部長と私の秘め事
朝食は洋食にし、私はバターの香りがするクロワッサンの香りをうっとりして嗅ぎ、噛み締めるように食べていた。
「お前、本当に美味そうに食うなぁ」
尊さんは笑顔で言い、スマホを手に取って私の写真を撮ってきた。
「だって本当に美味しいんですもん……。このオムレツ見てくださいよ。焼きムラのない綺麗な黄色で、表面はトゥルンッ! なのに中は綺麗に半熟トロトロで……、芸術……」
言いながら、私はオムレツに向かって小さく拍手をする。
そのあと、「あ」と言って彼に尋ねた。
「前から尊さんとデートして、ちょいちょい写真撮ってますけど、SNSに投稿して大丈夫ですか?」
「別に構わねぇけど」
「あっ! 勿論、尊さんは写ってません! ホテルの部屋の中とか、ご飯写真とかだけです」
「いや、だから全然いいって」
「それにね! 私、尊さんとのデート用に新しくアカウント作ったんです」
立ちあがった私は、彼の側まで行ってスマホを見せる。
「普段使ってるアカウントは会社の人も割と知ってるんですが、ほら、こっちはフォロワーゼロ」
そう言って、私はお花のアイコンのアカウントを見せる。
そのお花はスイートルームに飾ってあった花を写したもので、花のアイコンならありふれているだろうという考えからだ。
「あー……。見事に飯メインだな」
スマホの画面を覗き込んだ尊さんは、私のアカウントの投稿を見て感心したように言う。
「いいじゃないですか。美味しくて綺麗なご飯! 見て嬉しい、食べて嬉しい!」
「どこの呼び込みだよ」
笑いながら尊さんは私の背中をポンポンと叩く。
「……というか、俺も朱里との思い出を記録するアカウント作ろうかな」
彼がボソッと言ったものだから、私は目を輝かせて反応してしまった。
「ぜひ! そんで相互フォローになりましょう!」
「えぇ……」
「何で嫌そうなの!? 酷い!」
私は「ブーブー」と言って親指を下に向ける。
「こら、そんな真似しなくていい」
尊さんは私の手を握ってポンポンと叩いてから、「席に戻って飯の続き」と言ってパンとお尻を叩いてきた。
私は唇を尖らせて席に戻り、熱々のコーンスープが少し冷めたのを確かめてスプーンで飲む。
尊さんも食事を再開したけど、やがてボソッと言った。
「……照れくさいだろ。惚気るつもりはねぇけど、写真からでも俺の目線とか分かっちまうし」
「……それはぜひ見たいです」
にんまりと笑って言うと、尊さんは珍しく照れたらしく、顔の前でパタパタと手を振った。
「んふふ……」
私はニマニマしながら、ボイルされたソーセージを囓ったのだった。
**
長い一月六日が終わり、私たちは七日の十時前にチェックアウトした。
チェックアウトの際に尊さんがフロントに行くと、そのタイミングで亘さんの第三秘書の男性が歩み寄ってきた。どうやらロビーで私たちを待っていたらしい。
「社長から、支払いは請け負うとの言伝を承りました」
「そうか、じゃあ任せた」
尊さんはサラッと返事をしたあと、私の手を握って出入り口に向かって歩きだす。
秘書さんに会釈をした私は、チラチラと彼を振り返りながら進む。
「コケるぞ」
けれど尊さんに言われたあとは、振り向かずに歩いた。
そのあと、私たちはハイヤーで尊さんのマンションに戻った。
年末からずっと彼と一緒に過ごしていたけれど、明日には自分の家に戻って出社する準備をしなければならない。
「名残惜しいけど、日常があるから非日常を楽しめるんですよね」
尊さんのマンションでコーヒーを飲みつつ言うと、「だな」と彼が頷く。
「……なんか、考える事が色々ありますね」
一日の間に色んな事があり、尊さんと二人になったあとも、さらに沢山の事実を知った。
これから解決していく事、乗り越えなければならない事を考えると気が遠くなる。
「あんまり複雑に捉えるな。できる事から着手していくしかないんだよ。まずは手離れの早いものから……だな」
「さすが部長」
ニヤッと笑って尊さんを肘でつつくと、彼は眉を上げて笑う。
「火曜からまた、部長と部下だな」
「はい」
言われて、私はオフィスで尊さんといつも通り過ごせるのか想像してみた。
今までも尊さんを見ないように気をつけていたし、大丈夫とは思いたい。
……だって恋愛アンテナビンビンの先輩が、めっちゃレーダー放ってるし……。
それを思うと、いつか尊さんとの関係がバレた時の事が面倒に思えた。
「結婚するなら、私は会社を辞めたほうがいいんでしょうか」
尋ねると、尊さんは「ん?」と私を見る。
「結婚したぐらいで辞める必要はないって事は分かってます。職場結婚は珍しくないし、同じ部署に夫婦がいてもうまくやれてる人はいる。でも尊さんは女性に人気があって、これから御曹司である事もバレるでしょう? 絶対面倒な事になるじゃないですか」
私はコーヒーカップをテーブルに置き、コロンと横になると尊さんの太腿に頭をのせる。
「事情を知る人がいたら『運命だね』って言ってくれるかもしれません。でも現時点で私たちの事を知ってる人は恵ぐらいしかいません。第三者から見れば、〝実は御曹司のイケメン部長をGETしたいけすかない女〟です」
「確かに、そういう面倒な感情を持つやつはいるな」
尊さんは同意したあと、少し考える。
