部長と私の秘め事
「『尊と出会えたように、女性だって誰かは俺を本当に愛してくれるかもしれない』と思って、良さそうと思った女性と付き合ってはみた。……優しくていい人たちではあったけど、俺が『家を捨てて二人で自由に生きよう』って言ったら、面白いぐらい狼狽してたな。試すつもりはなかったけど、結局みんな三日月家のブランドが好きなんだ」
今まで涼さんの事を、優しくて理想的な男性と思っていたけれど、やはり彼にも押し殺していた負の感情はあった。
勿論、ポジティブな人と付き合いたいとは思うけど、何も苦労していないお気楽な人と一緒になるのは嫌だ。
だから彼が自分の抱える闇を教えてくれる事によって、本当の意味で涼さんを知る事ができると思った。
「彼女たちはやたらと記念日を作って、事あるごとに高額なプレゼントを求めた。……勿論、ブランドバッグの一つや二つ、宝石なんて痛い出費じゃない。でもそのいちいちをSNSに載せて『彼氏にもらいました』って自慢し、俺の写真まで載せようとする人には付き合っていられなかった。結局俺は、どこまでいっても〝顔が良くて金持ちの、三日月家の御曹司〟で、女性にとっては単なるアクセサリーだ。……だから一時は、好きな人を見つけるのを諦めようと思った。〝みんな〟が望む行動をして嫌な事も我慢すれば、〝みんな〟は俺を許して平穏な生活を送らせてくれるのか……って」
結婚はある種の妥協と言うけれど、自分をステータスでしか見ない相手と過ごすのは、とても苦痛だろう。
「それでも、三十五歳までは頑張ろうと思っていたら……、俺を物扱いしない恵ちゃんと出会えた」
涼さんは私のほうを向いて横臥し、切なげに笑う。
「恵ちゃんは『自分には価値がない』と思っているかもしれない。でも世の中には、飾らないそのままの姿でいてくれるだけで、救われる存在がいるって事も知ってほしいんだ」
彼の過去の話も踏まえてそう言われ、やっと涼さんが私を求める理由を理解できた気がした。
「恵ちゃんは、俺が君を囲い、守って導いているように感じているかもしれない。でも実際は、俺が君に跪き、愛を求めているだけなんだよ」
とても綺麗な愛の言葉を捧げられ、なんでか知らないけど涙が出てしまった。
私は『男みたい』と言われて育ち、自分の事を〝痴漢されて損なわれ、汚された存在〟だと思っていた。
自分に価値を見いだせず、男性を愛せず親友を好きになった私は、一生人並みの幸せを得ず生きていくのだと思っていた。
なのに、そんな穴ぼこだらけの欠陥品の私に、「そのままでいい」と言ってくれる人がいる。
――生まれて初めて異性に認められた。
家族は私を兄二人と一緒に大雑把に育て、友達も私の事を姐御扱いして頼ってきた。
朱里は損なわれた私を受け止め、決して否定せず、友達として側にいてくれた。
でも彼女の運命の相手は篠宮さんで、私は二人が寄り添う姿を、一人寂しく見送るものと思っていた。けれど――。
「~~~~っ、……私で、……いいんですか……っ?」
「恵ちゃんじゃないと駄目なんだ」
涼さんの甘い言葉を、今ならやっと素直に受け止められる。
私は涙を零し、唇をわななかせて訴える。
「……っ、私、多分……っ、まだ当分は面倒臭い事を言うと思います」
「恋人の我が儘を聞けるなんて、ご褒美じゃないか」
「……っぜっ、……贅沢に慣れたら嫌な女になるかもっ」
「現時点で、全力で贈り物を拒否している君なら大丈夫だと思うよ」
「……あんまり甘やかしたら……っ、好きになりすぎちゃって後悔するかもしれませんよ?」
「ご褒美以外のなんだろうね?」
何を言っても、彼は大らかな心で受け止めてくれる。
私は次から次に涙を流し、子供のように手で目元を拭いながら確信した。
――この人なら大丈夫かもしれない。
「……っ、今まで、涼さんみたいな素敵な人に『付き合おう』って言われて、『なんで私なんだろう』って理由が分からなくて受け止められずにいました。……でも、あなたの心の傷を知ったからって言ったら悪いけど、ちゃんと過去にあった事を教えてもらった今なら、涼さんが私を求めてくれる気持ち、素直に受け止められる気がします」
「……うん。俺も言葉が足りなかったね。自分の格好悪いところを語らず、ただ『好きだ』って言って信じてもらえるほど、甘くないって分かっていたはずなのに。……多分、『自分のスペックなら、昔の事を話さなくても受け入れられるだろう』っていう驕りがあったんだと思う」
涼さんに自分を卑下する言葉は似合わないと思い、私は首を横に振る。
