夏と先生と初恋。

「クラリネットのオーディションをする箇所は———」



そう、わたしたちはオーディションの内容を教えられていなかった。


当日、その場所になってやっと吹く内容を教えられる。


藤木先生に告げられた場所は自由曲の最後の部分。


多分ここが1番難しいところだ。



「じゃあ、始めて」



藤木先生の指示で、トップバッターの梨香先輩が一歩前に出た。



「前野梨香です」



そう言ってから、梨香先輩が演奏を始める。


…上手い。


芯があって重みのある、梨香先輩の音。


きっとわたしの音とは正反対。



「———です」



端から順に次々と進んでゆく。


1人あたりの時間はあっという間で、すぐにわたしの順番が来てしまいそうだ。



「田中葵です」



葵ちゃんの次は、わたし。


ピリリと背中に緊張が走る。


聴いたら緊張が強まるのはわかっているけど、真横で演奏している葵ちゃんの音を聴かないなんて無理な話。
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