「どうしても嫌なら、俺が上に異動を希望するよ。親父や兄貴も事情を分かってるから、それぐらいは融通きかせてくれるだろ」
「お前、本当に美味そうに食うなぁ」
尊さんは笑顔で言い、スマホを手に取って私の写真を撮ってきた。
「だって本当に美味しいんですもん……。このオムレツ見てくださいよ。焼きムラのない綺麗な黄色で、表面はトゥルンッ! なのに中は綺麗に半熟トロトロで……、芸術……」
言いながら、私はオムレツに向かって小さく拍手をする。
そのあと、「あ」と言って彼に尋ねた。
「前から尊さんとデートして、ちょいちょい写真撮ってますけど、SNSに投稿して大丈夫ですか?」
「別に構わねぇけど」
「あっ! 勿論、尊さんは写ってません! ホテルの部屋の中とか、ご飯写真とかだけです」
「いや、だから全然いいって」
「それにね! 私、尊さんとのデート用に新しくアカウント作ったんです」
立ちあがった私は、彼の側まで行ってスマホを見せる。
「普段使ってるアカウントは会社の人も割と知ってるんですが、ほら、こっちはフォロワーゼロ」
そう言って、私はお花のアイコンのアカウントを見せる。
そのお花はスイートルームに飾ってあった花を写したもので、花のアイコンならありふれているだろうという考えからだ。
「あー……。見事に飯メインだな」
スマホの画面を覗き込んだ尊さんは、私のアカウントの投稿を見て感心したように言う。
「いいじゃないですか。美味しくて綺麗なご飯! 見て嬉しい、食べて嬉しい!」
「どこの呼び込みだよ」
笑いながら尊さんは私の背中をポンポンと叩く。
「……というか、俺も朱里との思い出を記録するアカウント作ろうかな」
彼がボソッと言ったものだから、私は目を輝かせて反応してしまった。
「ぜひ! そんで相互フォローになりましょう!」
「えぇ……」
「何で嫌そうなの!? 酷い!」
私は「ブーブー」と言って親指を下に向ける。
「こら、そんな真似しなくていい」
尊さんは私の手を握ってポンポンと叩いてから、「席に戻って飯の続き」と言ってパンとお尻を叩いてきた。
私は唇を尖らせて席に戻り、熱々のコーンスープが少し冷めたのを確かめてスプーンで飲む。
尊さんも食事を再開したけど、やがてボソッと言った。
「……照れくさいだろ。惚気るつもりはねぇけど、写真からでも俺の目線とか分かっちまうし」
「……それはぜひ見たいです」
にんまりと笑って言うと、尊さんは珍しく照れたらしく、顔の前でパタパタと手を振った。
「んふふ……」
私はニマニマしながら、ボイルされたソーセージを囓ったのだった。
**
長い一月六日が終わり、私たちは七日の十時前にチェックアウトした。
チェックアウトの際に尊さんがフロントに行くと、そのタイミングで亘さんの第三秘書の男性が歩み寄ってきた。どうやらロビーで私たちを待っていたらしい。
「社長から、支払いは請け負うとの言伝を承りました」
「そうか、じゃあ任せた」
尊さんはサラッと返事をしたあと、私の手を握って出入り口に向かって歩きだす。
秘書さんに会釈をした私は、チラチラと彼を振り返りながら進む。
「コケるぞ」
けれど尊さんに言われたあとは、振り向かずに歩いた。
そのあと、私たちはハイヤーで尊さんのマンションに戻った。
年末からずっと彼と一緒に過ごしていたけれど、明日には自分の家に戻って出社する準備をしなければならない。
「名残惜しいけど、日常があるから非日常を楽しめるんですよね」
尊さんのマンションでコーヒーを飲みつつ言うと、「だな」と彼が頷く。
「……なんか、考える事が色々ありますね」
一日の間に色んな事があり、尊さんと二人になったあとも、さらに沢山の事実を知った。
これから解決していく事、乗り越えなければならない事を考えると気が遠くなる。
「あんまり複雑に捉えるな。できる事から着手していくしかないんだよ。まずは手離れの早いものから……だな」
「さすが部長」
ニヤッと笑って尊さんを肘でつつくと、彼は眉を上げて笑う。
「火曜からまた、部長と部下だな」
「はい」
言われて、私はオフィスで尊さんといつも通り過ごせるのか想像してみた。
今までも尊さんを見ないように気をつけていたし、大丈夫とは思いたい。
……だって恋愛アンテナビンビンの先輩が、めっちゃレーダー放ってるし……。
それを思うと、いつか尊さんとの関係がバレた時の事が面倒に思えた。
「結婚するなら、私は会社を辞めたほうがいいんでしょうか」
尋ねると、尊さんは「ん?」と私を見る。
「結婚したぐらいで辞める必要はないって事は分かってます。職場結婚は珍しくないし、同じ部署に夫婦がいてもうまくやれてる人はいる。でも尊さんは女性に人気があって、これから御曹司である事もバレるでしょう? 絶対面倒な事になるじゃないですか」
私はコーヒーカップをテーブルに置き、コロンと横になると尊さんの太腿に頭をのせる。
「事情を知る人がいたら『運命だね』って言ってくれるかもしれません。でも現時点で私たちの事を知ってる人は恵ぐらいしかいません。第三者から見れば、〝実は御曹司のイケメン部長をGETしたいけすかない女〟です」
「確かに、そういう面倒な感情を持つやつはいるな」
尊さんは同意したあと、少し考える。
「どうしても嫌なら、俺が上に異動を希望するよ。親父や兄貴も事情を分かってるから、それぐらいは融通きかせてくれるだろ」