どうぞ、貴方がお望みの結末を。~死を偽装した才女と、彼女を搾取した人々の破滅の物語~
◇◇◇
長くベルモント侯爵家に仕えた執事エメットは、クラリスに指示されていた最後の仕事をこなしていた。
クラリスは非常に聡いので、今回の婚約破棄及び国外追放の事態を想定していたかのように準備を進めていた。
出ていく前に、品行方正な使用人たちに過分ともいえる退職金を準備し、紹介状を書いてくれたのだ。もちろんエメットの分も。
クラリスは子供の頃から、賭け事が好きで金遣いの荒いダリウスに代わり、ベルモント家当主の仕事を代行していた。
使用人たちは、そんなクラリスにとても感謝している。
だから、王太子ロランが、なぜクラリスにあんな仕打ちをしたかわけがわからない。
婚約が調ったばかりの頃には、ロランがベルモント邸に幾度か遊びに来たこともあった。
その頃は仲睦まじいというより、ロランの方がクラリスに夢中になっているように見えた。
だから、今回の婚約破棄騒動には驚いている。
いったいいつからロランの気持ちは、クラリスから離れてしまったのかと。
クラリスはベルモント家では孤独な少女だった。
当主であるダリウスは、怪しい投機や商売をやり、儲かるとマデラやジェイコブとともに湯水のごとく金を使う。
投機に失敗してお金が足りなくなると、クラリスに領地の税を上げろと無茶な要求をする。
そんな時クラリスは頑として金を出さないので、ダリウスに殴られることもあり、エメットや古参の使用人たちは身を挺して彼女を守った。
その後クラリスは、重税により領地で反乱が起こる可能性を示唆した。領地の経営もできない家となれば、王太子の婚約者としてふさわしくないと婚約を解消される恐れがあると言って、根気強くダリウスを説得してくれた。
権力と金が欲しいダリウスは、それでやっと大人しくなる。
クラリスは前当主に似て非常に賢い少女だった。
前当主が亡くなり、王太子との婚約が調った後、ダリウスは突然下品で横暴なマデラと粗野なジェイコブを家に引き入れた。
彼らが大きな顔をして威張りくさるせいで、古参の使用人の大半はやめてしまう。
それでもエメットは最後までクラリスを支えるつもりでいた。
だが二週間ほど前に、夜の更けた執務室で、クラリスはエメットに言った。
「私の力が足りなくてごめんなさい。遅かれ早かれ、この家は没落するでしょう。あなた方の紹介状は私が用意しておきます」
突然のことでエメットは驚いたが、クラリスはエメットに詳細を説明してくれた。
彼女の話の途中で、胸がつぶれるような悲しみや苦しみを感じた。
最後まで聞き終えたエメットは、それが最善の策だと思い受け入れる。
クラリスはこの家でも理不尽な目にあってきた。そして王宮でもそれは同じだったのだ。
だからエメットはクラリスには絶対に幸せになってほしいと願う。
「お嬢様、領地はどうなさいますか?」
クラリスは重税を取り立てようとするダリウスから、ずっと領地を守ってきた。
「領地は大丈夫です。そちらはご安心ください」
そう言ってクラリスはほほ笑んだ。あれだけ領地に心を砕いてきたクラリスがそう言うのなら、きっと大丈夫なのだろうと、エメットは安心した。
彼は心からクラリスを信頼していたからだ。
そして今、主人のクラリスが出ていった。
支えるべき主人がいない屋敷がこれほど空虚なものとは想像もしていなかった。
屋敷のそこかしこに子供の頃から見守ってきたクラリスの気配を探してしまう。
エメットは心を無にしてひたすら仕事に励み、身の回りを整理してこの屋敷を出ていく準備を始めた。
長くベルモント侯爵家に仕えた執事エメットは、クラリスに指示されていた最後の仕事をこなしていた。
クラリスは非常に聡いので、今回の婚約破棄及び国外追放の事態を想定していたかのように準備を進めていた。
出ていく前に、品行方正な使用人たちに過分ともいえる退職金を準備し、紹介状を書いてくれたのだ。もちろんエメットの分も。
クラリスは子供の頃から、賭け事が好きで金遣いの荒いダリウスに代わり、ベルモント家当主の仕事を代行していた。
使用人たちは、そんなクラリスにとても感謝している。
だから、王太子ロランが、なぜクラリスにあんな仕打ちをしたかわけがわからない。
婚約が調ったばかりの頃には、ロランがベルモント邸に幾度か遊びに来たこともあった。
その頃は仲睦まじいというより、ロランの方がクラリスに夢中になっているように見えた。
だから、今回の婚約破棄騒動には驚いている。
いったいいつからロランの気持ちは、クラリスから離れてしまったのかと。
クラリスはベルモント家では孤独な少女だった。
当主であるダリウスは、怪しい投機や商売をやり、儲かるとマデラやジェイコブとともに湯水のごとく金を使う。
投機に失敗してお金が足りなくなると、クラリスに領地の税を上げろと無茶な要求をする。
そんな時クラリスは頑として金を出さないので、ダリウスに殴られることもあり、エメットや古参の使用人たちは身を挺して彼女を守った。
その後クラリスは、重税により領地で反乱が起こる可能性を示唆した。領地の経営もできない家となれば、王太子の婚約者としてふさわしくないと婚約を解消される恐れがあると言って、根気強くダリウスを説得してくれた。
権力と金が欲しいダリウスは、それでやっと大人しくなる。
クラリスは前当主に似て非常に賢い少女だった。
前当主が亡くなり、王太子との婚約が調った後、ダリウスは突然下品で横暴なマデラと粗野なジェイコブを家に引き入れた。
彼らが大きな顔をして威張りくさるせいで、古参の使用人の大半はやめてしまう。
それでもエメットは最後までクラリスを支えるつもりでいた。
だが二週間ほど前に、夜の更けた執務室で、クラリスはエメットに言った。
「私の力が足りなくてごめんなさい。遅かれ早かれ、この家は没落するでしょう。あなた方の紹介状は私が用意しておきます」
突然のことでエメットは驚いたが、クラリスはエメットに詳細を説明してくれた。
彼女の話の途中で、胸がつぶれるような悲しみや苦しみを感じた。
最後まで聞き終えたエメットは、それが最善の策だと思い受け入れる。
クラリスはこの家でも理不尽な目にあってきた。そして王宮でもそれは同じだったのだ。
だからエメットはクラリスには絶対に幸せになってほしいと願う。
「お嬢様、領地はどうなさいますか?」
クラリスは重税を取り立てようとするダリウスから、ずっと領地を守ってきた。
「領地は大丈夫です。そちらはご安心ください」
そう言ってクラリスはほほ笑んだ。あれだけ領地に心を砕いてきたクラリスがそう言うのなら、きっと大丈夫なのだろうと、エメットは安心した。
彼は心からクラリスを信頼していたからだ。
そして今、主人のクラリスが出ていった。
支えるべき主人がいない屋敷がこれほど空虚なものとは想像もしていなかった。
屋敷のそこかしこに子供の頃から見守ってきたクラリスの気配を探してしまう。
エメットは心を無にしてひたすら仕事に励み、身の回りを整理してこの屋敷を出ていく準備を始めた。