部長と私の秘め事
「~~~~っ、もうやめてよ! あんた、いつからそんな風になっちゃったの?」

 私はしゃくり上げ、声を震わせて尋ねる。

「昭人がお兄さんに劣等感を抱いている話は聞いていたし、昔からちょっと斜に構えたところがあるのも知ってた。カッコつけだし、自分は他の奴より優れてるって、人を見下してるところもある。私が家族について話す時も『自分の両親は健在だし離婚もしない』っていう安全圏から、上から目線で私を慰めてた。知ってるんだから!」

 ――そう、分かっていた。

 ――私はずっと、昭人の本性を知っていた。

 気づいていたけれど、彼が〝嫌な人〟だって認めたら別れたくなるし、好きじゃなくなるから、心の中で黙殺していた。

 でも学生時代の私は、昭人がどんな人であろうが、彼に依存してなんとか自分を保つのに必死だったのだ。

 新たにまともな彼氏を作る気力なんてなかった私は、昭人を好きだと思い込む事で、自分は幸せなのだと言い聞かせていた。

 けど今は「違う」と自信を持って言える。

 本当に素敵な彼氏を知った以上、まがいものには「ノー」を言わなければならない。

 でなければ、過去の私が可哀想だ。

「昭人は物腰柔らかで優しくて温厚な人だけど、その余裕は『自分は成績優秀で顔もいいし、周りとは違う』という自信からきてる。〝胸が大きくて美人な彼女〟がいれば、友達に自慢できてもっと自分に自信が持てたんじゃない? だから彼女を大切にしていた……んじゃなくて、()()()()()()()()()()()()

 心のダムを決壊させた私は、側に尊さんがいる事に勇気をもらい、思っていた事をすべてを吐き出す。

 今まで昭人の前で泣いた事なんてなかったし、ずっと抱えていたモヤモヤを〝なかった事〟にしていたけれど、今言わなきゃ!

 グズグズに弱くなったところを嫌いな相手に見せたとしても、側に尊さんがいるなら大丈夫。

「いつも昭人はさり気なく上からだったし、彼女(わたし)を大切にするかどうかより、周りに〝理想のカップル〟と思われるかを重視してた。もともとお洒落なものが好きだったから、お金を持つようになって身につける物や飲食店にこだわったのはいい。でも私はメンズブランドやワイン、グルメの話をされても分からなかったし、『知らない』って言って小馬鹿にされるのが嫌だった。高級な飲食店で店員さんに偉そうな態度をとられるのも、恥ずかしくて嫌だった」

 私に思い切り否定され、昭人は目を見開いて顔を強張らせている。

「美術館に行った時、私は場の雰囲気も含めてじっくり展示品を楽しみたかったのに、昭人は知識をひけらかしてペラペラ喋っていた。事前に調べたのは偉いと思う。でもその場の空気を大切にするとか、もっと考える事はあるでしょ? 静かな中、昭人の声ばっかり響いていて、私、一緒にいて恥ずかしかったんだから」

 尊さんが溜め息をつく音が聞こえる。

「……それに飲食店に行っても、昭人が大切にするのはご飯を食べる事より、映える写真を撮れるかどうかだった。私のご飯も含めてこだわりの構図で撮りたいもんだから、撮影が終わる頃にはいっつもご飯が冷めてた。それで『見た目はまぁまぁだけど、大して美味くないね』って言ってて、ほんっとうに嫌だった」

 隣で、尊さんが「ひでーな」と呟いた。

「その上、嫌だって言ってるのに、昭人は私の手を写真に撮って〝匂わせ彼女〟としてSNSに載せてた。最初に『顔は写さないで』って言ったら〝彼女自慢〟できなくてふてくされてたよね? 手だけならいいと思った? 勝手に写真撮られるの、気持ち悪いんだよ。どうして分かってくれないかな……」

 私は苛立って言い、乱暴な溜め息をつく。

「昭人の【彼女とカフェに行った】ってSNSの投稿は、『美味しい店教えます』じゃなくて、『美人な雰囲気の彼女と、お洒落なカフェにいる自分かっけー』って見せたいだけ。あんたは自分をイケてると思ってるだろうけど、中身はスカスカ。そんなんだから、充実してるお兄さんに成績も何もかも負けるんだよ」

 私の言葉がとうとう昭人の逆鱗に触れた瞬間――。

「っこの……っ!」

 昭人は憤怒に顔を歪めると、私に向かって手を振り上げた。

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