部長と私の秘め事
 両親は仲のいい夫婦で、父は写真を撮るのが好きだった。

 一眼レフで撮影するのが好きで、家族の写真を沢山撮り、休日は公園に行って、花や草木、空、街並み、色んなものを撮っていた。

 リビングには、小さな賞に受賞したという夕焼けの写真が飾ってあって――。

 私は、父の撮る写真が好きだった。

 父が見る世界はとても優しくて、自分もいつかそんなふうに世界を切り取ってみたいと思っていた。

『写真を教えて』って言ったら、一眼レフは高価だからか、比較的安価なデジタルカメラを買い与えてくれたっけ。

 それで私は、父のような優しい写真を撮りたくて、沢山写真を撮った。

 ……けど、子供だから飽きっぽくて、すぐカメラへの興味を失って友達と遊び耽っていた。

 私はカチカチと歯を鳴らし、涙を流す。

 ゆっくりとその場にしゃがみ込むと、通行人がチラッと私を見た。

「朱里、大丈夫か?」

 私はグスッと洟を啜り、震える手で尊さんのTシャツを掴む。

「友達が羨ましかったの……っ」

 私は涙で崩れた声で言い、目から涙をポロポロと零す。

「夏休みを前にして、みんな田舎に帰省するとか、国内、海外に旅行に行くとか、楽しそうに予定を口にしてた……っ。だから、私っ、――――お父さんに『自分も旅行に行きたい。どこかに行きたい』って我が儘を言ったの……っ。~~~~っでもっ、『忙しいから無理だ』って言われて……っ、それで……っ、私……っ」

 私は――、大好きな父に罪深い事を言ってしまった。

『お父さんなんて、大っ嫌い!!』

「それで……っ、お父さんは……っ」

 私はがくりと脱力し、地面の上に膝をつく。

 傘が落ち、細い雨が直接体を濡らしてきた。

「朱里、大丈夫だ」

 尊さんが泣きそうな声で言い、私を抱き締める。

「~~~~っ、お父さんっ、ぶら下がってたの! 朝起きて部屋から出て……っ、リビングダイニングのカーテンが半分開いていて、その間から()()が見えたから、カーテンを捲ったら……っ!」

 ――父は、父ではないモノに変わり果て、雨ざらしになっていた。

「私が……っ、わた……っ、ううぅううぅ……っ! 私が……っ!」

「朱里!」

 尊さんは傘を投げ捨て、半狂乱になった私を抱き締めた。

 そして激しく嗚咽する私にキスをし、力一杯腕に力を込める。

 本来なら不規則に息を吸って吐いて……と、なっていたところ、唇を塞がれて呼吸が止まり、私は強制的に嗚咽を鎮められていく。

 そのまま、私は雨に濡れたまま尊さんにキスをされ、力強い腕に支えられていた。

 酸欠になりかけてボーッとした頃、尊さんはそっと顔を離す。

「落ち着いたか?」

 尋ねられ、私はぼんやりとしながら小さく頷く。

 彼は私の傘を拾って持たせ、自分の傘も拾って立ちあがった。

「行こう。思い出したならここに長居する必要はない」

 尊さんは濡れるのも構わず私を抱いて立ちあがらせ、支えながら歩き始めた。

 通行人は私たちをジロジロと見ていたけれど、奇異の目を気にする事ができる余裕もなかった。

 私は魂が抜けたような状態で歩き、駐車場まで戻って車に乗った。




 尊さんは車に戻ったあと、こうなるのを見越してか後ろの席からバスタオルを出し、濡れた私をワシャワシャと拭く。

 そうされても私はお礼すら言えず、放心したままだ。

 そのあと車は発進し、私はボーッと車外の景色を見たまま助手席にもたれかかっていた。



**



 車は三田のマンションの駐車場に着き、私はまた尊さんに支えられて中に入って行く。

 真実を思い出したのに私は対応する力を失い、ずっと思考停止したままだ。

 家の中に入ったあと、尊さんは私を洗面所に連れて行って手早く服を脱がせ、自分も脱いでからバスルームに入る。

 彼は途中でフェリシアに命令し、先にお湯を貯めていたみたいだった。

「あったまろうな」

 尊さんはいつも使っているクリップで私の髪を纏め、シャワーを全身にかけて体をさするように温めていく。

 されるがままに秘所も洗われた私は、尊さんと一緒に浴槽に浸かった。
< 500 / 525 >

この作品をシェア

pagetop