部長と私の秘め事
「凄くいい人だよ。確かに三ノ宮グループのお嬢様って聞いたら、異世界の人に思えるけど、話してみたらすごくフレンドリーで面白いよ。……っていうか、酔ったらおっさんになって凄い」

「マジか……。お嬢様がおっさんって想像できない」

 呟いてから、恵はスルリと腕を組んできた。

「ん?」

 キョトンとして恵を見ると、彼女は溜め息をついて私に寄りかかってくる。

「朱里が『いい人』って紹介してくれるなら、私も仲良くなりたい。……でも、私の事も大事にしてね。朱里の一番の親友は私って思っていたいから」

 嫉妬してくれる恵の気持ちを知った私は、立ち止まるとギュッと彼女を抱き締めた。

「恵は恵で、誰も代わりになれないんだよ。あなたは私の事を一番分かってくれている親友です。安心して」

 彼女を見つめて微笑みかけると、恵は「うん」と頷いた。

 そのあと、私たちはバケツに水を汲んで、掃除に必要な物など一式を持ち、速水家のお墓に向かう。

 恵が箒で掃除をしてくれている間、私はエコバッグに入れてきた雑巾で丁寧にお墓を拭く。

 お花を生けて蝋燭に火をつけ、途中で買った大福をお供え物にし、線香の煙がくゆるなかお参りした。

 恵は「私は部外者だから」と言って、少し離れた所で立ったまま手を合わせるに留めた。






「付き合ってくれてありがとうね」

 霊園を出てレストランに向かって歩いていると、予約時間の十分前には着きそうで、いい感じだ。

「全然いいよ。でも、速水家の人たちと和解できて良かったね。篠宮家のほうも元経理部長のアレがあるなら強く出られないだろうし、これで安泰だ」

「そうだね。反対されないっていうのは凄く安心する」

 初めて彼の家族に紹介された時は、怜香さんにこき下ろされて散々だったけれど、今は色々あって落ち着いている。

「結婚式の会場とか、ドレスとか見当つけてるの?」

「いやー、まだかな。時間が空いた時にネットで検索して、実際に下見する所を探してみてるけど」

「いい所は競争率高いと思うし、早めに決めておきなって。ドレスは買うの? 部長……もとい副社長ならレンタルしなさそう。オーダーメイドで作るとか」

「あー、それも考えてなかったな。……でもウエディングドレスって一回しか着ないのに、オーダーメイドで作るってコスパ悪くない?」

「そう考えるのは分かるけど、あのスパダリ副社長はそう簡単に許してくれないと思うけどな……。篠宮会長の奥さんにも気に入られてるんでしょ? 小耳に挟んだけど、セレブって母親とか祖母とかがつけていたジュエリーや着物とかを譲るんだって。ほら、海外のロイヤルファミリーでも、ティアラを譲るとかあるじゃん」

「あぁ、確かに」

「つい新しい物に目がいきがちだけど、いい物を譲り受けるのもアリなのかもよ。そういうマダムたちって、新しく家に入る嫁に何かしたがるだろうし」

 そう言われて、あり得なくはないと思った。

 速水家の百合さんも、篠宮家の琴絵さんもとても友好的だ。

 なんなら、ちえりさん辺りも色々協力してくれそうな気がする。

 その時、脳内にふわっと母が「お母さんの面目丸つぶれ!」と悲しんでいる姿が浮かび、ちょっと笑ってしまう。

(結婚の挨拶に行ってから会ってないから、たまに顔出さないとな。亮平と美奈歩も元気かな)

 以前は亮平がちょくちょくマンションに来ていたけれど、尊さんと住むようになってからは、自分が心配する必要はないと思ったのか、以前のように頻繁に連絡をよこす事はなくなった。

 色々あって寄り道をしたけれど、私たちは着実に進んでいる。

(前にお墓参りに来た時は、まだ桜が咲いてなかったから、尊さんを誘ってまたお墓参りに来ようかな)

 私は色んな所でチラチラと見える桜を目にして微笑み、恵の手をギュッと握った。

「とりあえず、ドレスに迷うって女子の夢の気がするし、今度一緒に何が似合うか考えてくれない?」

「勿論!」

 私たちは笑い合ったあと、繋いだ手を揺らしてレストランに向かった。



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