婚約者のフリをしてください、専務~冷徹御曹司の溺愛は嘘から始まる~
父の怪我は医者の言う通り、大したことはなかった。
けれど捻挫はしているため、無理は出来ない。母にこってり叱られ、旅館の仕事に支障が出るからと父は珍しくしょんぼりしていた。
旅館に帰ると兄夫婦にも、と言うか特に兄にも思いっきり叱られ、義姉には泣かれたのが結構響いたようだ。
そんな父を見るのは初めてで、少しだけ気の毒だった。……まぁ自業自得だけれど。
すると、受付カウンターで母が小さく手招きをする。
「茉白」
「なに、お母さん」
「ごめん、部屋が一つしか取れないの」
申し訳なさそうにする母に首を傾げた。綾斗さんだけ泊るのだから問題はない。
「うん、いいんだよ? 私は母屋に泊まるんだし……」
「今、あなたの部屋は使えないのよ」
「え?」
母は言いにくそうにした。
どういうこと? 私の部屋が無い?
ああ、そういえば前に父が部屋の掃除をしていないとかなんとか。でもまぁ、それくらいなんとかなる。
しかし……。
「実はあなたの部屋は物置に使っていて……。寝れる状態にはないのよね」
「ええ、物置? どかせば?」
「お父さんがあんな状態であれだけの荷物どかせないわよ。というか、どかしても今度はそれらを置く場所がないもの」
そうか……。
私は時計を見る。この時間だともう電車は動いていない。
すると母は私を見てニコッと微笑む。
「まぁ、今のあなたたちなら一緒の部屋でもいいんじゃない? 婚約者なんだし、別にねぇ?」
「お母さん……?」
母はニコッと笑うと、部屋の鍵を渡してきた。
今のあなたたち習ってどういう意味? え、待って。今何か確信犯的な笑顔を向けてこなかった?
「でも……」
同じ部屋。前回と同じような気持ちでは泊まれない。
「どうした?」
戸惑っていると、綾斗さんが声をかけてきた。
鍵を持って困っている私と母を交互に見て、察したかのように小さく頷いた。
「一部屋しかない?」
「はい……、あの……」
「……俺は構わない」
綾斗さんはあっさり納得すると私から鍵を取り上げて先を歩き出した。
構わないって言われても……。視察の件が気になっている私には、その一言が素直に受け取れない。
綾斗さんはエレベーターの前で私を振り返る。
「おいで」
優しい声だが、どこか圧を感じるのは私だけだろうか。
「……はい」
断れるわけがない。
私は綾斗さんの方へと足を踏み出した。
けれど捻挫はしているため、無理は出来ない。母にこってり叱られ、旅館の仕事に支障が出るからと父は珍しくしょんぼりしていた。
旅館に帰ると兄夫婦にも、と言うか特に兄にも思いっきり叱られ、義姉には泣かれたのが結構響いたようだ。
そんな父を見るのは初めてで、少しだけ気の毒だった。……まぁ自業自得だけれど。
すると、受付カウンターで母が小さく手招きをする。
「茉白」
「なに、お母さん」
「ごめん、部屋が一つしか取れないの」
申し訳なさそうにする母に首を傾げた。綾斗さんだけ泊るのだから問題はない。
「うん、いいんだよ? 私は母屋に泊まるんだし……」
「今、あなたの部屋は使えないのよ」
「え?」
母は言いにくそうにした。
どういうこと? 私の部屋が無い?
ああ、そういえば前に父が部屋の掃除をしていないとかなんとか。でもまぁ、それくらいなんとかなる。
しかし……。
「実はあなたの部屋は物置に使っていて……。寝れる状態にはないのよね」
「ええ、物置? どかせば?」
「お父さんがあんな状態であれだけの荷物どかせないわよ。というか、どかしても今度はそれらを置く場所がないもの」
そうか……。
私は時計を見る。この時間だともう電車は動いていない。
すると母は私を見てニコッと微笑む。
「まぁ、今のあなたたちなら一緒の部屋でもいいんじゃない? 婚約者なんだし、別にねぇ?」
「お母さん……?」
母はニコッと笑うと、部屋の鍵を渡してきた。
今のあなたたち習ってどういう意味? え、待って。今何か確信犯的な笑顔を向けてこなかった?
「でも……」
同じ部屋。前回と同じような気持ちでは泊まれない。
「どうした?」
戸惑っていると、綾斗さんが声をかけてきた。
鍵を持って困っている私と母を交互に見て、察したかのように小さく頷いた。
「一部屋しかない?」
「はい……、あの……」
「……俺は構わない」
綾斗さんはあっさり納得すると私から鍵を取り上げて先を歩き出した。
構わないって言われても……。視察の件が気になっている私には、その一言が素直に受け取れない。
綾斗さんはエレベーターの前で私を振り返る。
「おいで」
優しい声だが、どこか圧を感じるのは私だけだろうか。
「……はい」
断れるわけがない。
私は綾斗さんの方へと足を踏み出した。