部長と私の秘め事
「ま……、待ってください!? 本人不在の時に親に挨拶は卑怯じゃないですか?」
「侍の闘いじゃないんだから、卑怯もなんもないよ」
恵はスマホに手を伸ばして、トトト……とメッセージを打っていく。
(佳苗さん! お宅のお嬢さんが大物彼氏をGETしましたよ~! ピラルクーレベルですよ~! いや、ジンベエザメ! 食べられちゃう!)
私は尊さんの腕の中でニコニコしながら、心の中で佳苗さんに向かって叫ぶ。
「恵、なんてメッセージしたの?」
尋ねると、彼女は非常に渋い顔で言う。
「『一身上の都合で引っ越す事にしました』。……わっ、早っ」
言うやいなや恵のスマホが震え、彼女は嫌そうな顔で画面を見る。
「いきなりだし、佳苗さん、心配してるでしょ」
「……まぁ、ね……」
恵が溜め息をついた時、今度は電話がかかってきた。
「諦めて全部白状しなよ」
「うん……、そうなんだけど……」
恵は非常に気乗りしない顔で、また重たい溜め息をつく。
「もしもし、お母さん?」
電話に出た彼女は、かったるそうに話し始め、涼さんの腕の中からすり抜けると、話ながらコソコソとリビングの隅へ向かう。
「~~~~だから、一身上の都合で……。引っ越し代とか次の物件とかは、……あー、大丈夫だから……」
説明下手な恵が困っていたところ、涼さんはスタスタ歩いて彼女に近づき、ヒョイッとその手からスマホをとり「もしもし」と電話に出てしまった。
「あっ!」
恵は目をまん丸に見開き、とっさに手を伸ばして涼さんからスマホを取り替えそうとする。
けれど涼さんは片手で恵をグッと抱き締め、構わず電話を続けた。
「初めまして。三日月涼と申します。突然お電話代わりまして申し訳ございません」
「ちょ……っ、涼さん……っ、んっ」
恵は真っ赤になって全力で暴れるも、ただ片腕で抱き締められているだけなのに、抜け出せられずにいる。
(力の差、萌え~!)
私は一昔前のオタクみたいになり、表情を緩ませて二人の様子を見守る。
なんなら、スマホを構えてカシャッと写真を撮ってしまったほどだ。
「……中村さんに怒られても知らないぞ」
それを見て、尊さんが溜め息混じりに言う。
「三年後くらいに、こっそり涼さんに見せるんですよ。めっちゃ喜んでくれますから」
「それぐらいになったら、もう結婚してそうだな」
彼は顎に手を当てて頷き、私はニッチャリ笑いながらうんうんと頷いた。
その間も、涼さんは佳苗さんと会話を続ける。
「はい。恵さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいております。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
彼とは割と距離が空いているのに、スマホから佳苗さんの声が漏れ聞こえている。
どうやらかなりのテンションで盛り上がっているみたいだ。
恵は「結婚を前提に」と聞いて真っ赤になっている。
涼さんはそのあと、まじめな口調で今日起こった事件をザッと説明した。
「僕としましては、恵さんと一緒に暮らす事で彼女の身の安全を守りたいと思っています。今回の事件がなければ、もっと段階を踏み、きちんとご挨拶してから同棲すべきと思っていましたが、何かが起こったあとでは遅いと思い、すぐにでも行動したいと思いました」
暴れ疲れた恵は、涼さんに抱き締められたまま彼の胸板に顔を押しつけ、ブスッとふてくされている。きゃわゆい。
電話の向こうから佳苗さんの快諾があったのか、涼さんはパッと笑顔になった。
「ありがとうございます! 明日には業者に動いてもらうつもりでいます。僕は仕事なので、秘書に現場監督を頼む予定です。今、僕の家に同性の友人と朱里さんもいまして、もしお母様の手が空いているなら、引っ越しの現場監督に立っていただいては……という話になりまして、恵さんからお電話があった次第です」
そのあと、スマホのスピーカーからまた盛り上がったらしい佳苗さんの声が聞こえてくる。
「そうですか! では僕も仕事の合間を見て伺いたいと思います。そこでご挨拶をしたあと、荷物はすぐこちらに運べると思いますので、そのあと夕食もかねて改めてご挨拶する事は可能でしょうか?」
恵は涼さんの腕の中で目をまん丸にし、「おいおい……」と呟いている。
私としては他人事だから面白いんだけど、〝外〟モードになった尊さんがこれぐらいのコミュ力で家族と距離を詰めていったら……と思うと恐ろしい。
南無阿弥陀仏、恵。成仏せよ。骨は拾う。
「はい、それではお待ちしております。恵さんに代わりますね」
涼さんは完璧な受け答えで電話を終えたあと、ニッコニコの笑顔で恵に「電話奪っちゃってごめんね」と謝ってからスマホを返した。
「………………もしもし………………」
恵はこの世の終わりみたいな顔をして、先ほどよりワントーン低い声で電話に出る。
そのあと、だだっ広いリビングの隅まで移動してから、「はぁ!?」と喧嘩腰に電話をし、「違うって!」と何やら揉めている。
「侍の闘いじゃないんだから、卑怯もなんもないよ」
恵はスマホに手を伸ばして、トトト……とメッセージを打っていく。
(佳苗さん! お宅のお嬢さんが大物彼氏をGETしましたよ~! ピラルクーレベルですよ~! いや、ジンベエザメ! 食べられちゃう!)
