部長と私の秘め事
『予告せずいきなり俺が現れたら、ご家族に気を遣わせるでしょう。それに亮平さんだって、これから俺たちが挨拶に伺ったら落ち着かないんじゃないですか? 俺が朱里を呼び戻したと言っていいですから、一旦仕切り直ししましょう』
自分を悪者にしてでも周囲の事を考えられる彼が、とても大人に思えた。
『何より、朱里のメンタルを大切にしたいんです。彼女は今日の事で少なからず動揺しています。亮平さんとのわだかまりが解決したとはいえ、これから一緒に実家に帰る気持ちにはなれていないでしょう。誰も無理をせず、気持ちが整った時に晴れやかな気持ちでお話するのが一番です』
速水さんの言葉を聞いて、俺がいかに朱里の気持ちを考えていなかったか思い知らされた。
朱里だけじゃない。俺は元カノにも美奈歩にも、気持ちを確かめず『こうしたら嬉しいだろう』という推測だけで生きてきた。
本当は本人にきちんと確認し、一番望む事をしてあげるのが大事なのに。
速水さんに言われた言葉が胸を刺す。
『それで〝心の声〟が多いものだから、自分では納得して行動しているんですが、周囲からは〝行動が突然〟と言われませんか?』
自分では熟考して行動するほうと思っていたが、予想外の指摘を受けて納得した。
確かに俺は、そういう一面がある。
それに速水さんはストレートに俺の本質を見抜いたが、決して〝攻撃〟してこなかった。
態度や言葉の底に敬意があったから、俺も彼の言葉を素直に聞けたのだと思う。
(敵わないな……)
横浜での事を思いだして苦笑した時、美奈歩が不満そうな声を出した。
「えー? 来るって言ってたのにドタキャン? あり得ないんですけど」
あとは俺が、きちんと美奈歩と話し合わないと。
「美奈歩、お土産」
そう言って、俺は用意していた高級ブランドのチョコレートを渡した。
四粒入りの小さな箱だが、味は確かなので土産としては上等なほうだろう。
「お継母さんも」
「あら、ありがとう~! コーヒー淹れるわね」
チョコレートのショッパーを見た若菜さんは、ウキウキしてリビングに向かった。
「美奈歩、ちょっと話があるんだけど」
「ん? 何?」
指で上を示すと、彼女は先に二階に上がっていく。
上村家は一般的な家の作りをしていて、両親は一階にある寝室で寝ていて、二階には洋室が四部屋とチェストや観葉植物を置いたホール、トイレがある。
二人で美奈歩の部屋に入ったあと、俺は床の上に座った。
「なに?」
彼女はソファに座って、ニコニコして尋ねてきた。
「……朱里の事だけど」
だがそう切り出すと、美奈歩の表情が分かりやすく曇る。
「……言いにくいけど、俺に見えないところで朱里を悪く言ってた?」
尋ねると、美奈歩は顔を強張らせて言った。
「あの人に言われたの?」
どう言ったらいいものか考えていると、みるみる美奈歩の表情に嫌悪が含まれていくのが分かった。
その表情を、俺は今まで何回も見ていた。
見ていながら理由を考えようとせず、目を逸らして自分の事だけを考えていた。
(……だから朱里が傷付いていたんだ)
反省すると同時に、美奈歩だけを悪者にしてはいけないと思った。
両者の意見を聞かずに、一方の言葉を鵜呑みにして誰かを糾弾するほど、俺も愚かではないつもりだ。
「……美奈歩、話し合おう。今まで耳を貸さなかった分、美奈歩の言葉を全部聞く。両親が再婚したあと、お前は若菜さんや朱里をどう思っていたか、俺にあまり話さなかった。俺も忙しいふりをして向き合ってこなかった」
「……そう思うようになったのは、あの人のせい?」
美奈歩は拗ねた表情で尋ねる。
「……美奈歩の本音が知りたいから、俺から打ち明けるよ。俺は初めて会った時から、朱里を気にしてた。美人だしとても魅力的だ。だからつい、妹として見ずに一人の女性として意識してしまった。美奈歩はそんな俺を見てずっと嫌な気持ちを抱いていたと思う。ごめんな」
そう言うと、美奈歩は赤いハート型のクッションを抱き締めて溜め息をつく。
「……私、あの人嫌い」
俺はどんな言葉であっても美奈歩の本音を知りたい。
今すべきなのは、妹の心を整理して兄妹間のわだかまりをなくす事だ。
そうする事で、〝何もしなかった罪〟を軽くできたらと思った。
「美人でなんかやだった。世の中色んな美人がいるけど、あの人はツンと澄ましていて『モテて当然』っていうオーラを出してた。私の事も見下してるようだったし、お兄ちゃんやお父さんをデレデレさせて、いい気になってる感じが凄く嫌だった」
