野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
夜(よ)更(ふ)けの月が明るく出た。
宮(みや)様はしみじみと昔話をなさる。
「もう何十年も引きこもって暮らしていますが、かつてこういう秋の月が美しい夜は、内裏(だいり)の音楽会に参加させていただいたものです。名人の演奏もたくさん聞きましたけれど、私はああいう腕前(うでまえ)を見せつける演奏よりも、内裏のどこかからほのかに聞こえてきた演奏が印象に残っているのです。

おそらくは、お上手だと評判のお妃(きさき)様たちの演奏だったのでしょうね。あの人たちは表面上は仲良く交流しているけれど、内心では帝(みかど)のご愛情をめぐる競争に疲れています。夜更けにひとり寂しくかき鳴らしている楽器の音は、まるで忍(しの)び泣(な)くような音色で、ぞくりとすることもありましたよ。

女というのは憐(あわ)れなものですね。ただ無邪気でかわいらしいだけで済めばよいが、男の心を騒(さわ)がせるから困る。罪(つみ)深(ぶか)い生き物です。親の立場で見てもそうなのですよ。息子の場合は将来が心配でたまらないというほどにはなりにくいが、娘は見捨てられない。しょせんその程度の運命の子だったのだと思おうとしても諦(あきら)められなくて苦しいのです」
一般(いっぱん)論(ろん)のようにお話しになるけれど、宮様のご本心でもある。
お気の毒だと薫(かおる)の君(きみ)は同情なさった。
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