部長と私の秘め事
尊さんの秘密
気がつくと私は夜景が綺麗なレストランの、個室の席に座っていた。
テーブルの奥には鉄板と窓があり、スタッフさんが焼いてくれた物を食べつつ、景色を楽しめる席だ。
「飲み物は?」
呆けていた私は、尊さんにメニューを渡されてハッと我に返る。
彼は何事もなかったかのように「俺はシャンパンにしとくかな」と言う。
「……じゃ、じゃあ……。同じ物を……」
「かしこまりました」
オーダーを聞いたスタッフさんは、お辞儀をして立ち去っていく。
いまだぼんやりとしている私は、気になっている事を尋ねた。
「……さっきのアレ、本当ですか?」
「田村くんと相良さんに落とした爆弾?」
「……爆弾って自覚あったんですね」
私はやや呆れ気味に突っ込む。
「そうじゃないと落とす意味ないだろ。あの話は本当だよ。俺は割と顔が広い。各社の重役に知り合いが多いし、仕事でもプライベートでも、食事をしたり酒を飲んだりしてる。だから色々聞くんだ」
「…………はぁ…………」
私は重たい溜め息をつき、テーブルに肘をつくと両手で顔を覆う。
「なに? まだ好きだから、あんな事されたくなかった?」
そう言われ、私は顔を上げると、夜景を見ながら小さく首を横に振る。
「……分かりません。混乱しちゃって。……『ざまみろ』って気持ちと同情と、ライバル心を抱いた女性が不倫してたって知って、……安心、しちゃったとか……、彼女を〝下〟に見てしまったとか……。グチャグチャになってしまって……」
私はうまく纏められない気持ちを、断片的に口にする。
尊さんは私の心情など気にせず、サラリと言った。
「あれで〝仕返し〟にはなっただろ。一発やられたならこっちも一発やり返す。あとは深追いせずに、お互いの人生を歩めばいいんだ」
〝仕返し〟という言葉を聞き、私は眉間に皺を寄せて尊さんを見る。
「……こう言ったら自意識過剰みたいですが、……私のため?」
尋ねると、尊さんは眉を上げて微妙な表情で笑った。
「好きに解釈してくれ。重役と知り合いなのは本当。朱里から田村くんの話を聞いて、興味を持ったのも本当」
「……じゃあ、何が〝嘘〟なんですか?」
はぐらかす言い方が気になって尋ねると、尊さんはスッと顔を近づけて囁いてきた。
「気に入ってる女が元彼に傷つけられたなら、再起不能にするしかないだろ」
「っ~~~~!」
――この人……。
まるで本当に私の事が好きみたいに言われ、とっさに目を逸らしてしまった。
けれど尊さんは私の顎を捉え、自分のほうを向かせる。
「素直になれよ。スカッとしなかったか? あの女が不倫してたと知って安心しただろ? お前を振ってまで選んだ女なのに、とんだハズレくじでざまみろって思っただろ?」
……悪魔みたいだ。
そう思うものの、〝いい子〟の私は尊さんを非難しようとしているのに、〝悪い私〟は「その通りだ」と頷いていた。
「田村クンは朱里の良さを理解できなかったし、あいつはお前を幸せにできない。たとえ結婚しても、あいつはお前を満足させられず、冷えた夫婦になるに決まってる」
「……そこまで言う事ないじゃないですか。性格悪い」
堪らず窘めると、尊さんはニヤニヤ笑って言う。
「お前、俺を性格のいい男だと思ってた?」
「……欠片も思ってませんが」
褒め言葉じゃないのに、褒めてる雰囲気になってるのは何でなの……。
「多少性格が悪くなきゃ、大切なものなんて守れないんだよ。俺は好きになった女が傷付いてたら、傷つけた奴にやり返して、自分が幸せにしてやりたい」
「……いつから私を好きになったんですか」
「ずっと前から?」
~~~~もう。ああ言えばこう言う……。
そのとき飲み物が運ばれ、とりあえず乾杯した。
シャンパンは炭酸が強めだけれど、口に入れるとフワッといい香りが広がった。
辛すぎもなく甘過ぎもなく、丁度飲みやすい味だ。
尊さんは満足そうに息を吐いてから言う。
「田村クンが別れようと思った時、相応の理由があったんだろう。別れる時にどんな話し合いをしたか分からないけど、一年経っても未練を持っていたなら、納得できる話し合いはできてなかったんだろ? お前はいい女ぶって身を引いたかもしれないけど、あいつはその優しさに乗じて言うべき事を言わなかった。……多分、普段から朱里に我慢させる関係だったんじゃないか? そう思ったら腹が立ったんだよ」
彼は真面目な表情で言い、シャンパンを一口飲む。
私は昭人にフラれた時の事を思いだし、溜め息混じりに言う。
「……ある日、『女として見られなくなったし、結婚できると思えないから別れよう』って言われました。……私としては突然だったんですが、昭人の中では前から思っていた事だったんでしょう」
すると尊さんはソファの背もたれに身を預けて言った。
「これは持論だけど、男も女も、のちの面倒を起こさないように、上手な別れ方、断り方をするべきだ。一方が勝手にスッキリしても、もう一方はどうか分からないからな。付き合っていたなら、敬意を持って別れを告げないと泥沼になる」
その言葉を聞いた私は、ジト目で言う。
「……尊さんは今まで大勢の女性を、敬意を持って振っていたんでしょうね」
「妬くなよ」
「妬いてませんよ。尊さんは美女とお見合いするんでしょう?」
私はツンツンして言い、内心で落ち込む。
(……嫉妬してるのバレバレだ)
