部長と私の秘め事
「…………その…………」
私は間を繋げるために呟き、そのあとも沈黙し続ける。
それを尊さんは〝否定〟ととったのだろうか。
彼は優しい声で「ごめん」と謝る。
「無理に聞きたい訳じゃない。いつか話してくれる時でいい」
「そ、そうじゃない!」
私はザバッと水音を立て、体ごと彼を振り向く。
「違うの! 話したくない訳じゃない! 私……っ」
必死な顔をしていたのか、尊さんは私をギュッと抱き締めてきた。
「いいんだ。ごめん」
「~~~~っ、そうじゃない! ……そうじゃないの。…………私、……その、待って」
私は必死に説明しようとし、尊さんの腕の中で少し荒くなった呼吸を繰り返す。
「父の死に傷付いていて、話したくないとかじゃないんです。尊さんになら、どんな事だって話したいです」
「うん」
尊さんは私を見つめ、何でも受け入れる目で頷いた。
「……分からないんです。……父がどうして亡くなったのか思いだそうとしたら、そこだけ記憶がぽっかりと白くなっていて……。思いだしたくても思いだせないんです」
説明すると、尊さんの表情に微かに憐憫が混じる。
そして彼は視線を落とし、痛みの籠もった笑みを浮かべた。
「……俺も、母と妹を亡くしたあと、しばらくそういう状態だった。だから焦らなくていいし、無理をしなくていい」
「ん……」
呆然としつつ返事をしてから、一気に不安になってきた。
「……どうしてだろう……。なんで……」
訳が分からなくなって呟くと、尊さんは私の背中をトントンと叩く。
「今は一旦置いておこう。〝お父さんの死因が分からない〟という事が分かっただけでも、一歩前進としよう。記憶にない事を一気に知るのは不可能だし、少しずつ段階を追って考え、行動していくんだ」
「……はい」
不安をそのままにせず、ちゃんと安心できるよう着地させてくれた尊さんに、私は内心感謝する。
その時、私はハッと思いついた。
「お母さんなら知ってるに決まってる」
同意を求めて尊さんを見ると、彼は小さく頷いた。
「近いうちに聞きに行こう。……でも、もう少し慎重に構えてもいいかもしれない」
「なんで……?」
目を瞬かせると、尊さんはチャプ……と水音を立てて私の頬を撫でた。
「忘れていたっていう事は、それだけの理由があるっていう事だ。朱里のお父さんがどんな亡くなり方をしたか分からない。でも〝大好きなお父さんが亡くなった〟だけで、死因を忘れる事はないと思うんだ」
彼の説明を聞いているうちに、興奮した気持ちが落ち着くと共に不安が増してくる。
「……『忘れたほうがいい』と無意識に思ったという事?」
「その可能性は大きいな」
肯定され、私は溜め息をつく。
「……知りたいのに、なんか怖くなってきちゃった」
どうしたらいいか分からずにいると、尊さんがトントンと私の背中を叩く。
「まず、一つずつこなしていこう。確かに気になって仕方がないし、朱里にとって重要な事だ。でもとりあえずは明日の田村クンとの話し合いを終えてから、次に取りかかろう。お父さんの死の真相を知った時、『なんだ』と楽になる可能性もあるし、つらい想いをする可能性もある。だからエネルギーを使う事を一気にしない。心の力を分散させておくんだ」
「……そうですね」
私は目を閉じてフー……、と溜め息をつき、尊さんに抱きついた。
「……やっぱり尊さんがいてくれて良かった。私一人だったら、乗り越えられなかったかもしれない。あれもこれも気になって、突っ走って自滅していたかも……」
私があまりに落ち込んでいるからか、尊さんは冗談めかして言う。
「暴れ朱里に手綱をつけて御すのは、俺の役目だからな」
「んふふ、暴れ朱里って」
二人で笑い合ったあと、私たちは体を押しつけ合い、手を握る。
「……何があっても側にいる。楽しく遊ぶ時も、幸せを分かち合う時も、悲しみに暮れる時も、どんな時でも」
「ふふっ、結婚式の誓いの言葉はまだ先ですよ」
彼の言葉がとても嬉しくて、私は照れくささを誤魔化すために茶化す。
「朱里のためなら、何度でも誓うよ」
甘い言葉を囁かれ、キューッと愛しさがこみ上げた私は、「しゅきぴぴぴ……」と呟き、真っ赤になって彼の肩に顔を伏せたのだった。
