野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
世間の騒(さわ)がしさから離れた場所な上、川音もよい感じに響いてきて、楽器の音がいつもより澄(す)んで聞こえる。
八(はち)の宮(みや)様の山荘(さんそう)は川の向こう岸だから、風に乗って演奏が届くの。
少年時代、まだ貴族社会から追放される前のことを八の宮様は思い出される。

「よい笛の音色だ。誰が吹いているのだろう。亡き源氏(げんじ)の君(きみ)の笛はすばらしかったが、あれは愛嬌(あいきょう)のある魅力(みりょく)的な音色だった。今聞こえる音色は空へ上(のぼ)っていくように澄んでいて、風格(ふうかく)がある。かつての太政(だいじょう)大臣(だいじん)家(け)の音色によく似ている」
おっしゃるとおり、その笛は薫(かおる)の君(きみ)が吹いておられた。
薫の君の笛は、源氏の君ではなく、本当の父君(ちちぎみ)である衛門(えもん)の督(かみ)様の笛に似ているのね。
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