部長と私の秘め事
 マンションを訪れたのは有名百貨店の外商部の〝担当〟なんだけれど、複数あるハイブランドにもそれぞれ担当がいる。

 涼さんが担当に「こういうイメージの女性」と話していたからか、私が普段着ないヒラヒラのロングスカートなどはない。

 目に付いたのは鮮やかな色のシャツワンピや、ジャケットとパンツのセットアップ、トップス、ボトムス単品に靴、バッグ、下着、サングラスやアクセサリー、化粧品などだ。

「三日月様、こちら、プレゼントでございます」

 ボーッとしていると、四十代の女性が包みを涼さんに手渡してきた。

(……はい? ヴィトンのプレゼント? 無料なの?)

 困惑して見ていると、涼さんは「ありがとうございます」と言って贈り物を受け取り、「何だろう」と言いつつ包みを開ける。

 するとカバーから出てきたのはブランドロゴが刻まれたクッションで、彼は担当に「ありがとうございます」ともう一度お礼を言ってから、私に「あげる」と手渡してきた。

「ちょ……っ!? わ、わわわわ……」

 両手にあるのはフワフワのクッションだけれど、少しでも破損したり、汚したりしないか怖くなった私は、慌てて涼さんに返そうとする。

「恵ちゃんは脚が綺麗そうだから、ミニドレスとか似合いそうだよね」

 なのに涼さんは華麗にスルーしてクッションを脇に置き、ハンガーに掛かっているノースリーブのタイトミニワンピを示す。

「い、いや……。あんなミニ、どこに着ていくんですか」

「こっちのワンピースはどう? 丈が長いし、そうヒラヒラもしていないから抵抗が少なそうだけど」

 涼さんが示したのは、首元から胸元までがシースルーになった、やはりノースリーブのAラインワンピースだ。

 無地でシンプルだけれど、下に鮮やかな花の模様があり、ワンポイントになっている。

 他にもマニッシュな雰囲気の、ボレロジャケットとパンツのセットアップ、Tシャツにデニムなどカジュアルな服もあったけれど、どれもハイブランドだと思うと恐ろしくて手にとれない。

 おまけにブランドに無知な私でも分かる、Hのロゴが特徴的なバッグまで並んでいて、「お母さーん!」と叫んで泣いて逃げたくなる。

 テーブルの上に置かれたのは、普段朱里が熱弁を振るっているデパコスだ。

 彼女が特別感を抱き、一つずつ吟味して買い集めている物が、限定品を含めてズラリと並び、感覚がおかしくなってしまいそうで怖い。

 固まって棒立ちになった私は、真顔で唇を引き結び、マナーモード宜しくブブブブブ……と震えてる。

 涼さんはそんな私を見て、「けーいちゃん」と顔を覗き込んでくる。

「脅すつもりはないけど、これからレストランでのマナーとか、実際に身につけて学んでいかないとならない事がある。うちの家族や親戚の顔を覚えるとかね。それを考えると、ここにある商品から好きな物を選ぶぐらい、どうって事なくない?」

「そ……、そうだけど……」

 戸惑っていると、デパコスと服と両方持ってきた担当の女性が話しかけてきた。

「まずはお似合いになるコスメの色から確認して参りましょうか。そのあとにお召し物を決めていくと宜しいのではありませんか?」

 確かに、朱里からはナントカベの春夏秋冬があるって話を聞いていたけど、今まで話半分に『ふーん、そうだべか』で受け流していた。

 戸惑っていると別の女性が色んな色の布を広げ、全身鏡の前に私を座らせ、布を当ててきた。

 どうやらそれでナントカベが分かるらしく、私はイエベ秋の骨格ナチュラルだと判明した。

 判明した途端、担当たちはスパパッと動き、私に似合うコスメや服を選び始めた。

 自分では止めようのない状況になった私は、泣く寸前の顔で涼さんを振り向くけれど、彼はニコニコ笑って自分用の新作Tシャツを手にしているだけだ。

 コスメ担当の人は、さすがというか、タッチアップをしなくても肌に合う色が分かるみたいで、ファンデーションやイエベ秋に似合うアイシャドウなどを並べていく。

 社会人として一応メイクはしているから、化粧品の使い方が分からないとは言わない。

 社会人になったあと、朱里に誘われて眉毛の手入れや顔の産毛剃りに行ったりもしているので、土台は大丈夫なつもりだ。

 でも私は朱里がやっている事を見ているだけで、詳しくは分からないままだ。

 だから今、目の前にズラリと並べられた物をすべて使える自信がなく、うろたえている。

「……あの、よく分からない物はいいです」

 私は蓋を開けられたカラーアイテムを見て言う。

 一見チークみたいだけれど、ピンクだったり金色だったり、何に使うんだかよく分からない。

 加えて色とりどりのボールが入った謎のアイテムもあり、同じようにカラフルな色がマーブル状に混ざっているコンパクトもあって、用途が謎すぎる。

 あれをつけたら顔がカラフルになるのか?
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