まるで一流の芸術家が創り出した絵画か彫像のよう。

 だが完璧に均整の取れたその美しさは、どこか人工物めいた冷たさも帯びている。

 寡黙で喜怒哀楽の分かりにくい父を、セレスティアは正直なところ、ずっと苦手だと思っていた。
 しかし──。

「体調はどうだ、セレスティア」

 訊き方は相変わらず淡々としており、表情にも変化はない。
 けれども、その声色には確かに娘を案じる気配があった。

(あれ? いつもより、怖くない……?)

 前世の記憶を得て内面がわずかに成長したおかげで、以前は感じ取れなかったことが、ほんの少し理解できるようになったのかもしれない。

「セレスティア? 医者からは問題はないと報告を受けたが……。やはり具合が悪いのか? 待っていろ、もう一度医者を呼ぶ」

「あっ、だいじょぶ、ですっ!」

 考え事をしていたせいで、アルフレッドを心配させてしまったようだ。
 セレスティアは慌てて首を大きく横に振り、それから笑顔で彼を見上げた。

「わたし、とっても、げんき! おとうしゃま、おいそがしいのに……しんぱい、かけて、ごめんなしゃい……。でも、きてくれて、うれしい! ありがとう、ごじゃい、ますっ!」

 想いを言葉に乗せて伝えるにつれ、アルフレッドの両目が見開かれていく。
 信じられない──そんな彼の心の声が聞こえてくるようだった。

(こんな顔してるお父様、初めて。そういえば、ちゃんと話したの、すごく久しぶりかも……。ん? というか、初めて?)

 思い返せば、今までのセレスティアはアルフレッドと目が合うだけで固まり、返事すらできないでいた。
 そんな臆病な三歳時が急にしっかり謝罪とお礼を言いはじめたのだから、驚くのも無理はない。

 アルフレッドの流麗な目が、(いぶか)しむように細められていく。


(ハッ! もしかして、頭を打って変になったと思われてる⁉ どっ、どどど、どうしよ……!)


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