婚約者のフリをしてください、専務~冷徹御曹司の溺愛は嘘から始まる~
そうか、私たちもう恋人なんだ……。
実感はないけど、なんだか急にこの状況に照れてしまう。私が綾斗さんの腕の中で身じろぎすると、少しだけ体を離された。
「どうした、茉白?」
「あ、いえ……。何でもないです」
「……顔真っ赤だが」
「見ないでください!」
見られたくないから俯いたのに、綾斗さんは顔を真っ赤にして恥ずかしがる私にすぐに気が付いていた。
綾斗さんの胸に顔を埋めると、ククッと喉が鳴る音がした。
「そんなに照れなくても」
「照れますよ! だって、今までは偽物の関係だったのに今は本物なんだって……、綾斗さんの本当の恋人なんだって思ったら……、なんかドキドキして……、でも嬉しくて……」
顔を隠しながら動揺していると、綾斗さんの体が少し強張った。
「え……?」
顔をあげると眉間にしわを寄せ、なんだか少し怒ったような表情の綾斗さんが見下ろしている。
「それ無自覚?」
「何がですか?」
こくんと首を傾げると、綾斗さんの瞳が揺らいだ。
「茉白が悪い」
「え……? んっ……」
低く呟くと、綾斗さんの顔が下りてきてそのまま唇を塞がれる。急いているような奪うような激しいキスは、綾斗さんの欲をぶつけられているような感じがして胸の奥が熱くなる。
絡め合う舌はほんのりワインの味がして、頭の奥をしびれさせた。
「はぁ……、綾斗さん……」
「っ……、悪い。茉白が可愛すぎて止められなかった」
欲情を露わにした綾斗さんの表情に、腰のあたりがゾクッとしびれるような感覚がした。
きっと私も同じような顔をしているに違いない。
「止めなくて……いいです……」
「茉白……」
一瞬目を瞠った綾斗さんは、私を強く抱きしめるともう一度キスをした。
今度はゆっくりと、味わうように濃厚で……。お互いの欲を高め合うようなそんなキス。
綾斗さんの背に腕を回して抱き締めると、応えるように綾斗さんの腕に力が入る。頭がくらくらするような口付けに息を乱す一方だ。
唇を離し、綾斗さんは私の腕を掴み荷物を持って部屋を出た。二人しか乗っていない下降するエレベーターの中で、綾斗さんが低い声で呟く。
「今日は返したくない。だから俺への家へ行く。……嫌だったら言ってくれ」
それがどういう意味か分かっている。だから私はそっと綾斗さんのスーツの袖を掴んだ。
「……嫌じゃないです」
きっと顔は真っ赤だ。でも今は離れたくない。側にいたかった。
綾斗さんは前を向いたまま、私の手をぐっと力を込めて繋ぐ。大きくて温かい手がどこか少し緊張しているように感じた。
ホテル前からタクシーに乗って、10分ほどでタワーマンションの前に着く。エントランスを抜けてエレベーターで15階まで上がる。
内廊下を抜けて綾斗さんは玄関を開けた。
綾斗さんの部屋……!
ドキドキしながら中をよく見ようとしたが、扉が閉まったとたん綾斗さんに抱きしめられて視界が遮られる。
アッと思った瞬間、唇が塞がれた。
求められるような激しいキス。絡みつく舌に体の奥が熱くなって足元がふらつく。着いていくのに精いっぱいで、思わず綾斗さんの背中を叩いた。
「っ……悪い、つい」
腕の中でくたっとする私に申し訳なさそうな声が降ってくる。すると、フワッと体が浮いた。綾斗さんの綺麗な顔が目の前にあって目を丸くする。いわゆるお姫様抱っこだ。
「あ、綾斗さん!」
「これから甘い時間なんだ。ここで力尽かれても困る」
甘い時間って……。
色気漂う笑みで微笑まれる。
恥ずかしいけど、でも抱き上げられてよかったかも……。立っていたら完全に体に力が入らなかった。
そのまま寝室へ連れていかれ、まるで宝物を置くように優しくそっとベッドに寝かされた。