野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
お帰りになる前に、大君はおもてなしをお命じになった。
果物やお酒などがお供たちにも出される。
亡き(はち)(みや)様の家来が忙しそうに立ち働いていた。
この人は、以前に薫の君がお着物をお与えになった家来よ。
濃い(ひげ)でなんとも田舎(いなか)くさい顔立ちなの。

<この者だけが姫君(ひめぎみ)たちをお守りしているのか>
(かおる)(きみ)は心配になって、家来をお呼びになった。
「八の宮様がお亡くなりになって、そなたも心細いであろう」
とお尋ねになると、家来は顔をしかめて弱々しく泣く。
「頼れる親戚などもおりませんから、ただ宮様のお世話になって三十年以上過ごしてまいりました。ここの他に行くあてはございません」
忠実そうではあるけれど、頼りない警備(けいび)役だわ。
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