婚約者のフリをしてください、専務~冷徹御曹司の溺愛は嘘から始まる~
空腹を感じて目が覚めると、太陽がもう真上まで来ている時間だった。
大きなベッド、見慣れない天井。そっと隣を見ると、綾斗さんがこちらを向いて眠っている。
寝顔まで綺麗なんて……、なんかずるい。
そう思いながら見惚れていると、その目が薄っすらと開いた。
「ん……? 茉白?」
「おはようございます……」
そう話した声がかすれていて、小さく咳払いする。もちろん風邪などではない。原因となる昨日のことを鮮明に思い出して、カァァと頬が熱くなるのを感じた。
昨日……、いや……もう日付は変わっていたか。
「体は大丈夫か?」
綾斗さんの声も少しだけ掠れている。なんだかそれが色っぽくて、ドキドキしてしまった。
体は少し痛いけど、なんだか満たされた気持ちの方が大きくて気にならなかった。
「大丈夫です……」
「昨日は悪かったな。茉白と抱き合ったら……、箍が外れた」
「っ……いえ……、それを言うなら私も……」
私の答えに綾斗さんは満足そうに微笑む。
ああ、昨日から綾斗さんの笑顔がよく見られている。専務ではない、綾斗さんがそこにいると実感している。
「先にシャワー浴びて来い。何か食べるものを用意しておくから」
「はい」
シーツで隠しながらゆっくり体を起こしてベッドの下の服を探る。
あれ? 服がない……?
キョロキョロしていると、綾斗さんが私に何かポイっと投げてきた。
ん? 綾斗さんのシャツ……?
「それ着ていけ」
「……! こ、これは……」
「いいから」
ベッドに横になりながらニヤニヤと私を見ている綾斗さんはどこか嬉しそうだ。反対に、私は顔を赤くしている。
だって、これって彼シャツってやつだし……。
「自分の服を……」
「夜の間に洗濯した。今頃、洗濯機の中で乾いている頃かな」
いつの間に……。つまり、これしか着る物がないと言ってます……?
既に昨日、隅々まで見られたとはいえ、明るい中で流石に裸でうろつく勇気はない。
仕方ない、とシャツに袖を通すと、綾斗さんの香りがしてドキッと胸が鳴る。チラッと横を見ると綾斗さんと目が合った。
「……綾斗さん、なんだか嬉しそうですね」
「彼女が自分のシャツ来ている姿は絶景だな」
「っ……シャワー借ります」
彼女と言うワードに反応して、赤い顔を隠すように小走りで部屋を出て行く。後ろからはおかしそうな忍び笑いが聞こえていた。
そうか、私もう彼女なんだよね……。
洗面所へ行って服を脱ぐと、ハッと手が止まる。
服で隠れていたから気が付かなかったけど、脱ぐと綾斗さんからのキスマークがあちこちに……。こんなに付けられていたなんて。
『茉白』
吐息交じりで色っぽい綾斗さんが思い出され、私は声にならない声をあげながらお風呂場に駆け込んだのだった。