部長と私の秘め事
「そういう事を言わないでほしいな」
「え」
雰囲気が変わったので、私は「まずい事を言ったかな」と焦る。
涼さんはヘッドボードにもたれかかっていた上体を起こし、ベッドの上で胡座をかいて言う。
「恵ちゃんは十分魅力的だ。今まで男と縁がなかったのは、恵ちゃんが望んでいなかったからじゃないの? 可愛いし、告白されたり『付き合おう』とは言われたでしょ」
すぐ別れてしまったけど、確かに元彼と言える人は一応いたので、おずおずと頷く。
「男女関係ってタイミングだ。どれだけ魅力的でも、本人に付き合う気がなかったり、恋をする気持ちになれていなかったら縁がない。……俺もある意味ゲテモノだけど、その気になったら付き合えていた。でも、興味を持たなかった。その意味では俺たち一緒だと思うんだ」
美貌の御曹司に「同じ」と言われ、私はカーッと赤面する。
「俺たちは今、ビビッときて縁ができた。人の縁っていうものが目に見えない線みたいなものなら、その先端が今この辺でカチッと嵌まってるのかな」
そう言って、涼さんは私と彼の間にある空間を指さした。
「この縁を大切にしよう。色々、やってみないと分からない事は多くあるけど、慎重に試していく価値はあると思う」
「……そう、ですね」
いつになくしおらしくなった私は頷くと、照れ隠しのために着替えを持って立ちあがった。
「お、遅くなるのでシャワー入ります」
「うん、いってらっしゃい」
ニコッと笑った涼さんは、約束通りまたイヤフォンを耳に入れ、スマホに目を落とした。
そんな彼をチラッと見た私は、そそくさと洗面所に入り、ドアの外を意識しながら服を脱ぎ始める。
服を脱いだ私は、メイクを落としてから大きな鏡に映った自分を見た。
ちょっと強気そうだけど平凡な顔。活発そうな前下がりボブ。体はスレンダーと言えば聞こえがいいけど、女性らしい丸みがあまりない。
胸に触ってみるけれど、骨格ナチュラルのBカップはささやかなものだ。
下着売り場のお姉さんに見てもらって、一番フィットする下着をつけているけれど、谷間とは縁が遠い。
朱里の下着姿を初めて見た時は、魅力的な谷間に感動したぐらいだ。
(……失望されそう)
溜め息をついた私は、生まれて初めて「胸が大きかったらいいのに」と願った。
(……朱里って美胸のために色々やってるって言ってたっけ。……秘訣聞いてみようかな。胸が大きくなるクリームってあるんだろうか)
私は悶々とそんな事を考えながら、バスルームに入った。
私は考え事をしながらサッと髪と体を洗い、脱衣所を出る。
雰囲気のあるバスルームだけれど、お湯を貯めると時間がかかってしまうのでやめた。
フェイスケアをしてドライヤーで髪を乾かしていると、「湯上がりの姿を涼さんに見られるのか……」とジワジワ頬が赤くなっていく。
今回は朱里と一緒に泊まる予定だったので、彼女とお揃いで買ったパジャマを持ってきた。
二人で「お揃い」と言ってキャッキャする予定だったのに、……どうしてこうなった。
すべて終えたあと、私は最後にもう一度鏡を見てサッサッと髪を整え、咳払いをしつつ洗面所を出た。
涼さんと目を合わせられず、私はミニバーに入っているお水を取って窓際まで行くと、ランドのほうを見ながらゴッゴッゴッ……と腰に手を当てて飲む。
ランドの雰囲気を楽しみたいからカーテンを開けっぱなしにしていて、チラッと窓に反射した涼さんを見ると、先ほどと変わらない体勢でスマホを見ていた。
(……なんか言わないと……、間が持たないな……)
ペットボトルを持ったまま窓の外を見て考えていると、涼さんが声を掛けてきた。
「明日、何楽しみにしてる?」
「えっ? ……あ、船のやつとか、ゴンドラとか……。あと地味に、亀がしゃべる奴見たいです。テレビで見てたので。でも自分はいいので人が話してるのを見たいだけ。あとはフリーフォールのとか」
「楽しみだね。俺も滅多に来ないから、思いきり楽しみたい」
「は、はい」
時刻を確認すると、もう二十三時過ぎだ。
早朝からレストランに向かう事を考えたら、早めに寝ないとならない。
「電気、消しても大丈夫ですか?」
「ああ。なんかあった時のため、洗面所はつけておこうか」
そう言って涼さんは洗面所の電気をつけると、またベッドに戻って照明を落とす。
「おやすみ、恵ちゃん」
「おやすみなさい」
男の人と、同じ部屋で「おやすみ」を言うなんて思ってもみなかった。
(……いびきかいちゃったらどうしよう。……いや、歯ぎしりとかおならとか……)
寝てる間の事ってまったく分からないから、普段の自分がどうなのかまったく分からない。
朱里とお泊まりしている時は何も言われないけど、そもそもあの子はスヤスヤと健やかに寝る子なので、多分何も気にしてない。
そんな事を考えていたら、ドキドキして緊張してしまい、何回も溜め息をつく羽目になる。
何度か寝返りを打ったあと、私は少しでも自分の体から漏れる音を防ごうと、涼さんに背を向けて頭まで布団を被った。
**
「え」
