部長と私の秘め事
「懐かしいな」
父はアルバムを持ってくるとテーブルの上に置き、私たちに向かって開いてみせた。
「わぁ……」
中には若い時の父と尚美さんの写真があり、私はまるでまったく知らない人の思い出を見る気持ちでそれらを見ていく。
尚美さんはしっとりとした雰囲気の優しげな女性で、タイプ的にはどことなく母に通じるところがあるかもしれない。
「わ……。亮平が赤ちゃんだ」
写真を見て呟くと、美奈歩が「当たり前じゃん……」と呟いた。
こうやって写真を見ていくと、あの亮平もかつては無垢な子供だったのだと分かる。
彼は生傷が絶えない少年時代を送り、少年サッカーチームにも入っていたみたいだ。
やがて美奈歩が生まれ、私はお人形さんみたいなおかっぱ少女を見て、思わず「かんわいい……」と呟く。
上村家の四人も、子供の入学や運動会などと共に歴史を刻み、みんなとても幸せそうな顔をしていた。
そのうち、少し痩せたように感じる尚美さんが単体で写った写真が増え、家族写真が何枚も撮られたあと――、彼女はアルバムから姿を消した。
自分の父が亡くなった時と似た感覚を味わった私は、無意識に溜め息をつく。
「これが、それぞれの家族の歴史だ。……そして僕たちはこれから新しい上村家として歩んでいく。……成長してから連れ子同士で上手くいかなかったのは分かるけど、……なるべくみんなで思い出を作っていこう。美奈歩や朱里ちゃんに子供が生まれた時、今野家、上村家、そして新しい上村家の軌跡を孫に教えてあげるんだ」
父に言われた私は、今度はなんの抵抗もなく「うん」と頷けた。
そのあと、美奈歩がチラッと私を見てからボソッと言った。
「……あの……。……色々悪かった。……お父さんを亡くしてたって事は知ってたけど、自殺でって知らなくて……。……私もお母さんを亡くして心を閉ざしていたけど、……朱里、……も、……凄くつらかったと思う。……つらいのは自分だけじゃないって分かったし、……お父さんの言う通り、一旦これで区切りをつけて、……前を向くべきなんだと思う」
ぎこちない美奈歩の歩み寄り方を聞き、私はにっこり笑って立ちあがった。
そしてトトト……と彼女に歩み寄ると、ぎゅー……とハグをする。
「お姉ちゃんを頼っていいからね」
「何言ってんの。泣いてたくせに」
「お姉ちゃんだって泣くもーん。人間だもの」
「名言みたいに言うな」
そんな私たちのやり取りを聞いて、両親と尊さんは笑っている。
――良かった。
やっとこれでピースが不揃いで合っていなかった〝上村家〟が、一つのパズルとして完成した気がする。
物事には何でもタイミングっていうものがあって、以前に尊さんが挟まってくれて、美奈歩との間の壁が大分低くなったように思えたけれど、まだギクシャクはしていた。
その根底にあるものは、〝親を喪って傷付いている〟心だ。
私も美奈歩も、寂しさや「父(母)が生きていたら今はもっと違う人生を歩んでいた」という想いを抱いていたと思う。
本当は新しい家族が悪いなんて事はないと分かっていたけれど、大切な人を喪った痛みを誰かのせいにしなければ、やっていられなかったんだと思う。
私は新しい家族に馴染めなかった理由を、亮平と美奈歩のせいにしていた。
本当は心のどこかで、母に対しても「お父さんの事をもう愛してないの?」と責める想いがあったかもしれない。
それは、亮平や美奈歩もきっと一緒だ。
亮平は私より大人だから、歩み寄ろうとしてくれたけど、ちょっと入り方が下手だったのと、私がめちゃくちゃ警戒した事によって上手くいかずにいた。
美奈歩と私はツンツン同士で、言葉を交わす事もなかった。
……でも今は。
私は微笑み、両手でポンポンと美奈歩の肩を叩いた。
「今度マジでご飯かお茶行こ。私の友達も紹介したいし」
「……い、いいけど……」
「彼氏できたら紹介してね? お姉ちゃんがしっかり見定めてあげる」
「いきなりお姉ちゃんぶるなよ……」
美奈歩はいまだ突っ込み気質だけど、以前よりずっと柔らかな雰囲気だ。
「亮平くんの都合がついたら、今度家族全員でお食事しましょうか。その時は篠宮さんも来てください」
母に言われ、尊さんは「はい、ありがとうございます」と微笑む。
「あと、朱里。これ、澄哉さんのカメラね。こっちは朱里がもらったデジカメだけど、澄哉さんが使ってた一眼レフも一つ持っていったら? お母さんも一つ持ってるの。澄哉さん、趣味の人だから、カメラは沢山持っていたのよ。『若菜さん、お小遣いで買っていい?』って確認してね」
母はクスクスと笑い、私に立派なカメラを渡してきた。
「ありがとう。大切にするね」
私は両手でズシリとしたカメラを受け取り、母に笑い返した。
