野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
「華やかな音楽会に参加したのはもうずいぶん昔のことだ。私を東宮(とうぐう)にするとかしないとか、知らないところで(さわ)ぎに巻き込まれたあげく、貴族たちから見放された。それ以来、ああいう楽しみもしないで、ぼんやりと寂しく過ごしてきたのだ。つまらない人生だった」
独り言をおっしゃるうちに、姫君(ひめぎみ)たちのことをお気の毒に思われる。

<私のことはもうよい。それよりも姫たちを、こんな山里(やまざと)に引きこもらせておいてはいけない。(かおる)(きみ)婿(むこ)になってくださればよいが、この世が嫌だから仏教の勉強をしたいという若者なのだ。結婚などお考えではないだろう。しかし、今どきの(うわ)ついた男を婿にしたくはない>
悩みに悩まれて、夜はなかなか明けない。

一方、楽しく音楽会をして過ごされた匂宮(におうのみや)様は、あっという間に夜が明けたような気がなさる。
<これだけでは帰りたくない>
とお思いになる。
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