野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
「分かりにくい申し上げ方をしてしまいましたが、匂宮(におうのみや)様がご執心(しゅうしん)なのはもうおひとりの姫君(ひめぎみ)の方かと存じます。あちらは(いもうと)姫君(ひめぎみ)でいらっしゃいますね。あなた様は姉君(あねぎみ)として、この忠実な仲介(ちゅうかい)役をねぎらってくださるだけで結構なのですよ。まだ確実にそうとは申せませんが、匂宮(におうのみや)様へのお返事は、いつもどちらがお書きになっていましたか」

(かおる)(きみ)としては必ず確認しておきたいところね。
<私がお返事をお書きしていなくてよかった。ここで『私です』とお答えするのはあまりに恥ずかしい>
それでも直接お答えするのは気が引けて、紙にお書きになった。
「こんな山里(やまざと)へお越しくださるのも、私がお返事を差し上げるのも、あなた様の他にはいらっしゃいません」

薫の君は微笑(ほほえ)まれる。
「そうはっきり否定されると、かえって本当だろうかと不安になってしまいます。それでは匂宮様をこちらへご案内するついでに、私はあなた様と一歩先へ進めるでしょうか。私の誠意をお分かりになっているのなら、そうしていただけると存じますけれど」
思いがけないお話になって、大君はお返事をなさらない。

そのときのご態度がちょうどよいの。
完全に拒否なさるご様子でもなければ、今どきの若い女性にありがちな男性を(ため)す態度というのでもない。
<おっとりとした奥ゆかしい方なのだろう。これこそ理想的な女性だ>
ご想像どおりで薫の君はおよろこびになる。

それからもさりげなくお()()きになるけれど、大君は気づかないふりでお相手をなさるので、薫の君は気恥ずかしくなってしまわれる。
結局、亡き(はち)(みや)様のお話などを真面目そうになさった。
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