父はアルバムを持ってくるとテーブルの上に置き、私たちに向かって開いてみせた。
「わぁ……」
中には若い時の父と尚美さんの写真があり、私はまるでまったく知らない人の思い出を見る気持ちでそれらを見ていく。
尚美さんはしっとりとした雰囲気の優しげな女性で、タイプ的にはどことなく母に通じるところがあるかもしれない。
「わ……。亮平が赤ちゃんだ」
写真を見て呟くと、美奈歩が「当たり前じゃん……」と呟いた。
こうやって写真を見ていくと、あの亮平もかつては無垢な子供だったのだと分かる。
彼は生傷が絶えない少年時代を送り、少年サッカーチームにも入っていたみたいだ。
やがて美奈歩が生まれ、私はお人形さんみたいなおかっぱ少女を見て、思わず「かんわいい……」と呟く。
上村家の四人も、子供の入学や運動会などと共に歴史を刻み、みんなとても幸せそうな顔をしていた。
そのうち、少し痩せたように感じる尚美さんが単体で写った写真が増え、家族写真が何枚も撮られたあと――、彼女はアルバムから姿を消した。
自分の父が亡くなった時と似た感覚を味わった私は、無意識に溜め息をつく。
「これが、それぞれの家族の歴史だ。……そして僕たちはこれから新しい上村家として歩んでいく。……成長してから連れ子同士で上手くいかなかったのは分かるけど、……なるべくみんなで思い出を作っていこう。美奈歩や朱里ちゃんに子供が生まれた時、今野家、上村家、そして新しい上村家の軌跡を孫に教えてあげるんだ」
父に言われた私は、今度はなんの抵抗もなく「うん」と頷けた。
そのあと、美奈歩がチラッと私を見てからボソッと言った。
「……あの……。……色々悪かった。……お父さんを亡くしてたって事は知ってたけど、自殺でって知らなくて……。……私もお母さんを亡くして心を閉ざしていたけど、……朱里、……も、……凄くつらかったと思う。……つらいのは自分だけじゃないって分かったし、……お父さんの言う通り、一旦これで区切りをつけて、……前を向くべきなんだと思う」
ぎこちない美奈歩の歩み寄り方を聞き、私はにっこり笑って立ちあがった。
そしてトトト……と彼女に歩み寄ると、ぎゅー……とハグをする。
「お姉ちゃんを頼っていいからね」
「何言ってんの。泣いてたくせに」
「お姉ちゃんだって泣くもーん。人間だもの」
「名言みたいに言うな」
そんな私たちのやり取りを聞いて、両親と尊さんは笑っている。
――良かった。
やっとこれでピースが不揃いで合っていなかった〝上村家〟が、一つのパズルとして完成した気がする。
物事には何でもタイミングっていうものがあって、以前に尊さんが挟まってくれて、美奈歩との間の壁が大分低くなったように思えたけれど、まだギクシャクはしていた。
その根底にあるものは、〝親を喪って傷付いている〟心だ。
私も美奈歩も、寂しさや「父(母)が生きていたら今はもっと違う人生を歩んでいた」という想いを抱いていたと思う。
本当は新しい家族が悪いなんて事はないと分かっていたけれど、大切な人を喪った痛みを誰かのせいにしなければ、やっていられなかったんだと思う。
私は新しい家族に馴染めなかった理由を、亮平と美奈歩のせいにしていた。
本当は心のどこかで、母に対しても「お父さんの事をもう愛してないの?」と責める想いがあったかもしれない。
それは、亮平や美奈歩もきっと一緒だ。
亮平は私より大人だから、歩み寄ろうとしてくれたけど、ちょっと入り方が下手だったのと、私がめちゃくちゃ警戒した事によって上手くいかずにいた。
美奈歩と私はツンツン同士で、言葉を交わす事もなかった。
……でも今は。
私は微笑み、両手でポンポンと美奈歩の肩を叩いた。
「今度マジでご飯かお茶行こ。私の友達も紹介したいし」
「……い、いいけど……」
「彼氏できたら紹介してね? お姉ちゃんがしっかり見定めてあげる」
「いきなりお姉ちゃんぶるなよ……」
美奈歩はいまだ突っ込み気質だけど、以前よりずっと柔らかな雰囲気だ。
「亮平くんの都合がついたら、今度家族全員でお食事しましょうか。その時は篠宮さんも来てください」
母に言われ、尊さんは「はい、ありがとうございます」と微笑む。
「あと、朱里。これ、澄哉さんのカメラね。こっちは朱里がもらったデジカメだけど、澄哉さんが使ってた一眼レフも一つ持っていったら? お母さんも一つ持ってるの。澄哉さん、趣味の人だから、カメラは沢山持っていたのよ。『若菜さん、お小遣いで買っていい?』って確認してね」
母はクスクスと笑い、私に立派なカメラを渡してきた。
「ありがとう。大切にするね」
私は両手でズシリとしたカメラを受け取り、母に笑い返した。