部長と私の秘め事
「涼さんって自分の短所はどこだと思いますか?」
「え?」
彼はベッドに座ったあと、ヘッドボードに寄りかかって少し考える。
「基本的に他人に興味がないところかな。だからよく人を怒らせる」
こんなに気遣いできて優しい彼が、人を怒らせているところなんて想像できない。
「……た、たとえばどんなふうに?」
「うーん……。女友達が彼氏の愚痴を言っていても、二割ぐらいしか聞いてない。『ふーん』『ひどいね』ぐらいしか相槌を打たないし、あとから『聞いてなかったでしょ』って言われたら『聞いてなかった』って言う。それで怒られるけど、向こうも話すだけ話してタダ飯食えるならいいんじゃないかな」
「はぁ……」
女友達、いるんだ。
そう思ったのを察してか、涼さんは肩をすくめて言う。
「大体の男友達に対しても同じだし、なんなら母や姉、妹に対しても同じだよ。仕事でも不必要な事は聞かない」
「逆聖徳太子みたいですね」
「あはは! 確かに。聞きながらフィルターにかけて、興味のある話かを判断してるところはあるかも」
「話半分に聞いてて分かるんですか?」
「文頭に『だってね』とか『だからさー』とかつくと、大体愚痴だったり同じ事の繰り返しが多いから、そういう時は聞き流してるかな。あとは、話を聞いててポイントになる単語がヒュッと浮かび上がるから、それを押さえておけば要点は分かる」
「わぁ……。涼さんって子供の頃から勉強できすぎじゃなかったです?」
「よく分かるね。教師には嫌われてたな。『教える範囲外の事をするな』とか『教科書以外の物を読むな』とか。教科書はパラッと読んだら理解できる事ばっかりだったし、他の本を持ち込んだら怒られたから、サボって保健室か図書室に行ってたかな。友達とも話が合わなかったし、子供の頃はキツかったな。まぁ、学校が終わったら面白い大人と話してたけど」
「あー……」
「そういうタイプだったんだ」と思うと物凄く納得した。
「ただ、研究者タイプではなかったから、海外の大学に行って専門分野を学ぶ道にはすすまなかった。どう足掻いても会社を継ぐのは決まっていたし、お気楽な大学生活だったかな。……でも色んな本を読んで興味の幅を広げ、映画や音楽、舞台を観賞して人の心を学ぼうとした。そうじゃないと仕事で詰みそうだったし」
「それ、人類が滅んだあとの世界で、取り残されたロボットが人の心を理解しようとしてやるやつだ」
「あはは! 確かに!」
涼さんは明るく笑い、私の話をちゃんと聞こうと耳からイヤフォンをとる。
私はアルコーヴベッドに座り、遠慮がちに尋ねた。
「……じゃあ、ますます私みたいな凡人はつまらなくないですか? 私、自分の事を、涼さんみたいな特別な人に興味を持たれる存在だと思えません」
そう言うと、涼さんは腕組みをして考えた。
「……この辺はうまく説明できないんだけど……。印象と感覚、感情の問題なんだよね。確かに恵ちゃんは申し訳ないけど普通だ。でも俺は色んな人と会ってきて、初対面でその人とどういう関係になるかすぐ理解する。ほとんどの人は俺を頼ろうとするけど、恵ちゃんはそういう面をまったく見せないし、……塩味のストレートプレッツェル?」
「はい?」
突然訳の分からない事を言われ、私は聞き返す。
「恵ちゃんって、まっすぐな印象なんだよ。他の人は水飴みたいにこっちの領域に侵入して、ベタベタ体にくっついてくる。でも恵ちゃんは目の前でスッと立っていて、そこからこっちに侵入して来ない。だから安心して対峙できるんだ」
「……はぁ、よく分かりません」
頭のいい人の言う事って、時々とても抽象的だ。独自の世界観があるんだろうな。
「……でも、ベタベタした関係が嫌いなのは分かったので、適度な距離を保てるよう気をつけますね」
そう言うと、涼さんは少し焦ったように言った。
「いや、そうじゃない。恵ちゃんは素がそれだから、頼られても嫌じゃないんだ。君はそのままでいいよ」
私は自分には〝女らしさ〟が不足していると思っていたので、「そのままでいい」と言われて少し楽になった。
私は朱里という〝理想〟を知っているから、自分の中で〝素敵な女性〟と言えば彼女を思い浮かべるようになっていた。
髪が長くて芸能人顔負けの美人で、胸が大きくて性格も可愛らしい。
自分とはかけ離れたタイプだから、余計に朱里に憧れ、彼女の側にいたいと願うようになっていた。
なのに、色気の欠片もない私を「いい」という人がいるなんて、とても不思議だ。
「涼さんって変な人ですね。さすがゲテモノ好き」
