部長と私の秘め事
「わ、わ……。す、すみません」
こんな格好いい人に下着の面倒まで見てもらうなんて、恥ずかしくて堪らない。
「こっちもウォークインクローゼットになってるんだ。スペースを空けるから、恵ちゃんの物も入れておこうね」
今いた場所の向かい側にも細長いウォークインクローゼットがあり、そこにもある程度涼さんの服が置かれてある。
「や、私の服はそんな多くないので! 家主の領域を侵犯したら申し訳ないです」
「侵犯って!」
涼さんは私の言葉に笑い、お腹を抱えてプルプル震える。
笑いが収まったあと、彼は私の顎を摘まんで顔を覗き込んできた。
「一応、奥の部屋を恵ちゃんの私室にしようと思っていて、そこにもウォークインクローゼットがあるから安心して。それにまだ当分は二人暮らしだと思うし、普通のクローゼットもあるから全然大丈夫」
「はぁ……」
すっかり同棲する事になってしまったようで、私は生返事をする。
嫌な訳じゃないけど、「本当にいいのかな……」とまだ半信半疑だ。
「今すぐじゃなくていいけど、お風呂の準備もしておこうか。バスルームと洗面所の案内をするね」
ルンルンの涼さんは、引き戸を開けて奥に行く。
すると玄関から入ってすぐの空間につながり、その横手にホテルみたいに落ち着いた雰囲気の洗面所に手洗い、奥に広いバスルームがあった。
洗面所は高級感のある黒大理石でできていて、チョコレート色の木目調の引き出しや、間接照明も相まって、とてもゴージャスだ。
(……普通の家には洗面所に胡蝶蘭ないよな……)
私は洗面台の横に飾られてある白い胡蝶蘭を見て、「あはは……」と笑う。
大きな鏡はピカピカで一点の曇りもなく、二つあるボウルは広くて使いやすそうだ。
涼さんは後ろの収納棚を開け、中からブラウンのバスタオルを出す。
「バスタオルはここに置いておくね。あとは歯ブラシと歯磨き粉と……」
そう言って彼は引き出しから未使用の物を出すけれど、私が知っているドラッグストアで売っている物と違う……。
そしてさらに彼は収納の中を見せて、少し困った表情で尋ねてきた。
「この通り、使ってないボディソープが沢山あるんだけど、どれがいい? 好きなの使っていいよ」
ズラリと並んでいるのは、朱里が好きそうな奴だ。
彼女からプレゼントされた事もあって知っているのは、ジョー・マローンやスリー、イソップ、他にもシャネルやディオール、エルメスなど、そうそうたるブランドのボトルが箱のまま並んでいた。
「えええ……」
こんなの選べない。
ドン引きした私の表情を見て、涼さんはまた横を向いて笑っている。
そのあと、「髪、触るよ」と言ってサラッと触り、「直毛で毛量が多いタイプかな」と言い、やはりズラリと並んでいるシャンプー類を見繕う。サロンか。
「今日はある物で我慢してもらうけど、そのうち俺の行きつけの美容室に行って、髪質に合うシャンプーとトリートメントを見繕ってもらおうか」
「い、いえいえ! 涼さんが通うような所なんて支払えません。二か月に一回、八千円でもギリギリなんですよ……」
自分の懐事情を話すのは恥ずかしいけれど、無い袖は振れない。
涼さんはしばしキョトンとして私を見つめていたけれど、おずおずと言う。
「髪がまっすぐで綺麗だから、一か月に二、三回はトリートメントに行ってるのかと思った」
それを聞き、私はガックリと項垂れ溜め息をつく。
そして「こういうもんだよな」と自分に言い聞かせ、彼にも言い含めた。
「庶民は一か月に一回でも割と大変です。一大イベントです」
涼さんはなおもキョトンとし続け、だんだんその顔がハニワに見えてくる。
「物をいただいたり、レストランでご馳走してもらうのはともかく、美容室までっていうのはやり過ぎに思えるので、私のやり方を貫かせてもらおうと思います」
キッパリと言うと、涼さんは首を傾げて腕組みをし、しばらく何か考えていた。
そのあと「うん」と頷くとスマホを出し、誰かにメッセージを打つ。
「じゃあ次の週末にでも、うちの姉か妹とでも一緒に、サロン巡りしようか。女性のケアは女性のほうが分かってると思うし」
「なにが『じゃあ』なんですか! 文脈読んでない!」
クワッと目を見開いて文句を言うと、涼さんはのんびりと言う。
「綺麗にするに越した事はないじゃないか。どうせ一緒に住むなら諸々俺が持つ訳だし、美容室だけ恵ちゃん持ちって訳にいかないよ」
「じゃ、じゃあ、私は何にお金を使えばいいんですか。働いてちゃんとお給料をもらってるんですから、自分の事ぐらい自分で……」
「それを考えると、恵ちゃんの人生がもっと豊かになるんじゃないかな」
「え?」
思いも寄らない事を言われ、私は目を瞬かせる。
「俺が出すお金って、衣食住とかの生活費だ。美容も生活費に含まれると思っているし、貴金属類やブランドバッグとかも、俺が自己満足で贈ってるだけ。恵ちゃんは生活費の支出がなくなったら、何にお金を使いたい?」
涼さんは洗面所に置いてあるスマートスピーカーに「フェリシア、お風呂を入れて」と命令する。
それからゆっくりと歩いてリビングに戻りつつ、話の続きをした。
