部長と私の秘め事
お互い生育環境は異なるし、何から何まで同じではないから、すべて理解し合えるとは思っていない。
でも察して、想像を働かせる事はできる。
「……だから私、家では気持ちが休まらなくて、学校での付き合いを大切にしたんです。親友とか昭人とか……」
話が昭人に繋がり、尊さんは納得したように頷いた。
「付き合ったのは、昭人から告白されてでした。昭人はクラスの目立つ系グループにいて、一歩退いたところで静かに笑ってる感じの人でした。私は周りから浮いていたというか、周りの子と同じように無邪気にはしゃげずにいました。厨二っぽく斜に構えていたとかじゃないんですが、皆と一緒にいても、心がそこになかったというか」
「ん、分かる」
「周りからは『大人っぽい』と言われていましたが、そうじゃなくて……。学生生活を楽しむ余裕がなかっただけなんです。私はいつも、自分の殻にこもっていただけ」
尊さんは頷き、お茶を飲む。
「そんな私を見て、昭人は自分と雰囲気が似てるって思ったんでしょうね。『上村さんとは話が合うと思う』って言って告白されました。最初から彼を好きだった訳じゃないんですが、……彼氏ができたら寂しさや空しさを埋められるのかな……と思って付き合いました。……昭人とは映画館や美術館、水族館に行きました。公園を当てもなくブラブラ歩いたり、図書館で本を読んだり。お互い饒舌ではなかったけれど、そういう付き合い方がとても楽でした」
私は息を吐き、葡萄ジュースの残りを飲み干したあと、手酌でボトルからもう一杯分を注ぐ。
「エッチする仲になっても私の心は乾いたままだったというか、抱かれれば抱かれるほど、昭人から心が離れていくように感じました。大して気持ちよくないのに彼だけが喘いでいて、その姿を見ていると急に気持ちが冷めてしまって、エッチをしたくなかったんです。エッチを拒んでも昭人は怒りませんでしたし、浮気もしなかった。……でも、少しずつ心が離れていったんでしょうね」
「田村クンと価値観、合わなかっただろ」
尊さんに言われて私は少し考え、頷いた。
「普通に付き合うだけなら良かったかもしれませんが、深い話をするのは苦痛だったかも。昭人の悩みは〝家族が皆生きている人〟の悩みなんです。勿論、『あなたの両親は生きていていいよね』なんて口が裂けても言いませんでした。……でも、『親が……』とか『兄貴が……』って聞いていると、彼がとても甘えているように感じてきつかったです。その精神的なズレがどんどんつらくなっていったけど、ずっと付き合っている人だから離したくなかった。……離せなかった」
私は大きな溜め息をつき、こみ上げた涙を拭う。
「……いつだったか昭人の友達と三人で飲んだ時、昭人が席を立った時に言われたんです。『いい加減、あいつを解放したら?』って。その時は『何言ってるの?』とムカついて無視しました。……でも今なら分かる。……昭人は優しいから私に付き合ってくれていたし、私が抱える悩みも理解して側にいようとしてくれた。……けど私は恋人らしい関係を築かなかったし、彼もつらくなったんだと思う」
私は息を震わせ、涙を流す。
「……私はただ、孤独を埋めてくれる昭人に依存していただけだった……。彼の幸せなんて、何も考えてなかった……っ」
一年経って、自分の心を整理しながら話して、ようやく理解した。
昭人は悪くない。
彼は私より自分の人生を選び、結婚しても幸せになれない女を切り捨てただけだ。
そっけなく振ったのも、期待を持たせないためだったかもしれない。
なのに私は……っ!
