部長と私の秘め事
(無理に聞くのは良くないよね。困らせたくないし……。いつか話してくれる時がくるのかな)

 私は尊さんに抱きついたまま考え、溜め息をつく。

 心の中で「えいっ」と気合いを入れたあと、顔を合わせていないのをいい事に、思い切って聞いてみる事にした。

「……尊さん、私に隠し事してる?」

 尋ねると、彼は少し沈黙したあと静かに息を吐いて白状する。

「……あると言えばある」

「私は知らないほうがいい事?」

 さらに聞くと、尊さんはしばし黙ったあと、言いにくそうに返事をした。

「いずれ話す」

「…………はい、分かりました」

 私は小さな声で返事をする。

 こう言われてしまった以上、しつこく聞くのは厳禁だ。

 尊さんはいつも、私にとって最良の選択をしてくれる。

 だから彼がまだ話さないほうがいいと思っているなら、私は待つしかないんだ。

 とはいえ、隠し事をされて若干の落ち込んではいる。

 ギュッと抱きついたまま考えていると、彼は「ごめんな」と言って体を少し離し、見つめてくる。

「意地悪しているわけじゃないんだ。もしかしたら朱里を傷付けるかもしれないから、慎重に情報を見極めてから伝えたいと思ってる。……分かってくれるか?」

「……はい」

 丁寧に説明され、今度は素直に頷けたけれど、自分の子供っぽさが嫌になる。

(……でも、尊さんはいつでも私の事を考えてくれている。……ありがたいなぁ)

 指先で涙を拭うと、尊さんは困ったように笑った。

「泣くなよ」

「泣いてませんよ。目から汗が出たんです。デトックスです」

「ぶふっ」

 とっさに冗談を言うと、尊さんは噴き出す。

「お前はそういう女だよ」

「本当はちょっと落ち込んだんですけど、尊さんが私の事を考えてくれてるって分かったので、逆に感動したんです」

 正直に言うと、彼は小さく笑う。

「俺の頭の中は、朝から晩まで朱里の事ばかりだよ」

「朱里Aから朱里Zまで、ちっちゃいのが色んな事をしてるんですね」

「ちょっと待て。そうなると妄想が追い付かない。勝手に頭の中で暴れてそうだ」

 尊さんは明るく笑い、親指と人差し指とで十センチぐらいの隙間を作り、その空間をジーッと見て小さな朱里を妄想する。

「…………可愛いな……」

「やだもう。冗談ですって。本物がここにいるんですから、本物を可愛がってください」

 そう言うと、尊さんは私をジッと見たあとに「よし」と立ちあがった。

「猫洗い開始!」

「スイッチ入った!」

「そーら、洗うぞ!」

 尊さんは私を抱えて洗い場に立ち、シャワーで椅子を流したあと、そこに私を座らせた。

 そしてヘアクリップを取り、目の粗いブラシで丁寧に私の髪を梳いたあと、俯かせてから頭にシャワーをかけてきた。

 丁寧に優しく湯洗いしてもらえるのが気持ちよく、私は目を閉じてされるがままになる。

「……尊さんのお風呂屋さん、気持ちいいですね。お金取れるかも」

「………………〝お風呂屋さん〟って微妙な仕事になりそうだから、名称について再検討してくれ」

「えー。部長厳しい」

 尊さんはたわいのない話をしながらしっかり私の頭を湯洗いし、シャンプーを手に取って泡立ててからシャクシャクと髪を洗っていく。

「……気持ちいい……」

「痒い所はございませんか?」

「…………背中」

「そっちかよ」

 尊さんは笑いながら、一応背中を掻いてくれる。

 尊さんはシャワーで泡を流し、次にトリートメントを毛先から髪に馴染ませ、目の粗い櫛で梳かす。

 それからいつも私がお風呂の中で使っている、インバス用のヘアアイロンを使って、トリートメントを髪に浸透させていく。

 終わるとヘアクリップで髪を纏め、もう一度体にシャワーを掛けてからボディソープを手に取った。

「ん……」

 背中をヌルヌルと素手で洗われ、私は思わず声を漏らす。
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