妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
 翌日。ルフェーヌが目を覚ました時には自室のベッドの上にいた。
 ルフェーヌは山火事に遭った事は覚えていなかった。医者が言うには火事に遭った恐怖から脳がルフェーヌを守るために忘れさせたという。
 山火事の事を何も覚えていないルフェーヌには怪我のことを階段から落ちて捻挫したと医者が伝えた。
 アデルは学園の長期休暇で海外旅行をしていたため不在だった。
 ルフェーヌが山火事に遭った事はルフェーヌの父や事実を知っている限られた人物たちのみだけが知る事となった。

 ルフェーヌは火事と共にディエゴの事も忘れてしまった。火事でディエゴに助けてもらった事、式典でディエゴと出会った事も忘れてしまった。
 ルフェーヌはインフェルノが助けてくれた事を思い出せず、再会の日まで今まで通り過ごしていた。しかし時々感じるあたたかさを恋しく思う。

 (誰かに抱きしめられていたような感覚がずっと消えない。夢でも見ていたのかな。……あのあたたかさ、忘れられない)

 ルフェーヌは自分を抱きしめる。身体があの時の熱をまだ覚えている。火事とは違う、じんわりと優しくあたたかい人の熱。
 ルフェーヌはディエゴが残した残り火を忘れられず、無意識に求めていた。
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