雰囲気が変わったので、私は「まずい事を言ったかな」と焦る。
涼さんはヘッドボードにもたれかかっていた上体を起こし、ベッドの上で胡座をかいて言う。
「恵ちゃんは十分魅力的だ。今まで男と縁がなかったのは、恵ちゃんが望んでいなかったからじゃないの? 可愛いし、告白されたり『付き合おう』とは言われたでしょ」
すぐ別れてしまったけど、確かに元彼と言える人は一応いたので、おずおずと頷く。
「男女関係ってタイミングだ。どれだけ魅力的でも、本人に付き合う気がなかったり、恋をする気持ちになれていなかったら縁がない。……俺もある意味ゲテモノだけど、その気になったら付き合えていた。でも、興味を持たなかった。その意味では俺たち一緒だと思うんだ」
美貌の御曹司に「同じ」と言われ、私はカーッと赤面する。
「俺たちは今、ビビッときて縁ができた。人の縁っていうものが目に見えない線みたいなものなら、その先端が今この辺でカチッと嵌まってるのかな」
そう言って、涼さんは私と彼の間にある空間を指さした。
「この縁を大切にしよう。色々、やってみないと分からない事は多くあるけど、慎重に試していく価値はあると思う」
「……そう、ですね」
いつになくしおらしくなった私は頷くと、照れ隠しのために着替えを持って立ちあがった。
「お、遅くなるのでシャワー入ります」
「うん、いってらっしゃい」
ニコッと笑った涼さんは、約束通りまたイヤフォンを耳に入れ、スマホに目を落とした。
そんな彼をチラッと見た私は、そそくさと洗面所に入り、ドアの外を意識しながら服を脱ぎ始める。
服を脱いだ私は、メイクを落としてから大きな鏡に映った自分を見た。
ちょっと強気そうだけど平凡な顔。活発そうな前下がりボブ。体はスレンダーと言えば聞こえがいいけど、女性らしい丸みがあまりない。
胸に触ってみるけれど、骨格ナチュラルのBカップはささやかなものだ。
下着売り場のお姉さんに見てもらって、一番フィットする下着をつけているけれど、谷間とは縁が遠い。
朱里の下着姿を初めて見た時は、魅力的な谷間に感動したぐらいだ。
(……失望されそう)
溜め息をついた私は、生まれて初めて「胸が大きかったらいいのに」と願った。
(……朱里って美胸のために色々やってるって言ってたっけ。……秘訣聞いてみようかな。胸が大きくなるクリームってあるんだろうか)
私は悶々とそんな事を考えながら、バスルームに入った。
私は考え事をしながらサッと髪と体を洗い、脱衣所を出る。
雰囲気のあるバスルームだけれど、お湯を貯めると時間がかかってしまうのでやめた。
フェイスケアをしてドライヤーで髪を乾かしていると、「湯上がりの姿を涼さんに見られるのか……」とジワジワ頬が赤くなっていく。
今回は朱里と一緒に泊まる予定だったので、彼女とお揃いで買ったパジャマを持ってきた。
二人で「お揃い」と言ってキャッキャする予定だったのに、……どうしてこうなった。
すべて終えたあと、私は最後にもう一度鏡を見てサッサッと髪を整え、咳払いをしつつ洗面所を出た。
涼さんと目を合わせられず、私はミニバーに入っているお水を取って窓際まで行くと、ランドのほうを見ながらゴッゴッゴッ……と腰に手を当てて飲む。
ランドの雰囲気を楽しみたいからカーテンを開けっぱなしにしていて、チラッと窓に反射した涼さんを見ると、先ほどと変わらない体勢でスマホを見ていた。
(……なんか言わないと……、間が持たないな……)
ペットボトルを持ったまま窓の外を見て考えていると、涼さんが声を掛けてきた。
「明日、何楽しみにしてる?」
「えっ? ……あ、船のやつとか、ゴンドラとか……。あと地味に、亀がしゃべる奴見たいです。テレビで見てたので。でも自分はいいので人が話してるのを見たいだけ。あとはフリーフォールのとか」
「楽しみだね。俺も滅多に来ないから、思いきり楽しみたい」
「は、はい」
時刻を確認すると、もう二十三時過ぎだ。
早朝からレストランに向かう事を考えたら、早めに寝ないとならない。
「電気、消しても大丈夫ですか?」
「ああ。なんかあった時のため、洗面所はつけておこうか」
そう言って涼さんは洗面所の電気をつけると、またベッドに戻って照明を落とす。
「おやすみ、恵ちゃん」
「おやすみなさい」
男の人と、同じ部屋で「おやすみ」を言うなんて思ってもみなかった。
(……いびきかいちゃったらどうしよう。……いや、歯ぎしりとかおならとか……)
寝てる間の事ってまったく分からないから、普段の自分がどうなのかまったく分からない。
朱里とお泊まりしている時は何も言われないけど、そもそもあの子はスヤスヤと健やかに寝る子なので、多分何も気にしてない。
そんな事を考えていたら、ドキドキして緊張してしまい、何回も溜め息をつく羽目になる。
何度か寝返りを打ったあと、私は少しでも自分の体から漏れる音を防ごうと、涼さんに背を向けて頭まで布団を被った。
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