部長と私の秘め事
「そんな恵ちゃんを、俺だけが甘やかして、俺だけに甘えるようにできるって、物凄いご褒美だね? あ~……、やり甲斐ある」

 涼さんは幸せそうに言い、機嫌良くサラダを食べていく。

「……涼さん、ポジティブモンスターって言われません?」

「そう? ……まぁ……、そうかもね? だって『できなかったらどうしよう』って悩むより、『どうやって可能にするか』考えたほうがワクワクするでしょ。自分が今まで身につけた人脈、権力、金の力にものを言わせて、絶対に懐かない猫ちゃんをデレデレにさせる事を思うと、もう……、楽しみとしか言いようがないね」

「ヒッ……」

 私はうっとりとした彼の微笑みを見て、ゾワリと鳥肌を立たせる。

 そんな私を見て、涼さんはニヤリと笑った。

「言っておくけど逃げようと思っても、もう逃がしてあげられないからね? 一人暮らししていた家っていう退路は断ったし、実家の位置も把握済み、佳苗さんは掌握済み、朱里ちゃんとも仲よくなったし、…………諦めてね?」

 私は毛を逆立てて硬直する猫よろしく、固まって涼さんを凝視する。

「怯えさせて悪いけど、愛が重い自覚はあるから、負担にならないように適度に軽くする努力はするよ。恵ちゃんの自由時間も尊重するし、朱里ちゃんやその他の友達との時間もね」

「……ど、どうも……」

「でも、男友達もいる場に遊びに行くなら、多少は姿を現してアピールしないとだけどね」

 笑顔が……、怖い……。

 私はタラタラと冷や汗を流しながら、お粥を食べる。

 猫たちの遊び場にいきなりライオンが現れたら、みんなビビってちりぢりになっていくだろう。

「そういえば、昨晩の事だけど」

 涼さんは話題を変える。

「今後も何かパーティーがあったとしても、俺と一緒にいるところは見られたくない?」

「う……」

 そもそもの話題を出され、私は気まずくなる。

「……昨日も言いましたけど、今回はうちの会社主催のパーティーでしたから、他の社員に涼さんみたいな人と関わりがあるって知られるのが怖かったんです。……一緒にいた女性社員は、悪い人ではないんですが、ちょっと前までは強い野心から、高収入の彼氏がいるのに篠宮さんの事も狙おうとしていた人で……。以前に朱里と一緒に話をして、改心してくれたとは思っているんですが、涼さんを見せたらあまりに刺激物すぎて、どんな反応をするか怖くて……」

「……刺激物……。●ンパッチみたいだね」

 涼さんはちょっとシュンとしつつ、私の言った言葉を反復する。

「また、懐かしい奴っすね。今はパチパチ●ニックだと思いますけど」

「……父が寝てる俺の口の中に入れてきたんだよ……」

 さっきから思うけど、涼さんのお父様って何者だ?

 かなり愉快な人っぽいけど……。

「……まぁ、でも言いたい事は分かったよ。俺を守ろうとしてくれたんだね? ありがとう」

「……あ、スーパーポジティブだ」

「そこは都合のいいように解釈しないと。……でも、あながち間違えていないでしょ? 恵ちゃん自身が面倒な事を回避しようとしたのもあるけど、俺を巻き込まないように気を遣ってくれた……とも言えるし」

「まぁ、そうですけど……」

 私はボソッと返事をし、はぐっとお粥をすくった蓮華を口にする。

「そういえば、篠宮ホールディングスにしれっとアンド・ジンの御曹司いるよね」

「あっ……、神くんの事、ご存知ですか」

 さすがだな~と思って頷いていると、涼さんはちょっと微妙な顔をして笑った。

「彼がまだ八歳ぐらいだった頃、三百円ぐらいで買った黄金の玉をそっと持たせて『五百万円する純金の玉だから大切にしてね』ってイタズラした事あったなぁ……」

 それを聞いた瞬間、私は鼻からお粥を噴射しそうになった。

「どっ、……どうなったんですか!?」

 笑いを堪えて先を促すと、涼さんは冷や奴を食べてから悩ましげに言った。

「輝征くん、ビビっちゃってね。半べそをかいて親御さんに相談したらしく、親御さんからうちの親、それで俺にきて、……まぁ叱られたね」

「当たり前でしょうが。……しかし八歳年上……、十六歳でその悪戯って……」

「当時の俺は、パーティー会場にお気に入りのカブトムシを入れた虫かごを下げて登場するとか、かなり尖ってたね」

「遅れた厨二病だったんじゃないですか?」

「……まぁ、……否めない。あまりにモテすぎて何もかも嫌になっていた頃でもあったから、とにかく奇抜な事をしてたんだ」

「……あ、神くんを知ってるなら、三ノ宮春日さん、知ってます?」

 水を向けてみると、彼は「ああ、うんうん」と頷いた。
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