部長と私の秘め事
 翌朝はゆっくりめに起きて、ルームサービスで朝食をいただいた。

 アフタヌーンティーみたいなティースタンドに洋食が綺麗に盛られていて、メニューで選んだメインのエッグベネディクトは、信じられないぐらい美味しかった。

「あー……、まだちょっと頭痛いかも」

 チェックアウト前、私たち三人は洗面台の前に立ち、それぞれのポーチを開けてメイクをしていた。

「春日さんは飲み過ぎなんですよ。……あ、クレドのパウダー」

「これ、いいわよ。朱里さんはSUQQUなんだ」

 彼女は私が持っているパウダーを見て尋ねてくる。

「場合によりです。これはオイルインで自然なツヤも出してくれるので、サッとの時に重宝してます」

「二人とも凝ってるわねぇ……」

 エミリさんは日焼け止めとBBクリームを塗ったあと、ティントチークを付けて眉毛を描き、すでにリップを塗っている。

「エミリさんはサッと派ですね」

「私、地の顔が派手だから、メイクは短縮気味なの」

「朱里さんは、睫毛が長いわねぇ……。爪楊枝が乗りそう」

 春日さんは私の顔をしげしげと見てから、口を開けて目を大きく見開き、マスカラを塗る。

「……マスカラ塗る時、そういう顔になりますよね」

「アイライン引く時なんて、般若よ」

 三人で「あるある」と頷いたあとも手を動かし、しばらく経って全員の身支度が終わった。

「じゃ、行きましょか」

「お邪魔しましたー!」

 私たちは荷物を持ち、お世話になったスイートルームに別れを告げる。

(尊さん来てるかな)

 エレベーターに乗った私は、メッセージアプリを開く。

 今朝起きたら【チェックアウトに合わせて迎えに行く】とだけあり、昨日の一連の事への反応はない。

「昨晩はちょっとやりすぎたから、尊さんに謝らないとね」

「そうね、私も可愛いからって朱里さんに絡みすぎたわ」

 エミリさんと春日さんは反省し合い、尊さんにどう謝るか相談している。

(そんな、怒る事じゃないと思うけどな。呆れてるとは思うけど)

 ロビーまで着くと、春日さんはサッとフロントに向かった。

「私、ちょっと行ってくるから、二人で話してて」

「あの、春日さん!」

「ん?」

 呼び止めると、彼女は立ち止まって微笑む。

「今回は色々ありがとうございました。次もぜひ女子会をしたいですけど、こんな立派なところじゃなくていいですからね?」

「そうそう、なんなら下見がてらラブホで女子会でもいいし」

 エミリさんが言うと、春日さんの目がキランッと輝いた。

 彼女は周囲をチラッと見てから、とてもいい笑顔で頷き、サムズアップした。

「ありがとね!」

 エミリさんは彼女にお礼を言ったあと、ロビーのソファを指さして「あ」と声を漏らす。

「あっ」

 そこには黒いチェスターコートを着た尊さんが座っていた。

「おう」

 彼は私たちに気づくと、立ちあがってちょいちょいと手招きをした。

「一日ぶりです」

 私は両手を広げてテテテ……と彼に近づき、パフッと抱きつく。

 尊さんは私を優しく抱き締めてから、「はー…………」と長い溜め息をついた。

「……エミリ、この借りはでかいぞ?」

「あらやだ。朱里さんも心の底から楽しんでいた女子会を、借りだなんてそんな。スパダリなのにみみっちい事を言わないわよね? 彼女の行動を規制なんてしないわよね?」

 尊さんはエミリさんに言われ、チッと舌打ちをする。

「怒ってるのかな?」と思って彼を見上げると、尊さんは溜め息をついて尋ねてきた。

「楽しかったか?」

「とっても!」

 頷くと、彼は溜め息をついてクシャクシャと私の頭を撫でてきた。

「……なら、しゃーないか」

 その時、春日さんが手に紙袋を持ってこちらにやってくる。
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