どうぞ、貴方がお望みの結末を。~死を偽装した才女と、彼女を搾取した人々の破滅の物語~
プロローグ

 ――早朝、ベルモント侯爵家の大きな屋敷に小包が届いた。
 あて名は当主ダリウス・ベルモントで、差出人はクラリス・ベルモントとなっている。
 クラリスは、この家の嫡女でダリウスの娘だ。
 使用人は慌ててダリウスの執務室へと赴いた。
「旦那様。お嬢様から小包が届いております」
「クラリスから小包だと?」
 心当たりのないダリウスは不審そうに小包を見ると、使用人に命じた。
「お前が開けろ」
「え?」
「クラリスはこの屋敷にいるはずだろう? わざわざ小包を送ってくる理由がわからん」
 ダリウスは日頃から人の恨みを買っているのを知っていたので、娘の名をかたった嫌がらせかもしれないと考えた。
 宛名も差出人もクラリスの筆跡ではあるが、真似ることは可能だ。
「お、お嬢様は……」
 使用人はなにかを言いかけて青ざめる。
「いいから、さっさと開けろ!」
 ダリウスが怒鳴ると、使用人は口を閉ざし、慌てて小包を開ける。
 小包の中には古い真(しん)鍮(ちゅう)製の懐中時計と、手紙が入っていた。
 ダリウスはまず懐中時計を手に取った。
「これはクラリスが肌身離さず持っていた懐中時計か?」
 手巻き式の懐中時計は、ぴたりと十二時を指したままで止まっている。
 次にふたつ折りにされた手紙を開いた。
〈卒業パーティで、公衆の面前で王太子殿下に婚約破棄され、国外追放を言い渡されました。最後の居場所だと思っていた侯爵家に帰ると、お義母様に家を追い出されました。もう、生きていけません。さようなら。
クラリス・ベルモンド〉
「いったい、どういうことだ?」
 走り書きのような手紙にダリウスは訝しげに首を傾げた。
 完璧なクラリスが王太子から婚約を破棄され、そのうえ国外追放されるなど考えられないことだ。
 それにクラリスにしては拙い文章で、まるで要領を得ていない。
 だが、この美しい筆跡は、やはりクラリスのものとしか思えなかった。
「クラリスは、今この屋敷にいないのか? いや、まさか自ら命を絶ったのか……」
 使用人が震えながら頷くのを見て、ダリウスは初めて事の重大さに気付いた。

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