部長と私の秘め事
風磨、エミリと食事
「兄貴の恋人として、プライベートでも付き合いがあるだけだ。妬くなよ」
私はブスッとふてくされ、パフェの残りをスプーンですくう。
「いい奴だし、美人だ。気も利くし、男を愛したら一途だ」
「ほう、随分評価してますね」
私は半眼になって尊さんの言葉をあしらう。
「……おい。兄貴の恋人を特別視してるなんて思うなよ? 継母に見合いの話を持ち込まれても、『アホか』と思っただけだし、本当になんとも思ってない」
「ふ、ふーん……」
少し嬉しくなんてなってない。うわずった声にもなってない。
「だから喧嘩売るなよ?」
「売りませんよ! 人の事を何だと思ってるんですか」
「お前、割と勢いでなんでもやっちゃうから……」
「しみじみと言わないでくださいよ。……今、上司として色々思いだしてるでしょ。それもやめてください」
私が本気で嫌がると、尊さんは横を向いてクツクツと笑った。
**
十二月四週目の平日夜、風磨さんとエミリさんに会う事になった。
尊さんとエミリさんの縁談が正式に破棄されたかは、まだ分からない。
でも尊さんの話を纏めると、怜香さんが一方的に二人を結婚させると言っているだけで、当の本人たちはまったくその気がなかった。
だから、縁談と言えるものじゃなかったんだろう。
もしかしたら社長夫人として圧力を掛けていたかもしれないけど、エミリさんには風磨さんがいるし、社長も気持ちのない縁談には反対していた。
多分、怜香さんは篠宮家の中で孤立してるんだろう。
でも亘さんは彼女の尻に敷かれている雰囲気があった。
怜香さんを納得させるには、そのパワーバランスをひっくり返す必要がある。
私たちはそれらの対策や、今後の事を考えるために、四者で食事をする事にした。
着る物に悩んでいたら尊さんに『それほどきちんとした格好でなくてもいい』と言われた。
でもプライベートとはいえ副社長と会うので、綺麗めの服を選んだ。
どこのお店かは聞かされていなかったけど、デリケートな話をするなら個室のある落ち着いたお店になるだろう。
食事会は仕事が終わったあとなので、私はベージュのニットアンサンブルに、テラコッタカラーのセンタープレスパンツを穿いて出勤した。
尊さんとはただの上司と部下として過ごし、それぞれ別の時間に退勤する。
そのあと、中目黒駅に集合だ。
私は交通機関を使って向かったけど、尊さんは多分ハイヤーだろう。セレブめ。
中目黒駅に着くと、改札を出たところでダークスーツにグレーのコート、えんじ色のマフラーを巻いた尊さんが立っていて、私を見ると「おう」と片手を挙げた。
……やっぱり顔がいい……。
あと、遠目から見たシルエットがいいし、一見めちゃいい男だ。
周囲には待ち合わせの人が大勢いて、若い女性たちは尊さんをチラチラ気にしている。
けど彼が私に声を掛けると「女つきかよ」と一気に冷めた目になった。面白い。
そのあと、私たちは歩いて少しの距離にあるイタリアンレストランに向かった。
通されたのは個室で、そこにはすでに風磨さんと彼女――エミリさんがいた。
「初めまして」
彼女は私たちの姿を見て、サッと立ちあがった。
「初めまして。商品開発部、企画三課の上村朱里です」
私はエミリさんにペコリと頭を下げ、風磨さんにも会釈した。
エミリさんはロングヘアにパーマをかけた、華やかな印象の美女だ。
身長は百六十五センチ以上はありそうで、スラッとしてスタイルがいい。
ぱっちりと目が大きくて芸能人みたいなオーラがあり、素材を生かしたナチュラルメイクを施している。
明るくて社交的なオーラを醸し出し、滅多にお目にかかれない美人だけど、親しみやすさがあった。
加えて、第一印象で「やな感じ」がまったくしなかった。
「容姿に恵まれて仕事ができて、性格までいいなんて……」と思いがちだけれど、世界にはそれらを備えた人がいる。
(完璧だなぁ……)
これなら副社長が惹かれてもおかしくないし、こんな秘書が側にいたら誰だって恋に落ちるだろう。
(尊さんはこんな美女とお見合いするはずだったのか……)
チラッと彼を盗み見するとバチッと目が合ってしまい、尊さんはニヤッと笑って私の頭を撫でてきた。
(……考えてる事、筒抜けだったかもしれない)
尊さんには『心配するな』って言われたし、風磨さんとエミリさんはラブラブだ。
なのに私だけ嫉妬してるのは恥ずかしい。
「とりあえず座って。今日は来てくれてありがとう」
風磨さんに言われ、私は赤面しながらテーブルにつく事にした。
飲み物をオーダーしたあと、風磨さんが切りだした。
「二人とも、先日はすまなかった」
「いいえ、終わった事ですし」
「いつもの事だろ」
風磨さんは私たちの返事を聞き、安堵した表情になる。
そのあと、尊さんがエミリさんに尋ねた。
「俺たちの縁談? は破談でいいな? 当人同士の合意だ」
