渋谷少女A続編・山倉タクシー

慈母観音のような栄子さん

「本当か?…よかったあ。あいつら、俺らを営利誘拐で訴えてやるなんて喚いてたからさあ、正直云ってこのあとどうなるかと心配していたんだ。ひょっとしてあの女性たちや山倉さん、あんたまで警察に足止めされるんじゃないかって…本当に悶々としていたんだよ。ああ、よかった。よかったあ…」私は心底胸を撫でおろす。
「いや結局それはなかったよ。始めは俺もそれを危惧してたんだ。正直な。しかし警察は結局、俺たちを目撃者、通報者と認めてくれた。結果的にはその俺たちの目撃証言を以って、奴らの逮捕となったんだよ。状況証拠もあったしな」
「はあ、なるほど。しかし山倉さん…あいつらは自分らがあの子、明美ちゃんの親だとか云ってたじゃないか。もしそれが本当だったなら、親権というものがあるし…警察もそうは簡単に処理できなかったんじゃないの?」
「うん、そうそう。それは確かにあったと思うよ。俺もな。ところがさ、田中さん。その明美ちゃんだよ。年は5才だそうだがホントに賢くてさ、自分が河に投げられそうになったことや、自分の住所、母親の名前と、あいつら2人との関係までさ、ちゃんと喋って見せたんだぜ。刑事たちの前でな」
「へえー…しかしその時男らは何と?そこに居たんでしょ?」
「いや。あいつらは別調べだった。取り調べに同席を許されたのは俺とあの2人の女性だけだったんだ」
「へえ。でもなんで…」
「いや田中さん、何せさ、その明美ちゃんがあの女性…えーっと栄子さん。その栄子さんの手をさ、握って離さないんだよ。ハハハ。もう縋りついちゃってさ。
あんな目に遭ったあとだから無理もないけど、しかしそれを云うよりは、あの栄子さんってえ人にそんな雰囲気があるんだね。なんかこう、慈母観音と云うか、実にやさしそうな人で、子どもを扱うのがとても旨いんだ」
< 45 / 48 >

この作品をシェア

pagetop