冗談のつもりで言ったけれど、彼はスッと真顔になった。
「え?」
彼はベッドに座ったあと、ヘッドボードに寄りかかって少し考える。
「基本的に他人に興味がないところかな。だからよく人を怒らせる」
こんなに気遣いできて優しい彼が、人を怒らせているところなんて想像できない。
「……た、たとえばどんなふうに?」
「うーん……。女友達が彼氏の愚痴を言っていても、二割ぐらいしか聞いてない。『ふーん』『ひどいね』ぐらいしか相槌を打たないし、あとから『聞いてなかったでしょ』って言われたら『聞いてなかった』って言う。それで怒られるけど、向こうも話すだけ話してタダ飯食えるならいいんじゃないかな」
「はぁ……」
女友達、いるんだ。
そう思ったのを察してか、涼さんは肩をすくめて言う。
「大体の男友達に対しても同じだし、なんなら母や姉、妹に対しても同じだよ。仕事でも不必要な事は聞かない」
「逆聖徳太子みたいですね」
「あはは! 確かに。聞きながらフィルターにかけて、興味のある話かを判断してるところはあるかも」
「話半分に聞いてて分かるんですか?」
「文頭に『だってね』とか『だからさー』とかつくと、大体愚痴だったり同じ事の繰り返しが多いから、そういう時は聞き流してるかな。あとは、話を聞いててポイントになる単語がヒュッと浮かび上がるから、それを押さえておけば要点は分かる」
「わぁ……。涼さんって子供の頃から勉強できすぎじゃなかったです?」
「よく分かるね。教師には嫌われてたな。『教える範囲外の事をするな』とか『教科書以外の物を読むな』とか。教科書はパラッと読んだら理解できる事ばっかりだったし、他の本を持ち込んだら怒られたから、サボって保健室か図書室に行ってたかな。友達とも話が合わなかったし、子供の頃はキツかったな。まぁ、学校が終わったら面白い大人と話してたけど」
「あー……」
「そういうタイプだったんだ」と思うと物凄く納得した。
「ただ、研究者タイプではなかったから、海外の大学に行って専門分野を学ぶ道にはすすまなかった。どう足掻いても会社を継ぐのは決まっていたし、お気楽な大学生活だったかな。……でも色んな本を読んで興味の幅を広げ、映画や音楽、舞台を観賞して人の心を学ぼうとした。そうじゃないと仕事で詰みそうだったし」
「それ、人類が滅んだあとの世界で、取り残されたロボットが人の心を理解しようとしてやるやつだ」
「あはは! 確かに!」
涼さんは明るく笑い、私の話をちゃんと聞こうと耳からイヤフォンをとる。
私はアルコーヴベッドに座り、遠慮がちに尋ねた。
「……じゃあ、ますます私みたいな凡人はつまらなくないですか? 私、自分の事を、涼さんみたいな特別な人に興味を持たれる存在だと思えません」
そう言うと、涼さんは腕組みをして考えた。
「……この辺はうまく説明できないんだけど……。印象と感覚、感情の問題なんだよね。確かに恵ちゃんは申し訳ないけど普通だ。でも俺は色んな人と会ってきて、初対面でその人とどういう関係になるかすぐ理解する。ほとんどの人は俺を頼ろうとするけど、恵ちゃんはそういう面をまったく見せないし、……塩味のストレートプレッツェル?」
「はい?」
突然訳の分からない事を言われ、私は聞き返す。
「恵ちゃんって、まっすぐな印象なんだよ。他の人は水飴みたいにこっちの領域に侵入して、ベタベタ体にくっついてくる。でも恵ちゃんは目の前でスッと立っていて、そこからこっちに侵入して来ない。だから安心して対峙できるんだ」
「……はぁ、よく分かりません」
頭のいい人の言う事って、時々とても抽象的だ。独自の世界観があるんだろうな。
「……でも、ベタベタした関係が嫌いなのは分かったので、適度な距離を保てるよう気をつけますね」
そう言うと、涼さんは少し焦ったように言った。
「いや、そうじゃない。恵ちゃんは素がそれだから、頼られても嫌じゃないんだ。君はそのままでいいよ」
私は自分には〝女らしさ〟が不足していると思っていたので、「そのままでいい」と言われて少し楽になった。
私は朱里という〝理想〟を知っているから、自分の中で〝素敵な女性〟と言えば彼女を思い浮かべるようになっていた。
髪が長くて芸能人顔負けの美人で、胸が大きくて性格も可愛らしい。
自分とはかけ離れたタイプだから、余計に朱里に憧れ、彼女の側にいたいと願うようになっていた。
なのに、色気の欠片もない私を「いい」という人がいるなんて、とても不思議だ。
「涼さんって変な人ですね。さすがゲテモノ好き」
冗談のつもりで言ったけれど、彼はスッと真顔になった。