部長と私の秘め事
「一応、恵ちゃんの部屋にしようと思っている所、案内しておこうか」

 そう言って涼さんは立ちあがり、書斎を出るとスタスタと歩き、玄関前のギャラリーホールを抜けて奥へ向かう。

「こっちは客室が三つあるんだ。あと、トイレが三つと風呂が二つ、洗面所一つ」

「なんでこんな家に一人で住んでるんですか」

 私は思わず突っ込む。

 涼さんは歩きながら、通りすがりのドアを軽く開け、中を紹介してくれる。

 ギャラリーホールを抜けてすぐに収納やトイレがあり、サブの玄関まであった。

 廊下を進んで右手側にはランドリールームに洗面所、トイレとお風呂が本当にツーセットある。アホじゃなかろか。

 左手には十畳の部屋、十畳弱の部屋、一番奥に十一畳の部屋があり、その部屋にはウォークインクローゼットもあった。

「俺の生活圏から一番遠いんだけど、この部屋が一番広いし、ウォークインクローゼットもあるから便利かなと思って」

 同じ家の中なのに、生活圏という言葉が出てくるとは思わなかった。

 どの部屋もバルコニーに面していて、一つ目と三番目の部屋はお客さん用のベッドは置いてあるけれど、割とガランとしていてすべての部屋をきちんと使ってなさそうだ。

「尊が泊まりに来る時は、二番目の部屋に入り浸ってるかな。あそこは漫画部屋にしてるから、好きなだけ漫画を読んでるんだよ」

「へぇー……、意外……」

「子供時代に抑圧された生活を送っていたから、ろくに漫画を読んでいなかったみたいでね。大学生時代に『面白いよ』って漫画を貸したら、興味を持ったみたいだ」

「ちなみにどんなジャンルなのか、見てみてもいいですか?」

「どうぞ」

 二人で一つ前の部屋に戻ると、中には本棚がびっしりある。

 本が日焼けしないようにカーテンを閉めている他、地震があった時に倒れないようにしっかり固定されてある。

「へぇー……」

 図書館みたいに入り組んだ本棚を見ていると、幅広いジャンルの本が置かれてある。

 少年漫画に青年漫画、意外と少女漫画もあるし、ラノベもある他、一般小説にミステリー小説、時代小説、難しそうな専門書もあれば、ファッション関係の本、その他雑多とした趣味関係の本や雑誌もある。

「趣味の幅が凄い!」

 芸人さんみたいな口調で言うと、涼さんがクスクス笑った。

「恵ちゃんも好きなの読んでいいよ。入荷してほしい本があったら、司書まで教えて」

「あはは! 司書って」

 思わず声を上げて笑うと、パチッと涼さんと目が合ってしまう。

(あ)

 そう思った瞬間、私は彼に抱き締められていた。

「ん……」

 やっぱりいい匂いがして、私は思わず彼の匂いをそっと吸い込んでしまう。

 涼さんは私の背中をトントンと叩いたあと、体を離した。

「俺も風呂に入ってくるね」

 そう言って彼は部屋を出て廊下を歩いていく。

 彼の後ろ姿を見て、私はギュッとルームウェアの生地を握り、赤面して覚悟を固めていったのだった。





 涼さんがバスルームに向かったあと、添い寝する覚悟でベッドルームに向かったけれど、先にベッドに入っているなんて図々しいので、バルコニーの近くにある一人掛けのリクライニングソファに座った。

 窓の外はすっかり夜で、東京タワーの見える高級マンションにいるなんて嘘みたいだ。

(本当にこの家に住んでいいんだろうか)

 怒濤の展開で連絡を忘れていたけれど、朱里にメッセージを送ってみる事にした。

(夜だし、篠宮さんとイチャイチャしてるかな)

 とは言っても、まだ遅い時間じゃないから大丈夫とは思うけど。

【私、恵ちゃん。いま涼さんの家にいるの】

 メリーさんジョークを飛ばすと、すぐに既読がつき、キャラクターがゲラゲラ笑っているスタンプが送られてくる。

【どんな感じ?】

【外商がきて沢山買い物されて、いいお肉食べさせてもらった】

 すると朱里は【!!】とキャラクターが目をまん丸にして驚いているスタンプを送る。

【凄いね! 囲い込みに入ってるね! 尊さんは『本気出したか』って言ってるよ】

 やっぱり本気なのか……。

【篠宮さんに、涼さんって他の女性にもこういう事をした事があるか、聞いてくれる?】

 すると少し間が空いてから返事がくる。

【家に上げてそこまでやった人はいないって。付き合った女性にブランドバッグとかコスメとか買ってあげた事はあるけど、お店に行っての出来事だって。尊さんが知ってる限り、女性を家に上げた事はないみたいだよ】

「……ふーん……」

 私は呟き、ギュッと膝を抱える。
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