恋愛期間0。彼の毒はスイーツより甘かった。(仮)
 今度は、塩田が砂の中で私の手を握って言った。

「そのうち、うみのことを世間に晒したくないって思うようになった。車上生活なんて辞めればいいって」
「な、何で?」

 それってどっちの意味なの?
 自分が手掛けた動画の中では駄作だった?
それとも――……

「何でって、それ以上言わせんな」

 夕焼けのせいかと思ってたけど、やはり塩田の顔が赤い。

「言ってくれないとわかんないよ。だって塩田だもん」
「は?」
「塩田フィルターに掛かったら、甘い言葉も毒舌になる」
「おもしれー事言うなよ」

 言葉の割に笑ってない。

「じゃあ、私が先に言うね」

 砂の中で、今度は私が彼の手を握った。

「私、お菓子は、他の誰でもない、塩田の為に作りたい」

 ちょっと声は震えていたけど、さざ波にはかき消されてなかったと思う。

 逸らし気味だった塩田の視線が、真っ直ぐに私に刺さる。
 砂から手を抜いたと思ったら、固定していたカメラに手を伸ばし、一時中止させた。

 ……あ。

 今までのやり取り全部撮ってたんだ、と今度は私が顔を赤らめる。
 砂の付いてない手で、塩田が私の頬を包んだ。

 穏やかな風に運ばれて磯の香りが漂う。
 同時に、鼻先にさっき飲んだビールの匂いが触れ、そして、熱く柔らかい感触が唇を覆った。

 塩田とのキスは想像以上に甘かった。


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