夏と先生と初恋。
もう遅いかもしれない。
オーディションには間に合わないかもしれない。
でも、自分を信じぬいたソロを吹きたいと思った。
「大丈夫だよ、———。」
立ち上がった藤木先生が保健室の扉をくぐる瞬間、ひまり、とわたしの名前を呼んだような気がした。
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人の少ない電車に乗るのは久しぶりだ。
普段は退勤ラッシュと被って、箱詰め状態の電車で帰るからこそ、席に座れる今日は珍しい。
スマホに表示される時間はまだ早い。
わたしはあの後少し保健室で休んでから、帰ることにした。
少しだけ余裕のできた今振り返ってみると、ついさっきまでの自分の異常さがよくわかる。
保健室で寝てきたはずなのに、今だって、眠くて眠くてたまらない。
電車の心地よい揺れにつられて目をつぶる。
電車は、梅雨特有の湿気の多い空気を切り裂くように軽快に進んでゆく。
真っすぐに、新緑の季節へ向かっているような気がした。