部長と私の秘め事

クリスマスデート

 それから一月六日になるまで、師走という事でめちゃくちゃ忙しく過ごした。

 けど、週末にあるクリスマスには尊さんとデートできた。

 彼が前に言っていたように、昭人とした事を〝上位互換の上書き〟をする内容だ。

 昭人はお洒落なレストランや、ちょっといいホテルに連れて行ってくれた。

 でも尊さんが選んだ場所はどこもワンランク上で、ほっぺが落ちるような美味しい料理を食べ、美味しいワインを遠慮なく飲ませてもらった。

 ……いや、前みたいに潰れたらアレなので、ほどほどにだけど……。

「美味いか?」

「美味しいです。尊さん最高。いい男!」

 赤ワインを飲みながら浮かれて言うと、彼は呆れた顔をした。

「お前、飯や酒を驕ってくれる男に、ホイホイついていくなよ」

「何ですかそれ。飴ちゃんもらう子供じゃないんですから」

「お前は自分がかなり単純にできてるって、ちょっと自覚しておいたほうがいいぞ」

「単純って酷い」

「シンプル」

「英語に変えても駄目」

「可愛い」

「へっ?」

 いきなり可愛いと言われ、私は目を丸くする。

「お前はな、ちょっとエサでおびき寄せられたらついていく、仔犬みたいなもんなんだよ。つらい事があって孤高ぶってるけど、中身は愛情に飢えた子供だ。だから危なっかしくて、目を離せないんだよ」

「そんなの……」

 子供と言われてムッとしたけれど、彼の庇護欲を感じ、ジワッと頬を染める。

「元気なのはいい事だ。いつまでもそうやって俺に文句を言ってくれ。……ただし、俺の掌の上でな」

 微笑まれ、この上なく恥ずかしくなった私は、誤魔化すようにワインを飲んだ。





 レストランでの食事が終わったあと、私たちはスイートルームに向かった。

 一番いい部屋らしくて、私はアホみたいな広さの部屋に入って途方に暮れる。

「どうだ? 気に入ったか?」

「…………アホですか」

 私の言葉を聞き、尊さんはガックリ項垂れる。

「……お前、そういうところだぞ。素直なのはいいけど、肝心なところで男を立たせないと」

「別のところを勃たせてあげますから、いじけないでくださいよ」

 そう言うと、尊さんは目をまん丸に見開いてドン引きした。

「……割とオヤジだったんだな……。うわぁ……、俺、恐くてそんな事言えねぇわ。今どき、すぐセクハラって言われるし……」

「ちょっと! 今の喜ぶところでしょ!? せっかく勇気出して言ったのに!」

 真っ赤になった私がポカポカと尊さんに殴りかかると、彼は声を上げて笑った。

 そしてグイッと私を抱き寄せ、チュッとキスをしてくる。

「期待してるよ」

「っ~~~~」

 妖艶に笑われ、お酒の力を借りて大胆にいこうと思ったのに、もう後悔していた。

 ……でもやられっぱなしは嫌だ。

 私はキッと尊さんを睨むと、彼の腕を振りほどき、数歩離れる。

「クリスマスだから、高い下着つけてきたんです」

「それは素晴らしい。……まぁ、ここじゃなんだし、向こう行こうぜ」

 尊さんは私の手をとり、ダンスのようにクルリと回してから、ソファのほうへ歩いていった。

 そしてソファに座り、ジャケットのボタンを外してから脚を組む。

「どうぞ?」

 小首を傾げて微笑まれ、一気にハードルが上がった。

(やっぱり自分から誘惑するとか、向いてなかった……! でも、今さら引き下がれない)

 私は覚悟を決め、バッグをテーブルの上に置く。

 キャメルカラーのコートのボタンに手を添えると、尊さんがスマホを出して操作し始める。

「これから脱ぐのに……」と思っていたら、いきなり部屋にあるスピーカーから、ムードのあるジャズが掛かってボボッと赤面した。

 さらにハードル高くなった!

「恋人たちのクリスマスには、色気のある音楽がなきゃな」

「な、何ですかこれ!」

「あれ? ジョン・コルトレーン知らない?」

「し、知らないです。そ、そうじゃなくて……」

 私たちがいるのはこの上なくお洒落な部屋だ。

 雰囲気に負けそうだったからわざと茶化したのに、気がついたらこうやって尊さんのペースに乗せられている。

 ずるい……!

 絶望的な羞恥に襲われた私は、真っ赤になって両手で口元を覆った。

「お、照れた。可愛いな……」

 座ったままの尊さんは、私の顔を覗き込んでニヤニヤする。

「バカ!」

 私は涙目になって声を上げると、彼の膝の上にドカッと座った。

 そして尊さんをジロッと睨んでから、両手で頬を包んでキスをする。

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