「……いいんです。誰だって自分の事を、出会ったばかりの人に全部言えないと思います」
「ありがとう」
涼さんは優しい目で私を見つめ、チュッと額にキスをしてきた。
今まで涼さんの事を、優しくて理想的な男性と思っていたけれど、やはり彼にも押し殺していた負の感情はあった。
勿論、ポジティブな人と付き合いたいとは思うけど、何も苦労していないお気楽な人と一緒になるのは嫌だ。
だから彼が自分の抱える闇を教えてくれる事によって、本当の意味で涼さんを知る事ができると思った。
「彼女たちはやたらと記念日を作って、事あるごとに高額なプレゼントを求めた。……勿論、ブランドバッグの一つや二つ、宝石なんて痛い出費じゃない。でもそのいちいちをSNSに載せて『彼氏にもらいました』って自慢し、俺の写真まで載せようとする人には付き合っていられなかった。結局俺は、どこまでいっても〝顔が良くて金持ちの、三日月家の御曹司〟で、女性にとっては単なるアクセサリーだ。……だから一時は、好きな人を見つけるのを諦めようと思った。〝みんな〟が望む行動をして嫌な事も我慢すれば、〝みんな〟は俺を許して平穏な生活を送らせてくれるのか……って」
結婚はある種の妥協と言うけれど、自分をステータスでしか見ない相手と過ごすのは、とても苦痛だろう。
「それでも、三十五歳までは頑張ろうと思っていたら……、俺を物扱いしない恵ちゃんと出会えた」
涼さんは私のほうを向いて横臥し、切なげに笑う。
「恵ちゃんは『自分には価値がない』と思っているかもしれない。でも世の中には、飾らないそのままの姿でいてくれるだけで、救われる存在がいるって事も知ってほしいんだ」
彼の過去の話も踏まえてそう言われ、やっと涼さんが私を求める理由を理解できた気がした。
「恵ちゃんは、俺が君を囲い、守って導いているように感じているかもしれない。でも実際は、俺が君に跪き、愛を求めているだけなんだよ」
とても綺麗な愛の言葉を捧げられ、なんでか知らないけど涙が出てしまった。
私は『男みたい』と言われて育ち、自分の事を〝痴漢されて損なわれ、汚された存在〟だと思っていた。
自分に価値を見いだせず、男性を愛せず親友を好きになった私は、一生人並みの幸せを得ず生きていくのだと思っていた。
なのに、そんな穴ぼこだらけの欠陥品の私に、「そのままでいい」と言ってくれる人がいる。
――生まれて初めて異性に認められた。
家族は私を兄二人と一緒に大雑把に育て、友達も私の事を姐御扱いして頼ってきた。
朱里は損なわれた私を受け止め、決して否定せず、友達として側にいてくれた。
でも彼女の運命の相手は篠宮さんで、私は二人が寄り添う姿を、一人寂しく見送るものと思っていた。けれど――。
「~~~~っ、……私で、……いいんですか……っ?」
「恵ちゃんじゃないと駄目なんだ」
涼さんの甘い言葉を、今ならやっと素直に受け止められる。
私は涙を零し、唇をわななかせて訴える。
「……っ、私、多分……っ、まだ当分は面倒臭い事を言うと思います」
「恋人の我が儘を聞けるなんて、ご褒美じゃないか」
「……っぜっ、……贅沢に慣れたら嫌な女になるかもっ」
「現時点で、全力で贈り物を拒否している君なら大丈夫だと思うよ」
「……あんまり甘やかしたら……っ、好きになりすぎちゃって後悔するかもしれませんよ?」
「ご褒美以外のなんだろうね?」
何を言っても、彼は大らかな心で受け止めてくれる。
私は次から次に涙を流し、子供のように手で目元を拭いながら確信した。
――この人なら大丈夫かもしれない。
「……っ、今まで、涼さんみたいな素敵な人に『付き合おう』って言われて、『なんで私なんだろう』って理由が分からなくて受け止められずにいました。……でも、あなたの心の傷を知ったからって言ったら悪いけど、ちゃんと過去にあった事を教えてもらった今なら、涼さんが私を求めてくれる気持ち、素直に受け止められる気がします」
「……うん。俺も言葉が足りなかったね。自分の格好悪いところを語らず、ただ『好きだ』って言って信じてもらえるほど、甘くないって分かっていたはずなのに。……多分、『自分のスペックなら、昔の事を話さなくても受け入れられるだろう』っていう驕りがあったんだと思う」
涼さんに自分を卑下する言葉は似合わないと思い、私は首を横に振る。
「……いいんです。誰だって自分の事を、出会ったばかりの人に全部言えないと思います」
「ありがとう」
涼さんは優しい目で私を見つめ、チュッと額にキスをしてきた。