部長と私の秘め事
「尊さん、尊さん、記念写真」

「ん」

 私は自撮り棒にスマホをセットし、お好み村を背景に記念写真を撮る。

「よしっ」

 写真を確認したあと、私はスマホをしまって自撮り棒を折りたたみ、元気いっぱいに言う。

「村だ! 食い尽くしましょう!」

 いい匂いを嗅いで鼻をスンスンさせつつ言うと、尊さんは「マジで魔王だ」と笑い崩れる。

「イチオシのお店とかあります?」

「俺も詳しくないんだけどなぁ……。『あとむ』って店が良さそうだから、行ってみるか」

「はい!」

 その後、ビルの四階にあるお店に行くと、人気店らしく行列があったので大人しく並ぶ。

 黄色い暖簾には『あとむ』と書かれてあり、順番になってから私たちは鉄板に面したカウンター席に座った。

 メニューを見てソワソワしつつ迷うも、尊さんはドヤ顔で言う。

「俺は富豪だからスペシャルをいく」

 彼は一番高い、色々入っているやつを頼むらしく、私は「おお……」とうめく。

「私も同じの! ……に、お餅とチーズトッピングしていいですか?」

「よきにはからえ」

 さらに私たちはシェアするとんぺい焼き、鉄板焼き部門ではタン、豚トロ、牡蠣のバター焼き、飲み物は尊さんはビール、私は梅酒サワーを頼んだ。

「んまっ、……んまぁい……っ」

 乾杯したあと、私たちは鉄板の上でジュージューいっている料理をシェアし、お好み焼きは一人一枚しっかり食べる。

 お酒を飲みながら美味しい料理に舌鼓を打ち、ゆっくり語らいたいところだけれど、人気店なので行列はまだまだ続いている。

 カウンター席のみのこぢんまりとしたお店なので、長居をしては申し訳ないと思い、ペロッと食べたあとは「ごちそうさまでした」を言ってお店を出た。

「はー……! 食べた! いい村でした」

「魔王アカリンなら『ハシゴする』って言いかねないと思ってたけどな」

 尊さんはクスクス笑い、ネタを引きずる。

「すこやかに一晩寝たあと、ハラペコタンクがゼロに戻るので、今度は別の場所を攻めに行くんですよ」

 私も適当にそれっぽい事を言い、クスクス笑う。

 慣れない街にいるのに、尊さんと一緒だからかまったく不安じゃないし、緊張もしていない。

 けれど明日の事を思うと、旅行先で満腹になって幸せ一杯……という気分ではない。

「……明日、どうなるんでしょうね」

 ゆっくりと路面電車のある通りへ向かいながら、私は尊さんの手を握って尋ねる。

「どうなるも、正々堂々、向き合って想いの丈をぶつけるしかない」

「……頑張ってくださいね。遠くから応援してます」

「ん?」

 尊さんがいきなり立ち止まったので、私は手をクンッと引っ張られて「うわお」とバランスを崩す。

「なんですか。急ブレーキ危険!」

 文句を言うと、尊さんはしげしげと私を見つめてくる。

「遠くって?」

「え? 二人で会うんでしょう? お邪魔でしょうし、どこか別の所で時間潰ししてますよ」

「俺と宮本の話、気にならないわけ?」

「気になりますよ! 今最もホットな話題ですよ!」

「ラジオのDJか」

 尊さんはフハッと息を吐くように笑ったあと、またゆっくり歩き出す。

「宮本は多分、いいって言うから、同席しろよ。朱里にも聞く権利はあると思うし」

「……そ、そりゃあ気になりますけど、宮本さんと私、初対面ですよ? しかも元カノと今カノ! その二人が顔を合わせた上で過去の話って……、気まずくないです?」

「でも朱里は、俺が宮本と二人になるの嫌だろ? 向こうの旦那さんも同じだと思う」

 そう言われ、私はハッとする。

「『今さら寄りを戻すなんてあり得ない』って、朱里も宮本の旦那さんも信じてると思うけど、気になるもんは気になるし、『過去に清算つけてこい!』って送りだす気持ちでいる一方で、『過去の恋人に会って少しでも気持ちが揺らいだらどうしよう』って不安にならないか? ……逆の立場で、俺が朱里を元彼と二人で話させるなら、気になって仕方がない」

「……昭人と会った時、変装してついてきましたもんね」

「……あいつの事はさておき、今のは架空の元彼の話だよ」

 尊さんは溜め息混じりに笑い、繋いだ手を前後に揺らす。
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