【第一部完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
「失礼いたします。支部から報告書が参りましたので、お持ちいたしました」
支部というのは、今回の死骸虫の問題を受け、リシャール領都内に一時的に設置した医薬研究所のことだ。
王都には医薬府直轄の大規模研究所がある。
しかし、リシャール領からは馬車で数日を要する遠方だ。
手に入れた薬材を分析しデータを収集するのに、いちいち何日もかけて王都に運んではいられないため、アルフレッドが急ぎ自前で研究所を用意したのだ。
ジェラールから受け取った支部からの報告書にも、目立った成果は記されていなかった。
ある程度予想していたこととはいえ、一向に出口の見えぬ状況に、落胆せずにはいられない。
どうしたものかと考え込んでいると、ジェラールが案じるように声をかけてきた。
「恐れながら旦那様、お顔の色が優れないようにお見受けいたします。少しご休憩なさってはいかがですか?」
「問題ない。大丈夫だ」
「……ですが、せめて食事と睡眠は十分に取ってくださいませ。三日前に奥様とお嬢様と夕食を取ったきり、仕事の合間にサンドイッチを摘まむ程度で、まともに食べていないではありませんか。このままではお身体を壊してしまいます」
「気遣いには感謝する。だが、ここが正念場なのだ。必ず結果を出し、蝗害を食い止めなければならない。……家族と、領民を守るために」
「旦那様……」
自己犠牲も厭わぬほど追い詰められた主君を前に、ジェラールはなにもできぬ歯がゆさに顔を歪めた。
その時、再びコンコンとノックの音が響き渡る。
アルフレッドが入室を許せば、現れたのは生成りのシャツにサスペンダー付きの脚衣を身につけた、年配の男性使用人。
先代の頃からリシャール公爵家に仕えている庭師のモーリスだった。
「おや、貴方が書斎に来るのは珍しいですね、モーリス」
同世代で、ともに長年公爵家に仕えてきたジェラールが親しげに声をかければ、モーリスもまた気さくな口調で応じた。
「ちょいと旦那様にお知らせしたいことがありましてね。お嬢様のことなのですが……」
今から二週間ほど前のこと。セレスティアが突然、『おはなをそだてて、かだんをつくりたいの!』と言い出したのだ。
そのため、少し早めの誕生の祝祭の贈り物として、庭の一角を好きに使っていいと許可を出した。そして庭師のモーリスに花壇づくりを手伝ってやってほしいと頼んだのだ。
「セレスティアになにかあったのか? まさか、また転んで頭でも打ったのか?」
「いいえ! そうではありませんので、ご安心ください」
飄々としたモーリスがやけに真剣な顔で『お嬢様のこと』と言ったため、まさか怪我でもしたのかと心配したが、早合点だったようだ。
「では、なんの報告だ?」
「実は、わしも気付かぬうちに、お嬢様が不思議な薬草を育てておりましてね」
「不思議な薬草?」
「昼間は日が当たるので分かりにくいんですが、夜になると灯りで照らしてもいないのに、こう……きらきらと光るんですわ。いやぁ、わしも長いこと庭師をやっとりますが、あんな薬草は初めてです」
「モーリス。旦那様はお忙しいのですよ。光る草に興奮しているのは分かりますが、そのようなことで貴重なお時間をいただいてはなりません」
「いや、違うんじゃよ、ジェラール。わしは世間話をしに来たんじゃない。薬草の効能を旦那様にお伝えしたかったのじゃ」
薬の材料探しに難航しているアルフレッドとしては、気になる情報だ。報告を続けるよう促すと、モーリスが本題を語り出す。
支部というのは、今回の死骸虫の問題を受け、リシャール領都内に一時的に設置した医薬研究所のことだ。
王都には医薬府直轄の大規模研究所がある。
しかし、リシャール領からは馬車で数日を要する遠方だ。
手に入れた薬材を分析しデータを収集するのに、いちいち何日もかけて王都に運んではいられないため、アルフレッドが急ぎ自前で研究所を用意したのだ。
ジェラールから受け取った支部からの報告書にも、目立った成果は記されていなかった。
ある程度予想していたこととはいえ、一向に出口の見えぬ状況に、落胆せずにはいられない。
どうしたものかと考え込んでいると、ジェラールが案じるように声をかけてきた。
「恐れながら旦那様、お顔の色が優れないようにお見受けいたします。少しご休憩なさってはいかがですか?」
「問題ない。大丈夫だ」
「……ですが、せめて食事と睡眠は十分に取ってくださいませ。三日前に奥様とお嬢様と夕食を取ったきり、仕事の合間にサンドイッチを摘まむ程度で、まともに食べていないではありませんか。このままではお身体を壊してしまいます」
「気遣いには感謝する。だが、ここが正念場なのだ。必ず結果を出し、蝗害を食い止めなければならない。……家族と、領民を守るために」
「旦那様……」
自己犠牲も厭わぬほど追い詰められた主君を前に、ジェラールはなにもできぬ歯がゆさに顔を歪めた。
その時、再びコンコンとノックの音が響き渡る。
アルフレッドが入室を許せば、現れたのは生成りのシャツにサスペンダー付きの脚衣を身につけた、年配の男性使用人。
先代の頃からリシャール公爵家に仕えている庭師のモーリスだった。
「おや、貴方が書斎に来るのは珍しいですね、モーリス」
同世代で、ともに長年公爵家に仕えてきたジェラールが親しげに声をかければ、モーリスもまた気さくな口調で応じた。
「ちょいと旦那様にお知らせしたいことがありましてね。お嬢様のことなのですが……」
今から二週間ほど前のこと。セレスティアが突然、『おはなをそだてて、かだんをつくりたいの!』と言い出したのだ。
そのため、少し早めの誕生の祝祭の贈り物として、庭の一角を好きに使っていいと許可を出した。そして庭師のモーリスに花壇づくりを手伝ってやってほしいと頼んだのだ。
「セレスティアになにかあったのか? まさか、また転んで頭でも打ったのか?」
「いいえ! そうではありませんので、ご安心ください」
飄々としたモーリスがやけに真剣な顔で『お嬢様のこと』と言ったため、まさか怪我でもしたのかと心配したが、早合点だったようだ。
「では、なんの報告だ?」
「実は、わしも気付かぬうちに、お嬢様が不思議な薬草を育てておりましてね」
「不思議な薬草?」
「昼間は日が当たるので分かりにくいんですが、夜になると灯りで照らしてもいないのに、こう……きらきらと光るんですわ。いやぁ、わしも長いこと庭師をやっとりますが、あんな薬草は初めてです」
「モーリス。旦那様はお忙しいのですよ。光る草に興奮しているのは分かりますが、そのようなことで貴重なお時間をいただいてはなりません」
「いや、違うんじゃよ、ジェラール。わしは世間話をしに来たんじゃない。薬草の効能を旦那様にお伝えしたかったのじゃ」
薬の材料探しに難航しているアルフレッドとしては、気になる情報だ。報告を続けるよう促すと、モーリスが本題を語り出す。