野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
もう八(はち)の宮(みや)様のいらっしゃらない山荘(さんそう)に泊まることは遠慮されて、薫(かおる)の君(きみ)は都へ帰ろうとなさる。
<「あなたにお会いできるのもこれが最後かもしれない」と八の宮様がおっしゃったとき、まさかそんなことはあるまいとたかをくくっていたが、結局そのとおりになってしまった。それから今日まで、ひと秋のうちに状況はがらりと変わった。人生とは儚(はかな)いものだ>

お屋敷のなかは僧侶(そうりょ)たちの姿が目立つ。
ある意味ではにぎやかだけれど、
「仏像はすべて山のお寺にお移しいたします」
と言っているのが聞こえてくると、薫の君はこの先がご心配になる。
<この僧侶たちまでいなくなってしまったら、残された姫君(ひめぎみ)たちはどれほどお心細いか>
とお胸が痛むの。

「日が暮れてまいりました」
お供(とも)がご出発をうながす。
仕方なくお立ちになると、空を雁(かり)が鳴きながら飛んでいく。
「ただでさえこの世に絶望(ぜつぼう)しているのに、雁までもがこの世は仮(かり)の住まいだとわざわざ知らせてくれるのか」
空を見上げてため息をおつきになる。
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