部長と私の秘め事
「えっ? 小牧さん、ヴァイオリン弾けるんですか?」
驚いて尋ねると、彼女は得意げに眉を上げる。
「一応音楽一家の端くれだからね。ピアノは勿論やったけど、それほど夢中になれなかったの。一回『ピアノ以外の楽器なら好きになれるかも』って手をつけたのがヴァイオリン」
そう言って、小牧さんは「お祖母ちゃん、ヴァイオリン借りるね」と言ってからリビングを出ていった。
「じゃあ、俺はチェロ担当しようかな」
さらにそう言ってリビングを出て行ったのは、大地さんだ。
(…………偉いこっちゃ)
まるで猫まんまに「トリュフとキャビアとフォアグラをのせます」と言われている気分だ。
(……もしかしたら上手い人の演奏に、私の下手さが紛れるかもしれない……)
せこい事を考えていると、弥生さんが挙手した。
「じゃあ私、上か下かどっちかやる。尊くんはどっちやる?」
「じゃあ、俺は下で」
「OK!」
私は百合さんに向かって深々と頭を下げる。
「……素晴らしい演奏の中に、雑音が混じってしまう事をお許しください」
すると百合さんは柔らかな笑みを浮かべた。
「音楽は音を楽しむものだわ。尊とセッションした事がないなら、これが初めてね」
「は、はい」
思わず尊さんの顔を見ると、彼は「ん?」と私を見て微笑む。
(……セッション。……せっしょん!)
これから演奏をしようとしているのに、私の脳裏に〝夜のセッション〟という言葉が浮かび上がる。おっさんか!
一瞬、春日さんとエミリさんの顔がチラついたけれど、首を横に振って追い払う。
(~~~~っ、だって! さっき尊さんがセクシーゾーン(腕)を見せつけてきたから!)
どうもこうも、脳内に彼の腕がチラついて堪らない。
というか真剣な顔でピアノを演奏する姿も見た事がなかったし、今日は知らない尊さんを沢山見ている。
彼がピアノを弾ける事は知っていたけれど、プロ顔負けの演奏を聴かされて絶賛惚れ直し中だ。
ただでさえベタ惚れなのに、これ以上好きになったらどうにかなってしまいそうだ。
(はぁ……、今日はセカンド尊さんメモリアルデーだ)
本当は転げ回って悶えたいぐらいときめいている私だが、速水邸にいるので全力で理性を総動員させて堪えている。
やがて小牧さんと大地さんが楽器を持って戻り、私は尊さんと弥生さんと一緒にピアノの側へ行った。
「朱里、真ん中座って」
「はい」
言われて横長の椅子に腰かけると、弥生さんがラの鍵盤を押した。
それに合わせて、小牧さんと大地さんが音を合わせていく。
これは……、オーケストラが始まる前にやる奴……!
そんな事をされるといよいよ緊張してしまい、「『猫踏んじゃった』ぐらいなら」と思っていたはずなのに、とても難しい曲に思えてきた。
「……あ、あの……」
おどおどしていると、尊さんがポンと背中を叩き、丸く撫でてくれる。
「最初から『みんなと合わせて完璧な演奏をしよう』なんて思わなくていい。朱里のペースで、朱里のリズムで自由に弾いていいんだ。皆、朱里の歩調に合わせて自由に参加していくから」
緊張していたのに、そう声を掛けられてフワッと気持ちが楽になった。
「じゃあ、いきます。間違えたらごめんなさい!」
私は学生時代の記憶を頼りに、黒鍵に指を滑らせた。
弾き始めると弥生さんが高い音で『猫踏んじゃった』の連弾用のメロディーをアレンジ付きで弾き始め、下では尊さんがジャズのリズムでベースを弾く。
すると大地さんがチェロでベースの補填をし、小牧さんが弥生さんと同じメロディーを、スピッカートやピチカートなど奏法を変えて陽気な雰囲気で飾っていった。
――なにこれ、楽しい。
私はただ普通に子供でもできる『猫踏んじゃった』を弾いているだけなのに、周りの神4がとても豪華に飾ってくれる。
まるで普段着で散歩しているだけなのに、サンバカーニバルがお供して、道には赤い絨毯が敷かれて花や紙吹雪が舞っている気持ちだ。
一回弾き終わろうとした時、尊さんが「もう少しテンポ上げられるか?」と尋ねてきた。
