部長と私の秘め事
「今の俺は朱里一筋だ。お前しか見てないし、朱里しかほしくない。こんな事しか言えない自分が不甲斐ないが、信じてほしい」

「……信じてます」

 今まで尊さんが私を裏切った事などない。

 彼は常に全力で私を守り、支え、入社して〝速水部長〟として会う前からも私を見守ってくれていた。

 こんなに大きな愛で包み込んでくれる人を、他に知らない。

 ――だから大丈夫。

 自分に言い聞かせるも、宮本さんという大きな存在を前にして、私の心はグラグラと揺れ続けていた。

 尊さんは色んな事に絶望し、モテる要素は沢山あるのに、誰にも本気にならなかった。

 そんな彼が唯一心を許した女性というだけで、ただの元カノ以上にハードルが上がる。

 加えて絶対に美人だし、性格もいいし、嫌な所のない人だ。

 これで少しでも分かりやすい短所のある人なら、多少安心できるかもしれないけど、尊さんが好きになった女性なら、ほぼ完璧に近いだろう。

(短所があったなら『見下せる』と思うなんて……)

 自分の考えの浅ましさに落ち込んだ私は、涙を流しズッと洟を啜る。

「泣くなよ……」

 尊さんは困ったように言い、私の頭を撫でる。

 そのあと彼は溜め息をつき、「しゃーねぇな」と呟いてポケットからスマホを出した。

 尊さんはトントンと液晶画面をタップしたあと、「怒るなよ」と前置きして画面を見せてきた。

「ん……?」

 フォルダには【朱里】とつけられ、ズラリと私の写真が並んでいる。

 家の中でコソッと撮ったらしきものや、寝顔を激写したもの、デートしたレストランではにかんで笑っているものとか、沢山だ。

「……俺がこんなにも夢中になって、思い出をとっておこうと思う相手は朱里しかいない。昔は今ほど心の余裕がなくて、食事にしろ風景にしろ、写真に収めておこうなんて気持ちは起こらなかった。……ま、旅行した時は別だけどな。……だから俺は宮本の写真も持ってないんだ」

「……宮本さんの写真、持ってないんですか?」

 私は意外に思って目を丸くする。

「当時、飲み会とかで写真を撮っていた奴はいて、みんなと一緒の写真なら誰かが持ってるかもしれない。でも俺が〝誰か〟を撮る事はなかった。……朱里は中村さんと気軽に写真を撮るかもしれないが、俺はそう簡単に人の写真を撮らないんだよ。……涼の写真を見せた時も、大学生時代のやつだったろ? 頻繁に会う親友ですらその扱いだ。会社の人なんて写真に撮ろうとも思わないんだよ」

 彼はスマホをポケットにしまい、私の手を握ってまたゆっくり歩き出す。

「……まともな家族写真を持ってなかったからかな。篠宮家に引き取られたあと、それまで母が撮っていただろう、子供の俺や妹の写真がどこにいったのか分からないんだ。だから俺の手元には家族写真がないし、『大切な人を作ってもどうせ失う』っていう諦めが常にあった。……だから俺は、人の写真を撮るのが好きじゃないんだ。……〝大切な人の写真〟にコンプレックスがあるのかもしれない」

 尊さんはそう言ったあと、溜め息をつきつつ笑う。

「『家族写真すら持っていない俺が、今さら誰かの写真をとって記念に残そうとするのかよ』って、心の中でもう一人のひねくれた俺が言うんだ。……先日の朱里のお父さんの話にも繋がるけど、写真って『この瞬間をとっておきたい』と思う場面を切り取るものだろ? ……俺はそう思えるほど周囲のものに感謝できていなかった。……幸せじゃなかったんだ」

 私はギュッと彼の手を握る。

「暗い話になって悪かったけど、今は違うからな? 朱里はコロコロと表情が変わって一緒にいて楽しいし、お前がうまそうに飯を食う姿を見るのが、何より好きなんだ。朱里と一緒にいると、先日のランドだって『らしくねぇ』って思ったけど、すげぇ楽しくて記念に残したくて色々写真を撮った。……お前が俺の世界を変えてくれたんだよ。それは誇って、自信を持ってくれ」

「……はい」

 頷いた私は、両手でピシャッと自分の頬を叩いた。

「もう大丈夫!」

「あんまり強く叩くなよ? その大福みたいなほっぺは評価してるんだから」

「お腹の次はほっぺですか!」

 私は思わず、尊さんに評価されてるお腹をさすりつつ突っ込む。

「朱里の体は、全身どこをとっても愛しいし、可愛い。評価してるよ」

「もぉ……」

 私はむくれたあとに破顔し、再度尊さんの手を握ると彼に寄り添った。



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