こんな格好いい人に下着の面倒まで見てもらうなんて、恥ずかしくて堪らない。
「こっちもウォークインクローゼットになってるんだ。スペースを空けるから、恵ちゃんの物も入れておこうね」
今いた場所の向かい側にも細長いウォークインクローゼットがあり、そこにもある程度涼さんの服が置かれてある。
「や、私の服はそんな多くないので! 家主の領域を侵犯したら申し訳ないです」
「侵犯って!」
涼さんは私の言葉に笑い、お腹を抱えてプルプル震える。
笑いが収まったあと、彼は私の顎を摘まんで顔を覗き込んできた。
「一応、奥の部屋を恵ちゃんの私室にしようと思っていて、そこにもウォークインクローゼットがあるから安心して。それにまだ当分は二人暮らしだと思うし、普通のクローゼットもあるから全然大丈夫」
「はぁ……」
すっかり同棲する事になってしまったようで、私は生返事をする。
嫌な訳じゃないけど、「本当にいいのかな……」とまだ半信半疑だ。
「今すぐじゃなくていいけど、お風呂の準備もしておこうか。バスルームと洗面所の案内をするね」
ルンルンの涼さんは、引き戸を開けて奥に行く。
すると玄関から入ってすぐの空間につながり、その横手にホテルみたいに落ち着いた雰囲気の洗面所に手洗い、奥に広いバスルームがあった。
洗面所は高級感のある黒大理石でできていて、チョコレート色の木目調の引き出しや、間接照明も相まって、とてもゴージャスだ。
(……普通の家には洗面所に胡蝶蘭ないよな……)
私は洗面台の横に飾られてある白い胡蝶蘭を見て、「あはは……」と笑う。
大きな鏡はピカピカで一点の曇りもなく、二つあるボウルは広くて使いやすそうだ。
涼さんは後ろの収納棚を開け、中からブラウンのバスタオルを出す。
「バスタオルはここに置いておくね。あとは歯ブラシと歯磨き粉と……」
そう言って彼は引き出しから未使用の物を出すけれど、私が知っているドラッグストアで売っている物と違う……。
そしてさらに彼は収納の中を見せて、少し困った表情で尋ねてきた。
「この通り、使ってないボディソープが沢山あるんだけど、どれがいい? 好きなの使っていいよ」
ズラリと並んでいるのは、朱里が好きそうな奴だ。
彼女からプレゼントされた事もあって知っているのは、ジョー・マローンやスリー、イソップ、他にもシャネルやディオール、エルメスなど、そうそうたるブランドのボトルが箱のまま並んでいた。
「えええ……」
こんなの選べない。
ドン引きした私の表情を見て、涼さんはまた横を向いて笑っている。
そのあと、「髪、触るよ」と言ってサラッと触り、「直毛で毛量が多いタイプかな」と言い、やはりズラリと並んでいるシャンプー類を見繕う。サロンか。
「今日はある物で我慢してもらうけど、そのうち俺の行きつけの美容室に行って、髪質に合うシャンプーとトリートメントを見繕ってもらおうか」
「い、いえいえ! 涼さんが通うような所なんて支払えません。二か月に一回、八千円でもギリギリなんですよ……」
自分の懐事情を話すのは恥ずかしいけれど、無い袖は振れない。
涼さんはしばしキョトンとして私を見つめていたけれど、おずおずと言う。
「髪がまっすぐで綺麗だから、一か月に二、三回はトリートメントに行ってるのかと思った」
それを聞き、私はガックリと項垂れ溜め息をつく。
そして「こういうもんだよな」と自分に言い聞かせ、彼にも言い含めた。
「庶民は一か月に一回でも割と大変です。一大イベントです」
涼さんはなおもキョトンとし続け、だんだんその顔がハニワに見えてくる。
「物をいただいたり、レストランでご馳走してもらうのはともかく、美容室までっていうのはやり過ぎに思えるので、私のやり方を貫かせてもらおうと思います」
キッパリと言うと、涼さんは首を傾げて腕組みをし、しばらく何か考えていた。
そのあと「うん」と頷くとスマホを出し、誰かにメッセージを打つ。
「じゃあ次の週末にでも、うちの姉か妹とでも一緒に、サロン巡りしようか。女性のケアは女性のほうが分かってると思うし」
「なにが『じゃあ』なんですか! 文脈読んでない!」
クワッと目を見開いて文句を言うと、涼さんはのんびりと言う。
「綺麗にするに越した事はないじゃないか。どうせ一緒に住むなら諸々俺が持つ訳だし、美容室だけ恵ちゃん持ちって訳にいかないよ」
「じゃ、じゃあ、私は何にお金を使えばいいんですか。働いてちゃんとお給料をもらってるんですから、自分の事ぐらい自分で……」
「それを考えると、恵ちゃんの人生がもっと豊かになるんじゃないかな」
「え?」
思いも寄らない事を言われ、私は目を瞬かせる。
「俺が出すお金って、衣食住とかの生活費だ。美容も生活費に含まれると思っているし、貴金属類やブランドバッグとかも、俺が自己満足で贈ってるだけ。恵ちゃんは生活費の支出がなくなったら、何にお金を使いたい?」
涼さんは洗面所に置いてあるスマートスピーカーに「フェリシア、お風呂を入れて」と命令する。
それからゆっくりと歩いてリビングに戻りつつ、話の続きをした。