部長と私の秘め事
そのあとも朱里の傍にいたら、彼女が目を覚ませばまた抱き潰してしまいそうで恐かった。
だから自分に〝終わり〟を示すために、朱里の体を清拭したあと、パジャマを着せて布団を掛けた。
そしてどさくさに紛れ、誕生日プレゼントとしてジュエリーを置いていく事にする。
俺がずっと前から贈り物を用意していたと知らない朱里は、『こんなのもらえません』と返してくるだろう。
でもいつか、ちゃんと過去の事も含めてお前を真剣に愛している事を伝えるから、どうか受け取ってほしい。
本当はお前の誕生日が十二月一日だと中村さんに教えてもらって以降、毎年プレゼントしたくて堪らなかったんだ。
俺はスヤスヤと寝ている彼女の顔を見て、自分がやり過ぎた事を反省し溜め息をつく。
『……悪い。ずるい抱き方だったよな。お前の気持ちを大切にして、ちゃんと告白して正々堂々といくつもりだったのに……』
衝動に負けてしまった自分が情けなくなり、俺は深い溜め息をつく。
『一旦頭を冷やす。挽回するから、ちょっと待ってくれ』
このまま朱里の家に留まり、朝チュンする訳にいかない。
帰りしな、書き置きでもしようかと思ったが、すぐに『襲うように抱いておきながら、する事じゃねぇだろ』と自分に突っ込んだ。
それにセックス後の書き置きって、恋人同士がするもんじゃないか?
今の俺が何を書く?
【気持ちよかった。また会社でもよろしく】なんて書いたら、最低野郎だ。
【田村の事でもう落ち込むな。俺にしておけ】? 抱き潰してからメモ帳で語る事かよ。
散々悩んだあと、俺はジュエリーについて【やる】とだけ書いて家を出た。
**
自宅についてコーヒーを飲んでいる時、朱里からメールが入った。
【おはようございます。昨晩は大変失礼いたしました。つきまして、緑色の箱を見つけたのですが、こちらはどうすれば宜しいでしょうか。ご多忙ななか申し訳ありませんが、なるべく早めにご返信いただけたらと思います】
ビジネスメールのようなそれを見て、俺は思わず『くっ』と笑いを噛み殺す。
そのあと『そりゃそうだよな』と呟き、少し考えてからメールを返す。
【おはよう。酷くして悪かった。無理せず週末は休んでくれ。箱は妹にやるつもりだったが、予定が変わって行き先がなくなったから代わりにもらってくれ。誕生日だって言ってただろ? 要らなかったら売るなりなんなり、好きにしてくれ】
朱里にプレゼントを押しつけたいがばかりに、俺は妹を利用してしまった。すまん。
【こんな高価な物、いただけません。お返しします】
予想通りの返事があったが、俺はそっけなく返事をする。
【いらん。戻すな。寝るからもうメールするな】
我ながら冷たいと思うが、こうでもしないと朱里はジュエリーを返そうとするだろう。
確かに相場より少し高めの物だが、自分の物になったなら、諦めてもらってほしい。
……と思ってしまうのはエゴだと分かっていても、朱里に似合うと思って買った物だから、なんとか受け取ってほしかった。
コーヒーを飲み終えたあと、薬を飲んで寝ようとしたが、ベッドに横になると朱里の嬌態を思い出し、興奮して寝付くどころではなかった。
**
月曜日になって出社すれば、〝いつも〟に戻ると思っていた。
窓際の部長室は透明なパーティションで囲われ、フロアが見渡せる。
朱里より先に出社した俺はモニターに視線をやりながらも、チラチラとフロアを窺っていた。
――来た。
出社した朱里は、平常心を装いながらも、まっさきにこちらを見た。
バチッと目が合った瞬間、ドキンッと胸が高鳴って顔が赤くなる。
――やべぇ。
こんな感覚、今まで味わった事がない。
目が合った途端、ドッドッドッドッ……と鼓動が速まり、体温が上がっていく。
経験した事はないが、知識で分かる。これは典型的な恋の反応だ。
しかし他の社員がいる場所で見つめ合うなんてできないので、すぐに視線を逸らした。
だが体勢はそのままなので、視界に彼女の姿は映る。
だから朱里が少しの間、俺を見つめているのが分かってしまった。
『…………っ』
それを知った瞬間、額に汗が浮かび、呼吸が乱れる。
脳裏に蘇るのは、長年見守り続けた女をようやく抱けたあの悦び。
朱里はただの女じゃない。俺が何よりも大切にし続けた存在だ。
その大切な女を蹂躙した興奮を思いだし、いてもたってもいられなくなる。
――結果、俺は会議室で準備をしていた朱里を追いかけるという、暴挙に出たのだった。
会議室に俺が入ってきたのを見て、朱里は目を見開いて驚く。
それから大きな溜め息をつき、恨みがましい目を向けて言った。
『……起きたらいないし、高額なジュエリーはあるし、くれるっていうし、受け取れないし、……何なんですか』
朱里は相当混乱しているらしく、思いついたままに言葉を口にしたあと、誰かに聞かれていないか気にするように出入り口を見た。
そんな彼女を見て少し気の毒になった俺は、抑えが効かなかった自分に溜め息をつく。
『……勘弁してくださいよ……。一晩だけの遊びなら、もう放っておいて』
泣く寸前のような、困り切った姿を見ると、さすがに後悔した。
だから自分に〝終わり〟を示すために、朱里の体を清拭したあと、パジャマを着せて布団を掛けた。
そしてどさくさに紛れ、誕生日プレゼントとしてジュエリーを置いていく事にする。
俺がずっと前から贈り物を用意していたと知らない朱里は、『こんなのもらえません』と返してくるだろう。
でもいつか、ちゃんと過去の事も含めてお前を真剣に愛している事を伝えるから、どうか受け取ってほしい。
本当はお前の誕生日が十二月一日だと中村さんに教えてもらって以降、毎年プレゼントしたくて堪らなかったんだ。
俺はスヤスヤと寝ている彼女の顔を見て、自分がやり過ぎた事を反省し溜め息をつく。
『……悪い。ずるい抱き方だったよな。お前の気持ちを大切にして、ちゃんと告白して正々堂々といくつもりだったのに……』
衝動に負けてしまった自分が情けなくなり、俺は深い溜め息をつく。
『一旦頭を冷やす。挽回するから、ちょっと待ってくれ』
このまま朱里の家に留まり、朝チュンする訳にいかない。
帰りしな、書き置きでもしようかと思ったが、すぐに『襲うように抱いておきながら、する事じゃねぇだろ』と自分に突っ込んだ。
それにセックス後の書き置きって、恋人同士がするもんじゃないか?