その時、尊さんは「あ」と呟いて、思いだしたように言った。
テーブルの奥には鉄板と窓があり、スタッフさんが焼いてくれた物を食べつつ、景色を楽しめる席だ。
「飲み物は?」
呆けていた私は、尊さんにメニューを渡されてハッと我に返る。
彼は何事もなかったかのように「俺はシャンパンにしとくかな」と言う。
「……じゃ、じゃあ……。同じ物を……」
「かしこまりました」
オーダーを聞いたスタッフさんは、お辞儀をして立ち去っていく。
いまだぼんやりとしている私は、気になっている事を尋ねた。
「……さっきのアレ、本当ですか?」
「田村くんと相良さんに落とした爆弾?」
「……爆弾って自覚あったんですね」
私はやや呆れ気味に突っ込む。
「そうじゃないと落とす意味ないだろ。あの話は本当だよ。俺は割と顔が広い。各社の重役に知り合いが多いし、仕事でもプライベートでも、食事をしたり酒を飲んだりしてる。だから色々聞くんだ」
「…………はぁ…………」
私は重たい溜め息をつき、テーブルに肘をつくと両手で顔を覆う。
「なに? まだ好きだから、あんな事されたくなかった?」
そう言われ、私は顔を上げると、夜景を見ながら小さく首を横に振る。
「……分かりません。混乱しちゃって。……『ざまみろ』って気持ちと同情と、ライバル心を抱いた女性が不倫してたって知って、……安心、しちゃったとか……、彼女を〝下〟に見てしまったとか……。グチャグチャになってしまって……」
私はうまく纏められない気持ちを、断片的に口にする。
尊さんは私の心情など気にせず、サラリと言った。
「あれで〝仕返し〟にはなっただろ。一発やられたならこっちも一発やり返す。あとは深追いせずに、お互いの人生を歩めばいいんだ」
〝仕返し〟という言葉を聞き、私は眉間に皺を寄せて尊さんを見る。
「……こう言ったら自意識過剰みたいですが、……私のため?」
尋ねると、尊さんは眉を上げて微妙な表情で笑った。
「好きに解釈してくれ。重役と知り合いなのは本当。朱里から田村くんの話を聞いて、興味を持ったのも本当」
「……じゃあ、何が〝嘘〟なんですか?」
はぐらかす言い方が気になって尋ねると、尊さんはスッと顔を近づけて囁いてきた。
「気に入ってる女が元彼に傷つけられたなら、再起不能にするしかないだろ」
「っ~~~~!」
――この人……。
まるで本当に私の事が好きみたいに言われ、とっさに目を逸らしてしまった。
けれど尊さんは私の顎を捉え、自分のほうを向かせる。
「素直になれよ。スカッとしなかったか? あの女が不倫してたと知って安心しただろ? お前を振ってまで選んだ女なのに、とんだハズレくじでざまみろって思っただろ?」
……悪魔みたいだ。
そう思うものの、〝いい子〟の私は尊さんを非難しようとしているのに、〝悪い私〟は「その通りだ」と頷いていた。
「田村クンは朱里の良さを理解できなかったし、あいつはお前を幸せにできない。たとえ結婚しても、あいつはお前を満足させられず、冷えた夫婦になるに決まってる」
「……そこまで言う事ないじゃないですか。性格悪い」
堪らず窘めると、尊さんはニヤニヤ笑って言う。
「お前、俺を性格のいい男だと思ってた?」
「……欠片も思ってませんが」
褒め言葉じゃないのに、褒めてる雰囲気になってるのは何でなの……。
「多少性格が悪くなきゃ、大切なものなんて守れないんだよ。俺は好きになった女が傷付いてたら、傷つけた奴にやり返して、自分が幸せにしてやりたい」
「……いつから私を好きになったんですか」
「ずっと前から?」
~~~~もう。ああ言えばこう言う……。
そのとき飲み物が運ばれ、とりあえず乾杯した。
シャンパンは炭酸が強めだけれど、口に入れるとフワッといい香りが広がった。
辛すぎもなく甘過ぎもなく、丁度飲みやすい味だ。
尊さんは満足そうに息を吐いてから言う。
「田村クンが別れようと思った時、相応の理由があったんだろう。別れる時にどんな話し合いをしたか分からないけど、一年経っても未練を持っていたなら、納得できる話し合いはできてなかったんだろ? お前はいい女ぶって身を引いたかもしれないけど、あいつはその優しさに乗じて言うべき事を言わなかった。……多分、普段から朱里に我慢させる関係だったんじゃないか? そう思ったら腹が立ったんだよ」
彼は真面目な表情で言い、シャンパンを一口飲む。
私は昭人にフラれた時の事を思いだし、溜め息混じりに言う。
「……ある日、『女として見られなくなったし、結婚できると思えないから別れよう』って言われました。……私としては突然だったんですが、昭人の中では前から思っていた事だったんでしょう」
すると尊さんはソファの背もたれに身を預けて言った。
「これは持論だけど、男も女も、のちの面倒を起こさないように、上手な別れ方、断り方をするべきだ。一方が勝手にスッキリしても、もう一方はどうか分からないからな。付き合っていたなら、敬意を持って別れを告げないと泥沼になる」
その言葉を聞いた私は、ジト目で言う。
「……尊さんは今まで大勢の女性を、敬意を持って振っていたんでしょうね」
「妬くなよ」
「妬いてませんよ。尊さんは美女とお見合いするんでしょう?」
私はツンツンして言い、内心で落ち込む。
(……嫉妬してるのバレバレだ)
その時、尊さんは「あ」と呟いて、思いだしたように言った。