部長と私の秘め事
餃子を食べに
尊さんは東京駅まで迎えに来てくれ、恵も涼さんが迎えに来てくれるようだった。
彼女とは駅前でお別れし、私は尊さんの車に乗る。
「楽しかったか?」
「はい! 女子会でしか言えない事がありますので」
「なんだよそれ。妬けるな」
「んふふ、拗ねミコだ」
「ランチは十二時からだったんだっけ? 夕飯入るか?」
「入ります! でももう少し時間をおいたほうが、美味しくいただけるかもです」
「……じゃあ、少しドライブでもして、宇都宮まで餃子食べに行くか」
「やったー! みんみん餃子なら幾らでも入ります!」
車の中にはいつものようにジャズがかかり、私はルンルンして餃子に思いを馳せる。
尊さんも事前にこうしようと思っていたのか、ドリンクホルダーには私がいつも好んで飲んでいるお茶のペットボトルがあった。気の利くミコ……。
「朱里、ちょっと真面目な話をしていいか?」
「はい」
ドキッとした私は表情を引き締める。
「……総務部にいる社員から、ボイレコをもらった」
「ボイレコ」
言われて思い浮かんだのは、西川紗綾ちゃんだ。
「どういう……」
そう尋ねながらも、私は内容を九割予測していた。
「ん……」
尊さんは少し言いづらそうな雰囲気ながらも、ドリンクホルダーのお茶を飲んでから言う。
「総務部にいる一部の社員が、朱里の事を悪く言っているとの事だった。中心となっているのは二人だが、総務部のベテランも巻き込んで噂が広まりつつあるらしい」
「……その人達、多分知ってます。前にお手洗いできつい事を言われたので」
「そうか。……その時、言ってほしかったな」
「はい。ごめんなさい……」
私は視線を落とし、そっと息を吐く。
「でも、言いづらい気持ちは分かる。大人になっても『悪口言われました』なんてなかなか言えないよな。俺にいう事で『自分のせいで彼女たちに必要以上の処分が下ったらどうしよう』って心配したかもしれない。……侮辱されて悔しい思いをしただろうが、俺の知ってる朱里は彼氏の権力にぶら下がって相手をやり込めて『ざまーみろ』って思う女じゃないから」
「……概ね、そんな感じです。……彼女たちの事は好きじゃないし、むしろ嫌いだけど、態度を改めてくれるなら処分を下すまでもないと思ってました」
「ん、……でも、俺はそのボイレコを受け取った以上、行動に出るつもりだ」
私は何とも言えなくなって黙り込む。
「気まずいだろう。ごめん。でも恋人として黙っていられない気持ちもあるけど、六割以上は副社長として社内の悪い空気を放っておけないと思ったからだ。誰かが一石を投じた波紋は、時間をおいたら消えるかもしれない。でも何回も石を投じられたら、波紋が消えなくなる可能性もある。そうなったら朱里だけじゃなく、他の社員のためにもならない。俺は他の社員が同じ事をされても同じ行動に出る。……分かってくれるか?」
「……はい。お任せします」
頷くと、尊さんは手を伸ばして膝の上にある私の手をポンポンと叩いた。
「あとは任せてくれ。朱里のミッションは、これから餃子を美味しく食べる事」
これまでの雰囲気を払拭するような、冗談めかした明るい言い方に、私は思わず笑みを零した。
「はいっ! それは大得意です!」
宇都宮まで尊さんとたわいのない話をし、人気店で行列に並んでから食べる餃子はこの上なく美味しかった。
餃子の中には数個食べただけで、もたれはしないけど満腹になる物があるけれど、ここの餃子は「空気か!」というほどあっさりとした味わいだ。
大きめなのに野菜が多めでパクパク食べられるので、私は大盛りご飯を片手に、焼き餃子も水餃子も、揚げ餃子も余す事なく美味しく食べた。
美味しい! しかも安い!