彼は「縁談」を半笑いで言う。
私はブスッとふてくされ、パフェの残りをスプーンですくう。
「いい奴だし、美人だ。気も利くし、男を愛したら一途だ」
「ほう、随分評価してますね」
私は半眼になって尊さんの言葉をあしらう。
「……おい。兄貴の恋人を特別視してるなんて思うなよ? 継母に見合いの話を持ち込まれても、『アホか』と思っただけだし、本当になんとも思ってない」
「ふ、ふーん……」
少し嬉しくなんてなってない。うわずった声にもなってない。
「だから喧嘩売るなよ?」
「売りませんよ! 人の事を何だと思ってるんですか」
「お前、割と勢いでなんでもやっちゃうから……」
「しみじみと言わないでくださいよ。……今、上司として色々思いだしてるでしょ。それもやめてください」
私が本気で嫌がると、尊さんは横を向いてクツクツと笑った。
**
十二月四週目の平日夜、風磨さんとエミリさんに会う事になった。
尊さんとエミリさんの縁談が正式に破棄されたかは、まだ分からない。
でも尊さんの話を纏めると、怜香さんが一方的に二人を結婚させると言っているだけで、当の本人たちはまったくその気がなかった。
だから、縁談と言えるものじゃなかったんだろう。
もしかしたら社長夫人として圧力を掛けていたかもしれないけど、エミリさんには風磨さんがいるし、社長も気持ちのない縁談には反対していた。
多分、怜香さんは篠宮家の中で孤立してるんだろう。
でも亘さんは彼女の尻に敷かれている雰囲気があった。
怜香さんを納得させるには、そのパワーバランスをひっくり返す必要がある。
私たちはそれらの対策や、今後の事を考えるために、四者で食事をする事にした。
着る物に悩んでいたら尊さんに『それほどきちんとした格好でなくてもいい』と言われた。
でもプライベートとはいえ副社長と会うので、綺麗めの服を選んだ。
どこのお店かは聞かされていなかったけど、デリケートな話をするなら個室のある落ち着いたお店になるだろう。
食事会は仕事が終わったあとなので、私はベージュのニットアンサンブルに、テラコッタカラーのセンタープレスパンツを穿いて出勤した。
尊さんとはただの上司と部下として過ごし、それぞれ別の時間に退勤する。
そのあと、中目黒駅に集合だ。
私は交通機関を使って向かったけど、尊さんは多分ハイヤーだろう。セレブめ。
中目黒駅に着くと、改札を出たところでダークスーツにグレーのコート、えんじ色のマフラーを巻いた尊さんが立っていて、私を見ると「おう」と片手を挙げた。
……やっぱり顔がいい……。
あと、遠目から見たシルエットがいいし、一見めちゃいい男だ。
周囲には待ち合わせの人が大勢いて、若い女性たちは尊さんをチラチラ気にしている。
けど彼が私に声を掛けると「女つきかよ」と一気に冷めた目になった。面白い。
そのあと、私たちは歩いて少しの距離にあるイタリアンレストランに向かった。
通されたのは個室で、そこにはすでに風磨さんと彼女――エミリさんがいた。
「初めまして」
彼女は私たちの姿を見て、サッと立ちあがった。
「初めまして。商品開発部、企画三課の上村朱里です」
私はエミリさんにペコリと頭を下げ、風磨さんにも会釈した。
エミリさんはロングヘアにパーマをかけた、華やかな印象の美女だ。
身長は百六十五センチ以上はありそうで、スラッとしてスタイルがいい。
ぱっちりと目が大きくて芸能人みたいなオーラがあり、素材を生かしたナチュラルメイクを施している。
明るくて社交的なオーラを醸し出し、滅多にお目にかかれない美人だけど、親しみやすさがあった。
加えて、第一印象で「やな感じ」がまったくしなかった。
「容姿に恵まれて仕事ができて、性格までいいなんて……」と思いがちだけれど、世界にはそれらを備えた人がいる。
(完璧だなぁ……)
これなら副社長が惹かれてもおかしくないし、こんな秘書が側にいたら誰だって恋に落ちるだろう。
(尊さんはこんな美女とお見合いするはずだったのか……)
チラッと彼を盗み見するとバチッと目が合ってしまい、尊さんはニヤッと笑って私の頭を撫でてきた。
(……考えてる事、筒抜けだったかもしれない)
尊さんには『心配するな』って言われたし、風磨さんとエミリさんはラブラブだ。
なのに私だけ嫉妬してるのは恥ずかしい。
「とりあえず座って。今日は来てくれてありがとう」
風磨さんに言われ、私は赤面しながらテーブルにつく事にした。
飲み物をオーダーしたあと、風磨さんが切りだした。
「二人とも、先日はすまなかった」
「いいえ、終わった事ですし」
「いつもの事だろ」
風磨さんは私たちの返事を聞き、安堵した表情になる。
そのあと、尊さんがエミリさんに尋ねた。
「俺たちの縁談? は破談でいいな? 当人同士の合意だ」
彼は「縁談」を半笑いで言う。