美奈歩の言葉を聞いて、俺は「ん?」と目を丸くした。
自分を悪者にしてでも周囲の事を考えられる彼が、とても大人に思えた。
『何より、朱里のメンタルを大切にしたいんです。彼女は今日の事で少なからず動揺しています。亮平さんとのわだかまりが解決したとはいえ、これから一緒に実家に帰る気持ちにはなれていないでしょう。誰も無理をせず、気持ちが整った時に晴れやかな気持ちでお話するのが一番です』
速水さんの言葉を聞いて、俺がいかに朱里の気持ちを考えていなかったか思い知らされた。
朱里だけじゃない。俺は元カノにも美奈歩にも、気持ちを確かめず『こうしたら嬉しいだろう』という推測だけで生きてきた。
本当は本人にきちんと確認し、一番望む事をしてあげるのが大事なのに。
速水さんに言われた言葉が胸を刺す。
『それで〝心の声〟が多いものだから、自分では納得して行動しているんですが、周囲からは〝行動が突然〟と言われませんか?』
自分では熟考して行動するほうと思っていたが、予想外の指摘を受けて納得した。
確かに俺は、そういう一面がある。
それに速水さんはストレートに俺の本質を見抜いたが、決して〝攻撃〟してこなかった。
態度や言葉の底に敬意があったから、俺も彼の言葉を素直に聞けたのだと思う。
(敵わないな……)
横浜での事を思いだして苦笑した時、美奈歩が不満そうな声を出した。
「えー? 来るって言ってたのにドタキャン? あり得ないんですけど」
あとは俺が、きちんと美奈歩と話し合わないと。
「美奈歩、お土産」
そう言って、俺は用意していた高級ブランドのチョコレートを渡した。
四粒入りの小さな箱だが、味は確かなので土産としては上等なほうだろう。
「お継母さんも」
「あら、ありがとう~! コーヒー淹れるわね」
チョコレートのショッパーを見た若菜さんは、ウキウキしてリビングに向かった。
「美奈歩、ちょっと話があるんだけど」
「ん? 何?」
指で上を示すと、彼女は先に二階に上がっていく。
上村家は一般的な家の作りをしていて、両親は一階にある寝室で寝ていて、二階には洋室が四部屋とチェストや観葉植物を置いたホール、トイレがある。
二人で美奈歩の部屋に入ったあと、俺は床の上に座った。
「なに?」
彼女はソファに座って、ニコニコして尋ねてきた。
「……朱里の事だけど」
だがそう切り出すと、美奈歩の表情が分かりやすく曇る。
「……言いにくいけど、俺に見えないところで朱里を悪く言ってた?」
尋ねると、美奈歩は顔を強張らせて言った。
「あの人に言われたの?」
どう言ったらいいものか考えていると、みるみる美奈歩の表情に嫌悪が含まれていくのが分かった。
その表情を、俺は今まで何回も見ていた。
見ていながら理由を考えようとせず、目を逸らして自分の事だけを考えていた。
(……だから朱里が傷付いていたんだ)
反省すると同時に、美奈歩だけを悪者にしてはいけないと思った。
両者の意見を聞かずに、一方の言葉を鵜呑みにして誰かを糾弾するほど、俺も愚かではないつもりだ。
「……美奈歩、話し合おう。今まで耳を貸さなかった分、美奈歩の言葉を全部聞く。両親が再婚したあと、お前は若菜さんや朱里をどう思っていたか、俺にあまり話さなかった。俺も忙しいふりをして向き合ってこなかった」
「……そう思うようになったのは、あの人のせい?」
美奈歩は拗ねた表情で尋ねる。
「……美奈歩の本音が知りたいから、俺から打ち明けるよ。俺は初めて会った時から、朱里を気にしてた。美人だしとても魅力的だ。だからつい、妹として見ずに一人の女性として意識してしまった。美奈歩はそんな俺を見てずっと嫌な気持ちを抱いていたと思う。ごめんな」
そう言うと、美奈歩は赤いハート型のクッションを抱き締めて溜め息をつく。
「……私、あの人嫌い」
俺はどんな言葉であっても美奈歩の本音を知りたい。
今すべきなのは、妹の心を整理して兄妹間のわだかまりをなくす事だ。
そうする事で、〝何もしなかった罪〟を軽くできたらと思った。
「美人でなんかやだった。世の中色んな美人がいるけど、あの人はツンと澄ましていて『モテて当然』っていうオーラを出してた。私の事も見下してるようだったし、お兄ちゃんやお父さんをデレデレさせて、いい気になってる感じが凄く嫌だった」
美奈歩の言葉を聞いて、俺は「ん?」と目を丸くした。