「食いっぷりが良くて惚れ直すわ……」
尊さんは焼き餃子と水餃子のセットを頼んでいて、彼こそ結構食べている。
彼女とは駅前でお別れし、私は尊さんの車に乗る。
「楽しかったか?」
「はい! 女子会でしか言えない事がありますので」
「なんだよそれ。妬けるな」
「んふふ、拗ねミコだ」
「ランチは十二時からだったんだっけ? 夕飯入るか?」
「入ります! でももう少し時間をおいたほうが、美味しくいただけるかもです」
「……じゃあ、少しドライブでもして、宇都宮まで餃子食べに行くか」
「やったー! みんみん餃子なら幾らでも入ります!」
車の中にはいつものようにジャズがかかり、私はルンルンして餃子に思いを馳せる。
尊さんも事前にこうしようと思っていたのか、ドリンクホルダーには私がいつも好んで飲んでいるお茶のペットボトルがあった。気の利くミコ……。
「朱里、ちょっと真面目な話をしていいか?」
「はい」
ドキッとした私は表情を引き締める。
「……総務部にいる社員から、ボイレコをもらった」
「ボイレコ」
言われて思い浮かんだのは、西川紗綾ちゃんだ。
「どういう……」
そう尋ねながらも、私は内容を九割予測していた。
「ん……」
尊さんは少し言いづらそうな雰囲気ながらも、ドリンクホルダーのお茶を飲んでから言う。
「総務部にいる一部の社員が、朱里の事を悪く言っているとの事だった。中心となっているのは二人だが、総務部のベテランも巻き込んで噂が広まりつつあるらしい」
「……その人達、多分知ってます。前にお手洗いできつい事を言われたので」
「そうか。……その時、言ってほしかったな」
「はい。ごめんなさい……」
私は視線を落とし、そっと息を吐く。
「でも、言いづらい気持ちは分かる。大人になっても『悪口言われました』なんてなかなか言えないよな。俺にいう事で『自分のせいで彼女たちに必要以上の処分が下ったらどうしよう』って心配したかもしれない。……侮辱されて悔しい思いをしただろうが、俺の知ってる朱里は彼氏の権力にぶら下がって相手をやり込めて『ざまーみろ』って思う女じゃないから」
「……概ね、そんな感じです。……彼女たちの事は好きじゃないし、むしろ嫌いだけど、態度を改めてくれるなら処分を下すまでもないと思ってました」
「ん、……でも、俺はそのボイレコを受け取った以上、行動に出るつもりだ」
私は何とも言えなくなって黙り込む。
「気まずいだろう。ごめん。でも恋人として黙っていられない気持ちもあるけど、六割以上は副社長として社内の悪い空気を放っておけないと思ったからだ。誰かが一石を投じた波紋は、時間をおいたら消えるかもしれない。でも何回も石を投じられたら、波紋が消えなくなる可能性もある。そうなったら朱里だけじゃなく、他の社員のためにもならない。俺は他の社員が同じ事をされても同じ行動に出る。……分かってくれるか?」
「……はい。お任せします」
頷くと、尊さんは手を伸ばして膝の上にある私の手をポンポンと叩いた。
「あとは任せてくれ。朱里のミッションは、これから餃子を美味しく食べる事」
これまでの雰囲気を払拭するような、冗談めかした明るい言い方に、私は思わず笑みを零した。
「はいっ! それは大得意です!」
宇都宮まで尊さんとたわいのない話をし、人気店で行列に並んでから食べる餃子はこの上なく美味しかった。
餃子の中には数個食べただけで、もたれはしないけど満腹になる物があるけれど、ここの餃子は「空気か!」というほどあっさりとした味わいだ。
大きめなのに野菜が多めでパクパク食べられるので、私は大盛りご飯を片手に、焼き餃子も水餃子も、揚げ餃子も余す事なく美味しく食べた。
美味しい! しかも安い!
「食いっぷりが良くて惚れ直すわ……」
尊さんは焼き餃子と水餃子のセットを頼んでいて、彼こそ結構食べている。