婚約者のフリをしてください、専務~冷徹御曹司の溺愛は嘘から始まる~

恋人らしいクリスマスを経て、年末、私たちは私の地元に帰省した。
今度は正式に、恋人同士としての帰省になる。といっても、実家はもともと婚約者だと思っているからその辺は今までと変わらない。
気持ちの上でってことかな。

「本当に良かったんですか?」
「何がだ? ああ、正月一緒に過ごせなくてすまなかったな」
「それはいいんですけど」

綾斗さんは専務という立場上、年始は挨拶回り等があって忙しい。だからお正月は一緒に過ごせないと言われていた。
そのため、年始にこうして一緒に私の実家へ向かっているのだ。

というか、本当に実家でいいの?

「忙しい時期にお邪魔するのは申し訳ないんだけど、でも恋人としてちゃんとご両親にご挨拶したいと思っていたんだ」

真っすぐな瞳でそう言われるととても照れくさい。
なんだか今までの帰省のどれよりも一番緊張してしまう。ドキドキしながら実家の旅館まで行くと、繁忙期なのでみんな忙しそうにバタバタしていた。

「いらっしゃい、茉白、綾斗さん」
「ただいまお母さん」
「こんにちは。お邪魔します」

着物姿の母が受付で声をかけると、綾斗さんは丁寧に一礼した。
今回は客として部屋を抑えている。忙しい時期に帰るので、両親に配慮した形となった。それは母もわかっているようだった。

「夜は時間を取るからみんなでご飯にしましょう」
「ありがとう」
「お忙しい所すみません」
「いいのよ。こちらこそお構いできなくてごめんなさいね」

上手くシフトを調整して時間を取ってくれたのはありがたい。

そして夕飯の時、両親が部屋に来て綾斗さんに深々と頭を下げた。

「まさか綾斗君が藤宮グループの専務だったとは思いもせず……。大変失礼しました」

父が気まずそうに頭をかく。
先日正式に、うちの会社から町おこしの協力についての企画を提案したのである。きっと町役場を通して商店街や旅館組合に話が下りてきたのだろう。
現在は町役員や担当者らと打ち合わせを重ねている途中だと聞いていた。

「本当にありがたいお話をいただいて……、商店街のみんなも大喜びでさ」
「藤宮グループが手を貸してくれるだけで宣伝にもなるものね」

二人とも嬉しそうに何度も綾斗さんに感謝をしていた。

「いえ、今度は仕事で来させていただきますので」

微笑む綾斗さんになぜか父が頬を染める。

「……お父さん」
「あ……いや」

コホンと咳ばらいを一つして、父は綾斗さんに向き合った。

「でも茉白がそんなに凄い人と婚約だなんて……。大丈夫なのか?」

本気で心配している父に内心焦る。だって婚約は偽で、本当は恋人になったばかりだ。
大丈夫だと答えるのもなんだか変な感じがする。かといって、否定するとそれはまたそれでややこしい。

「心配ありません。僕は彼女がいいんです」

朗らかに笑う綾斗さんに胸がキュッとなる。

「あ、あの! お酒もっと持ってきますね」
「茉白。お母さんも行くわ」

どんな顔をすればいいのかわからず、部屋を出ようとすると母が後ろから追いかけてきた。
食堂へ並んで廊下を歩く。

「上手くいっているみたいね、綾斗さんと」
「ああ~、うん」
「恋人同士になったんでしょう?」

母の一言に思わず足が止まる。

「……知っていたの? いつから?」
「初めから気が付いていたわ。あなたの様子がいつもと違うことくらい」
「婚約者のことも?」
「まぁ、嘘だろうなって。だってよく見ると二人の距離感がぎこちないんだもの」

ケラケラと笑う母に対して、私は頭を抑えた。
まぁそんな気はしていたけれど、やはり母には見破られていたか……。

「なんだか二人ともお互いを意識しているのに、もどかしく危なっかしい距離感だったけど。今日の二人を見たらそんな心配吹っ飛んだわ。良かったわね」
「うん……」

改めてこんな話、恥ずかしくて母の目が見れない。母は私の肩を優しくポンと叩いた。

「お父さんの言うことなんて気にしなくていいのよ。あなたは自分の幸せのために生きなさい」
「お母さん……、ありがとう」

涙ぐむ私の頭を母は笑って何度も撫でてくれた。

嘘ついてごめんね、お母さん。
私、綾斗さんと本当の恋人同士になれたよ。幸せになるからね。







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