「~~~~っ、うぅう……っ!」
私はボロッと涙を零し、嗚咽し始める。
「――――っ、私は……っ、昭人を悪者にしたかっただけだった!」
「……落ち着け」
尊さんは私を抱き締め、背中をさする。
――気づかなければ良かった。
――気づきたくなかった。
私は可哀想な自分に酔い、長年寄り添った恋人の苦しみに気づけずにいた。
「お前がフラれて傷付いたのは事実だろ。必要以上に自分を悪者にしなくていいんだよ。それに俺から見れば、九年も付き合っていたのに、お前を気持ちよくできず、本当の意味で幸せにもできなかった向こうにも落ち度があると思うけど」
尊さんは私を見つめ、頬に流れた涙をチュッと吸う。
「でも……っ」
「『自分が悪かった』事にして、田村クンとまた付き合えるのか? 彼が仮にOKしても、お前は罪悪感を抱えたまま付き合う事になるんだぞ」
「~~~~っ、付き合わな……っぃ、……っ」
もう、私と昭人の道は分かたれてしまった。
この一年私が悲しみに明け暮れている間、昭人は重たい荷物を切り離して、ようやく自分の人生を歩み始めた。それを邪魔できない。
その時、尊さんが言った。
でも察して、想像を働かせる事はできる。
「……だから私、家では気持ちが休まらなくて、学校での付き合いを大切にしたんです。親友とか昭人とか……」
話が昭人に繋がり、尊さんは納得したように頷いた。
「付き合ったのは、昭人から告白されてでした。昭人はクラスの目立つ系グループにいて、一歩退いたところで静かに笑ってる感じの人でした。私は周りから浮いていたというか、周りの子と同じように無邪気にはしゃげずにいました。厨二っぽく斜に構えていたとかじゃないんですが、皆と一緒にいても、心がそこになかったというか」
「ん、分かる」
「周りからは『大人っぽい』と言われていましたが、そうじゃなくて……。学生生活を楽しむ余裕がなかっただけなんです。私はいつも、自分の殻にこもっていただけ」
尊さんは頷き、お茶を飲む。
「そんな私を見て、昭人は自分と雰囲気が似てるって思ったんでしょうね。『上村さんとは話が合うと思う』って言って告白されました。最初から彼を好きだった訳じゃないんですが、……彼氏ができたら寂しさや空しさを埋められるのかな……と思って付き合いました。……昭人とは映画館や美術館、水族館に行きました。公園を当てもなくブラブラ歩いたり、図書館で本を読んだり。お互い饒舌ではなかったけれど、そういう付き合い方がとても楽でした」
私は息を吐き、葡萄ジュースの残りを飲み干したあと、手酌でボトルからもう一杯分を注ぐ。
「エッチする仲になっても私の心は乾いたままだったというか、抱かれれば抱かれるほど、昭人から心が離れていくように感じました。大して気持ちよくないのに彼だけが喘いでいて、その姿を見ていると急に気持ちが冷めてしまって、エッチをしたくなかったんです。エッチを拒んでも昭人は怒りませんでしたし、浮気もしなかった。……でも、少しずつ心が離れていったんでしょうね」
「田村クンと価値観、合わなかっただろ」
尊さんに言われて私は少し考え、頷いた。
「普通に付き合うだけなら良かったかもしれませんが、深い話をするのは苦痛だったかも。昭人の悩みは〝家族が皆生きている人〟の悩みなんです。勿論、『あなたの両親は生きていていいよね』なんて口が裂けても言いませんでした。……でも、『親が……』とか『兄貴が……』って聞いていると、彼がとても甘えているように感じてきつかったです。その精神的なズレがどんどんつらくなっていったけど、ずっと付き合っている人だから離したくなかった。……離せなかった」
私は大きな溜め息をつき、こみ上げた涙を拭う。
「……いつだったか昭人の友達と三人で飲んだ時、昭人が席を立った時に言われたんです。『いい加減、あいつを解放したら?』って。その時は『何言ってるの?』とムカついて無視しました。……でも今なら分かる。……昭人は優しいから私に付き合ってくれていたし、私が抱える悩みも理解して側にいようとしてくれた。……けど私は恋人らしい関係を築かなかったし、彼もつらくなったんだと思う」
私は息を震わせ、涙を流す。
「……私はただ、孤独を埋めてくれる昭人に依存していただけだった……。彼の幸せなんて、何も考えてなかった……っ」
一年経って、自分の心を整理しながら話して、ようやく理解した。
昭人は悪くない。
彼は私より自分の人生を選び、結婚しても幸せになれない女を切り捨てただけだ。
そっけなく振ったのも、期待を持たせないためだったかもしれない。
なのに私は……っ!
「~~~~っ、うぅう……っ!」
私はボロッと涙を零し、嗚咽し始める。
「――――っ、私は……っ、昭人を悪者にしたかっただけだった!」
「……落ち着け」
尊さんは私を抱き締め、背中をさする。
――気づかなければ良かった。
――気づきたくなかった。
私は可哀想な自分に酔い、長年寄り添った恋人の苦しみに気づけずにいた。
「お前がフラれて傷付いたのは事実だろ。必要以上に自分を悪者にしなくていいんだよ。それに俺から見れば、九年も付き合っていたのに、お前を気持ちよくできず、本当の意味で幸せにもできなかった向こうにも落ち度があると思うけど」
尊さんは私を見つめ、頬に流れた涙をチュッと吸う。
「でも……っ」
「『自分が悪かった』事にして、田村クンとまた付き合えるのか? 彼が仮にOKしても、お前は罪悪感を抱えたまま付き合う事になるんだぞ」
「~~~~っ、付き合わな……っぃ、……っ」
もう、私と昭人の道は分かたれてしまった。
この一年私が悲しみに明け暮れている間、昭人は重たい荷物を切り離して、ようやく自分の人生を歩み始めた。それを邪魔できない。
その時、尊さんが言った。