部長と私の秘め事

四人での女子会

 翌朝、二人でいつものようにご飯を食べたあと、私は女子合コンにいくために先に家を出る事にした。

 服装は黒のキャミソールの上にシースルーシャツを着て、ボトムは鮮やかなライトブルーのフレアマキシスカート、冷えた時のためにジージャン。

 髪は尊さんからもらった、アレクサンドルドゥパリのクリップでハーフアップにし、足元はレースのシースルーソックスに、ストラップのついたVカットパンプスを履いた。

 メイクは青み系ピンクで透明感のある雰囲気にして、ボルドーのマスカラを塗った。

「いってらっしゃい。気をつけてな」

「はい」

 元気よく返事をすると、まだ家着のままの尊さんは腕を組んで私をジーッと見てくる。

「……なんです?」

 目を瞬かせて尋ねると、彼は眉間に皺を寄せて言った。

「ナンパされんなよ」

「んー? 妬いてますか?」

 ニヤニヤ笑うと、尊さんが私のほっぺをモチモチ弄んでくる。

「キスするぞ」

「だっ、駄目っ」

 コンシーラーで唇の輪郭を消して、下地から丁寧にやったのに、崩されたらまたやり直しだ。

 一歩引くと尊さんは溜め息をつき、壁にもたれ掛かるとジト目で私を見る。

「……首にキスマークでもつけようかな」

「そっ、それも駄目っ」

 上目遣いに尊さんを睨むと、彼もしばし私を見つめ返してから、「ちょっちょっちょ」と口を鳴らして指で私を呼び寄せようとする。

「だから猫じゃないですって!」

 突っ込むと、彼は「駄目か」と破顔した。

「ま、ホントに気をつけてな。なんならハイヤー呼んでもらって目的地まで行ったほうが……」

「セレブじゃないんですから。恵と最寄り駅で待ち合わせしてますし」

「はぁ……」

 尊さんは乗り気じゃなさそうに溜め息をつく。

「痴漢に遭ったから交通機関を使わせたくないの分かりますけど、そうそう同じ目に遭いませんから」

 彼の気持ちを汲んで言ったけれど、余計に心配そうな顔をさせてしまった。

「……じゃあ、痴漢にも遭わず、ナンパもされずに帰ったら、ミニスカ穿いて尊さんの顔を跨いであげます」

「どこのガールズバーだよ」

 尊さんは思わず突っ込んだけれど、まんざらでもない顔をしている。

「期間限定のプライベートガールズバー、『夜のアカリン』今夜オープンします」

「…………くそー……」

 尊さんは毒づいてから「乗った」と頷いた。

「じゃあ、行ってきます」

 ニコッと笑って手を振ると、尊さんが溜め息をついて言った。

「……最近、小悪魔度が上がってないか?」

「小悪魔のつもりはないですけど……」

「……まぁいい。遅れるからいってらっしゃい」

「はい、行ってきます! 尊さんも気をつけてくださいね」

 そして、今度こそ家を出た私は、エレベーターに乗って地上まで下り、広い敷地を抜けて最寄り駅の麻生十番駅に行き、南北線と銀座線を乗り継いで外苑前駅に向かった。

 今回の〝春日飯〟は青山にあるイタリアンらしい。

 三十分少しで着くけれど、レストランの近くに青山霊園があるので、こっそり速水家のお墓にお参りしようと思って早めに家を出た。

 そう伝えると恵も『付き合うよ』と言ってくれ、二人でお墓参りをすると決めたのだ。

 速水家のお墓なので、結婚前の私が友達と行っても……と思ったけれど、結婚すれば親戚になるし、速水家の皆さんにも受け入れてもらえたのでよしとした。

 尊さんに言うべきか迷ったけれど、言ったら気を遣わせそうなので、黙っておく事にする。

(別に悪い事じゃないしね)

 自分に言い聞かせ、私は尊さんの〝用事〟に思いを馳せて溜め息をついた。



**



「おはよ」

「おはよう」

 約束の十時半に外苑前駅で恵と合流し、お花屋さんで仏花を買ってから公園のように広い墓地内を歩く。

 ちょうど桜の時期で、霊園内には桜の並木ができていた。

 それを写真に収める人たちもいて、ここが墓地という事を忘れるほどだ。

「丸木さんは社員だからまぁいいけど、春日さんって人はお嬢様でしょ? パンピーの私、虐められない?」

 ツイードジャケットに白シャツ、黒いテーパードパンツ姿の恵が言い、私は「まさか」と笑う。
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