「はい!」
驚いて尋ねると、彼女は得意げに眉を上げる。
「一応音楽一家の端くれだからね。ピアノは勿論やったけど、それほど夢中になれなかったの。一回『ピアノ以外の楽器なら好きになれるかも』って手をつけたのがヴァイオリン」
そう言って、小牧さんは「お祖母ちゃん、ヴァイオリン借りるね」と言ってからリビングを出ていった。
「じゃあ、俺はチェロ担当しようかな」
さらにそう言ってリビングを出て行ったのは、大地さんだ。
(…………偉いこっちゃ)
まるで猫まんまに「トリュフとキャビアとフォアグラをのせます」と言われている気分だ。
(……もしかしたら上手い人の演奏に、私の下手さが紛れるかもしれない……)
せこい事を考えていると、弥生さんが挙手した。
「じゃあ私、上か下かどっちかやる。尊くんはどっちやる?」
「じゃあ、俺は下で」
「OK!」
私は百合さんに向かって深々と頭を下げる。
「……素晴らしい演奏の中に、雑音が混じってしまう事をお許しください」
すると百合さんは柔らかな笑みを浮かべた。
「音楽は音を楽しむものだわ。尊とセッションした事がないなら、これが初めてね」
「は、はい」
思わず尊さんの顔を見ると、彼は「ん?」と私を見て微笑む。
(……セッション。……せっしょん!)
これから演奏をしようとしているのに、私の脳裏に〝夜のセッション〟という言葉が浮かび上がる。おっさんか!
一瞬、春日さんとエミリさんの顔がチラついたけれど、首を横に振って追い払う。
(~~~~っ、だって! さっき尊さんがセクシーゾーン(腕)を見せつけてきたから!)
どうもこうも、脳内に彼の腕がチラついて堪らない。
というか真剣な顔でピアノを演奏する姿も見た事がなかったし、今日は知らない尊さんを沢山見ている。
彼がピアノを弾ける事は知っていたけれど、プロ顔負けの演奏を聴かされて絶賛惚れ直し中だ。
ただでさえベタ惚れなのに、これ以上好きになったらどうにかなってしまいそうだ。
(はぁ……、今日はセカンド尊さんメモリアルデーだ)
本当は転げ回って悶えたいぐらいときめいている私だが、速水邸にいるので全力で理性を総動員させて堪えている。
やがて小牧さんと大地さんが楽器を持って戻り、私は尊さんと弥生さんと一緒にピアノの側へ行った。
「朱里、真ん中座って」
「はい」
言われて横長の椅子に腰かけると、弥生さんがラの鍵盤を押した。
それに合わせて、小牧さんと大地さんが音を合わせていく。
これは……、オーケストラが始まる前にやる奴……!
そんな事をされるといよいよ緊張してしまい、「『猫踏んじゃった』ぐらいなら」と思っていたはずなのに、とても難しい曲に思えてきた。
「……あ、あの……」
おどおどしていると、尊さんがポンと背中を叩き、丸く撫でてくれる。
「最初から『みんなと合わせて完璧な演奏をしよう』なんて思わなくていい。朱里のペースで、朱里のリズムで自由に弾いていいんだ。皆、朱里の歩調に合わせて自由に参加していくから」
緊張していたのに、そう声を掛けられてフワッと気持ちが楽になった。
「じゃあ、いきます。間違えたらごめんなさい!」
私は学生時代の記憶を頼りに、黒鍵に指を滑らせた。
弾き始めると弥生さんが高い音で『猫踏んじゃった』の連弾用のメロディーをアレンジ付きで弾き始め、下では尊さんがジャズのリズムでベースを弾く。
すると大地さんがチェロでベースの補填をし、小牧さんが弥生さんと同じメロディーを、スピッカートやピチカートなど奏法を変えて陽気な雰囲気で飾っていった。
――なにこれ、楽しい。
私はただ普通に子供でもできる『猫踏んじゃった』を弾いているだけなのに、周りの神4がとても豪華に飾ってくれる。
まるで普段着で散歩しているだけなのに、サンバカーニバルがお供して、道には赤い絨毯が敷かれて花や紙吹雪が舞っている気持ちだ。
一回弾き終わろうとした時、尊さんが「もう少しテンポ上げられるか?」と尋ねてきた。
「はい!」