私は尊さんの腕の中でニコニコしながら、心の中で佳苗さんに向かって叫ぶ。
「恵、なんてメッセージしたの?」
尋ねると、彼女は非常に渋い顔で言う。
「『一身上の都合で引っ越す事にしました』。……わっ、早っ」
言うやいなや恵のスマホが震え、彼女は嫌そうな顔で画面を見る。
「いきなりだし、佳苗さん、心配してるでしょ」
「……まぁ、ね……」
恵が溜め息をついた時、今度は電話がかかってきた。
「諦めて全部白状しなよ」
「うん……、そうなんだけど……」
恵は非常に気乗りしない顔で、また重たい溜め息をつく。
「もしもし、お母さん?」
電話に出た彼女は、かったるそうに話し始め、涼さんの腕の中からすり抜けると、話ながらコソコソとリビングの隅へ向かう。
「~~~~だから、一身上の都合で……。引っ越し代とか次の物件とかは、……あー、大丈夫だから……」
説明下手な恵が困っていたところ、涼さんはスタスタ歩いて彼女に近づき、ヒョイッとその手からスマホをとり「もしもし」と電話に出てしまった。
「あっ!」
恵は目をまん丸に見開き、とっさに手を伸ばして涼さんからスマホを取り替えそうとする。
けれど涼さんは片手で恵をグッと抱き締め、構わず電話を続けた。
「初めまして。三日月涼と申します。突然お電話代わりまして申し訳ございません」
「ちょ……っ、涼さん……っ、んっ」
恵は真っ赤になって全力で暴れるも、ただ片腕で抱き締められているだけなのに、抜け出せられずにいる。
(力の差、萌え~!)
私は一昔前のオタクみたいになり、表情を緩ませて二人の様子を見守る。
なんなら、スマホを構えてカシャッと写真を撮ってしまったほどだ。
「……中村さんに怒られても知らないぞ」
それを見て、尊さんが溜め息混じりに言う。
「三年後くらいに、こっそり涼さんに見せるんですよ。めっちゃ喜んでくれますから」
「それぐらいになったら、もう結婚してそうだな」
彼は顎に手を当てて頷き、私はニッチャリ笑いながらうんうんと頷いた。
その間も、涼さんは佳苗さんと会話を続ける。
「はい。恵さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいております。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
彼とは割と距離が空いているのに、スマホから佳苗さんの声が漏れ聞こえている。
どうやらかなりのテンションで盛り上がっているみたいだ。
恵は「結婚を前提に」と聞いて真っ赤になっている。
涼さんはそのあと、まじめな口調で今日起こった事件をザッと説明した。
「僕としましては、恵さんと一緒に暮らす事で彼女の身の安全を守りたいと思っています。今回の事件がなければ、もっと段階を踏み、きちんとご挨拶してから同棲すべきと思っていましたが、何かが起こったあとでは遅いと思い、すぐにでも行動したいと思いました」
暴れ疲れた恵は、涼さんに抱き締められたまま彼の胸板に顔を押しつけ、ブスッとふてくされている。きゃわゆい。
電話の向こうから佳苗さんの快諾があったのか、涼さんはパッと笑顔になった。
「ありがとうございます! 明日には業者に動いてもらうつもりでいます。僕は仕事なので、秘書に現場監督を頼む予定です。今、僕の家に同性の友人と朱里さんもいまして、もしお母様の手が空いているなら、引っ越しの現場監督に立っていただいては……という話になりまして、恵さんからお電話があった次第です」
そのあと、スマホのスピーカーからまた盛り上がったらしい佳苗さんの声が聞こえてくる。
「そうですか! では僕も仕事の合間を見て伺いたいと思います。そこでご挨拶をしたあと、荷物はすぐこちらに運べると思いますので、そのあと夕食もかねて改めてご挨拶する事は可能でしょうか?」
恵は涼さんの腕の中で目をまん丸にし、「おいおい……」と呟いている。
私としては他人事だから面白いんだけど、〝外〟モードになった尊さんがこれぐらいのコミュ力で家族と距離を詰めていったら……と思うと恐ろしい。
南無阿弥陀仏、恵。成仏せよ。骨は拾う。
「はい、それではお待ちしております。恵さんに代わりますね」
涼さんは完璧な受け答えで電話を終えたあと、ニッコニコの笑顔で恵に「電話奪っちゃってごめんね」と謝ってからスマホを返した。
「………………もしもし………………」
恵はこの世の終わりみたいな顔をして、先ほどよりワントーン低い声で電話に出る。
そのあと、だだっ広いリビングの隅まで移動してから、「はぁ!?」と喧嘩腰に電話をし、「違うって!」と何やら揉めている。