私は間を繋げるために呟き、そのあとも沈黙し続ける。
それを尊さんは〝否定〟ととったのだろうか。
彼は優しい声で「ごめん」と謝る。
「無理に聞きたい訳じゃない。いつか話してくれる時でいい」
「そ、そうじゃない!」
私はザバッと水音を立て、体ごと彼を振り向く。
「違うの! 話したくない訳じゃない! 私……っ」
必死な顔をしていたのか、尊さんは私をギュッと抱き締めてきた。
「いいんだ。ごめん」
「~~~~っ、そうじゃない! ……そうじゃないの。…………私、……その、待って」
私は必死に説明しようとし、尊さんの腕の中で少し荒くなった呼吸を繰り返す。
「父の死に傷付いていて、話したくないとかじゃないんです。尊さんになら、どんな事だって話したいです」
「うん」
尊さんは私を見つめ、何でも受け入れる目で頷いた。
「……分からないんです。……父がどうして亡くなったのか思いだそうとしたら、そこだけ記憶がぽっかりと白くなっていて……。思いだしたくても思いだせないんです」
説明すると、尊さんの表情に微かに憐憫が混じる。
そして彼は視線を落とし、痛みの籠もった笑みを浮かべた。
「……俺も、母と妹を亡くしたあと、しばらくそういう状態だった。だから焦らなくていいし、無理をしなくていい」
「ん……」
呆然としつつ返事をしてから、一気に不安になってきた。
「……どうしてだろう……。なんで……」
訳が分からなくなって呟くと、尊さんは私の背中をトントンと叩く。
「今は一旦置いておこう。〝お父さんの死因が分からない〟という事が分かっただけでも、一歩前進としよう。記憶にない事を一気に知るのは不可能だし、少しずつ段階を追って考え、行動していくんだ」
「……はい」
不安をそのままにせず、ちゃんと安心できるよう着地させてくれた尊さんに、私は内心感謝する。
その時、私はハッと思いついた。
「お母さんなら知ってるに決まってる」
同意を求めて尊さんを見ると、彼は小さく頷いた。
「近いうちに聞きに行こう。……でも、もう少し慎重に構えてもいいかもしれない」
「なんで……?」
目を瞬かせると、尊さんはチャプ……と水音を立てて私の頬を撫でた。
「忘れていたっていう事は、それだけの理由があるっていう事だ。朱里のお父さんがどんな亡くなり方をしたか分からない。でも〝大好きなお父さんが亡くなった〟だけで、死因を忘れる事はないと思うんだ」
彼の説明を聞いているうちに、興奮した気持ちが落ち着くと共に不安が増してくる。
「……『忘れたほうがいい』と無意識に思ったという事?」
「その可能性は大きいな」
肯定され、私は溜め息をつく。
「……知りたいのに、なんか怖くなってきちゃった」
どうしたらいいか分からずにいると、尊さんがトントンと私の背中を叩く。
「まず、一つずつこなしていこう。確かに気になって仕方がないし、朱里にとって重要な事だ。でもとりあえずは明日の田村クンとの話し合いを終えてから、次に取りかかろう。お父さんの死の真相を知った時、『なんだ』と楽になる可能性もあるし、つらい想いをする可能性もある。だからエネルギーを使う事を一気にしない。心の力を分散させておくんだ」
「……そうですね」
私は目を閉じてフー……、と溜め息をつき、尊さんに抱きついた。
「……やっぱり尊さんがいてくれて良かった。私一人だったら、乗り越えられなかったかもしれない。あれもこれも気になって、突っ走って自滅していたかも……」
私があまりに落ち込んでいるからか、尊さんは冗談めかして言う。
「暴れ朱里に手綱をつけて御すのは、俺の役目だからな」
「んふふ、暴れ朱里って」
二人で笑い合ったあと、私たちは体を押しつけ合い、手を握る。
「……何があっても側にいる。楽しく遊ぶ時も、幸せを分かち合う時も、悲しみに暮れる時も、どんな時でも」
「ふふっ、結婚式の誓いの言葉はまだ先ですよ」
彼の言葉がとても嬉しくて、私は照れくささを誤魔化すために茶化す。
「朱里のためなら、何度でも誓うよ」
甘い言葉を囁かれ、キューッと愛しさがこみ上げた私は、「しゅきぴぴぴ……」と呟き、真っ赤になって彼の肩に顔を伏せたのだった。