今の俺が何を書く?
【気持ちよかった。また会社でもよろしく】なんて書いたら、最低野郎だ。
【田村の事でもう落ち込むな。俺にしておけ】? 抱き潰してからメモ帳で語る事かよ。
散々悩んだあと、俺はジュエリーについて【やる】とだけ書いて家を出た。
**
自宅についてコーヒーを飲んでいる時、朱里からメールが入った。
【おはようございます。昨晩は大変失礼いたしました。つきまして、緑色の箱を見つけたのですが、こちらはどうすれば宜しいでしょうか。ご多忙ななか申し訳ありませんが、なるべく早めにご返信いただけたらと思います】
ビジネスメールのようなそれを見て、俺は思わず『くっ』と笑いを噛み殺す。
そのあと『そりゃそうだよな』と呟き、少し考えてからメールを返す。
【おはよう。酷くして悪かった。無理せず週末は休んでくれ。箱は妹にやるつもりだったが、予定が変わって行き先がなくなったから代わりにもらってくれ。誕生日だって言ってただろ? 要らなかったら売るなりなんなり、好きにしてくれ】
朱里にプレゼントを押しつけたいがばかりに、俺は妹を利用してしまった。すまん。
【こんな高価な物、いただけません。お返しします】
予想通りの返事があったが、俺はそっけなく返事をする。
【いらん。戻すな。寝るからもうメールするな】
我ながら冷たいと思うが、こうでもしないと朱里はジュエリーを返そうとするだろう。
確かに相場より少し高めの物だが、自分の物になったなら、諦めてもらってほしい。
……と思ってしまうのはエゴだと分かっていても、朱里に似合うと思って買った物だから、なんとか受け取ってほしかった。
コーヒーを飲み終えたあと、薬を飲んで寝ようとしたが、ベッドに横になると朱里の嬌態を思い出し、興奮して寝付くどころではなかった。
**
月曜日になって出社すれば、〝いつも〟に戻ると思っていた。
窓際の部長室は透明なパーティションで囲われ、フロアが見渡せる。
朱里より先に出社した俺はモニターに視線をやりながらも、チラチラとフロアを窺っていた。
――来た。
出社した朱里は、平常心を装いながらも、まっさきにこちらを見た。
バチッと目が合った瞬間、ドキンッと胸が高鳴って顔が赤くなる。
――やべぇ。
こんな感覚、今まで味わった事がない。
目が合った途端、ドッドッドッドッ……と鼓動が速まり、体温が上がっていく。
経験した事はないが、知識で分かる。これは典型的な恋の反応だ。
しかし他の社員がいる場所で見つめ合うなんてできないので、すぐに視線を逸らした。
だが体勢はそのままなので、視界に彼女の姿は映る。
だから朱里が少しの間、俺を見つめているのが分かってしまった。
『…………っ』
それを知った瞬間、額に汗が浮かび、呼吸が乱れる。
脳裏に蘇るのは、長年見守り続けた女をようやく抱けたあの悦び。
朱里はただの女じゃない。俺が何よりも大切にし続けた存在だ。
その大切な女を蹂躙した興奮を思いだし、いてもたってもいられなくなる。
――結果、俺は会議室で準備をしていた朱里を追いかけるという、暴挙に出たのだった。
会議室に俺が入ってきたのを見て、朱里は目を見開いて驚く。
それから大きな溜め息をつき、恨みがましい目を向けて言った。
『……起きたらいないし、高額なジュエリーはあるし、くれるっていうし、受け取れないし、……何なんですか』
朱里は相当混乱しているらしく、思いついたままに言葉を口にしたあと、誰かに聞かれていないか気にするように出入り口を見た。
そんな彼女を見て少し気の毒になった俺は、抑えが効かなかった自分に溜め息をつく。
『……勘弁してくださいよ……。一晩だけの遊びなら、もう放っておいて』
泣く寸前のような、困り切った姿を見ると、さすがに後悔した。