部長と私の秘め事
 その間、尊さんはフロントに電話を掛けてフルーツのカットをお願いしていた。

「朱里、先に風呂入るか?」

「うーん……、疲れたので、顔を落としてから少し横になります」

「そっか。じゃあ朱里が休んでる間に、先に入らせてもらうかな」

「どうぞどうぞ」

 スマホを充電した私は、尊さんに「窓側のベッドを使っていいですか?」と確認してからゴロンと転がる。

 尊さんはバスタブにお湯を貯め始め、私と同様にベッドに座るとリモコンでテレビをつけた。

「朱里」

「はい?」

 早くもムニャムニャしながら返事をすると、尊さんが甘い声で言う。

「そっち行っていいか?」

「……どうぞ」

 コロンと転がってスペースを空けると、尊さんは隣に寝そべって頭を撫でてきた。

「可愛い秘書は労らないとな」

「うう……、急に戻ってくる現実」

「ははっ、悪い。夢の国の間は現実を忘れないとな」

 尊さんは軽く笑ってから、チュッと私の額にキスをしてくる。

「あっ、……ちょ、ちょっと待って……。一日遊んだからテカリとか気になりますし、先に顔を落としてきます」

 どれだけ一緒にいる事に慣れてきても、まだまだ乙女でいたい。

 私は疲れを忘れてサッと立ちあがると、荷物からクレンジングや洗顔、基礎化粧品一式を出して洗面所に向かう。

 尊さんのマンションの洗面所も広いけれど、外出先だと思うと気分が上がる。

(今は五月。……六月には就任パーティーがあって、七月には宮本さんに会いに行くのか)

 そう思うとやる事が目白押しだ。

(八月のお盆休みってどこか行くのかな)

 先の予定を聞いておこうと思った私は、クルクルと優しくクレンジングしながら尊さんに尋ねた。

「お盆休みって予定ありますか?」

「んー……、旅行に行くつもりでいて、そろそろ相談しようかと思ってた」

「尊さんと一緒ならおうちでゆっくりでも嬉しいですからね。ただでさえ忙しくなったんですから、寛がないと。……それに、速水家の皆さんと過ごすお盆もいいんじゃないですか?」

 せっかく打ち解けられたんだし……と思って言うと、尊さんはクスッと笑った。

「確かにそれもある。実はちえりさんから『いつか親睦を深めるために、みんなで温泉にでも行かないか』って言われている。まだいつ、という話はしていないけどな」

「皆さんとの交流を優先しましょうよ。私は一緒に暮らしていますし、本当にいつでも大丈夫なんです。速水家の皆さんは、みんな忙しくされてるから、お盆休みとかのほうがいいんじゃないですか?」

「確かに……、それも一理あるな」

 尊さんの返事を聞いてから、私はザブザブと顔を洗ってダブル洗顔し、基礎化粧品でフェイスケアをしていく。

「そのうち、嫌でも家族サービスを優先しなきゃなりませんよ」

 いずれくる三人、もしくは四人家族での未来を示唆すると、尊さんは微笑む。

「それも楽しみだけど……。でも朱里と二人きりの時間も大切にしないと」

 彼の返事を聞いた私は、にっこり笑った。

「そうやって私を優先してくれる意志があるだけで、十分ですよ」

「……いじらしいけど、今から自分を後回しにする癖がついたら駄目だな。徹底的に甘やかさないと」

 ニヤッと笑った尊さんの言葉を聞き、私はクスクス笑った。

「やだ。尊さんに甘やかされたら、人間のカタチを留めていられなくなるから怖い」

 全部終えて手を洗ってからベッドに戻ると、尊さんにギュウッと抱き締められた。

「人間から猫になるか?」

 こめかみにキスをしてくる尊さんを抱き締め返し、私はスリスリと彼の胸板にキスをした。



**
< 361 / 381 >

この作品をシェア

pagetop