部長と私の秘め事
十二年ぶりの再会
翌日、私たちはまた路面電車に乗って、今度は立町駅で降りた。
昨日の八丁堀駅より一駅すぎただけで、場所はほぼ変わらない。
電車から降りて左手にある牛丼屋さん前で、宮本さんが待っているとの事だけど……。
ドキドキして横断歩道を渡ると、赤い看板の前に日傘を差した女性が立っている。
「……速水くん?」
そう呼びかけられ、何より私がドキンッと胸を高鳴らせてしまった。
おそるおそる女性を見ると、ショートヘアの爽やかな印象の女性が立っている。
耳ぐらいまで前髪を伸ばして真ん中で分けた彼女は、色白で頭が小さい。
耳には大ぶりなピアスがあり、痩身には紺とアイボリーのボーダーのカットソーと、インディゴのワイドデニムを身に纏っている。
ナチュラルメイクに薄付きのリップがとても彼女らしいと思った。
まるでこの季節にぴったりな、爽やかな夏の風みたいな女性だ。
「……宮本か?」
「うん。今は夏目だけど、ややこしいから宮本でいいよ。お久しぶり! そっちが婚約者の上村朱里さんだね? こんにちは。初めまして。ようこそ、広島へ」
彼女はまるで以前から私を知っていたように温かく迎えてくれ、魅力的に笑う。
尊さんはそんな彼女を見て泣きそうな表情になり、その場で綺麗な一礼をした。
「…………お久しぶりです」
頭を下げた彼を見て、宮本さんも一瞬泣きそうな顔になる。
けれどニコッと笑うと、道の奥を指さした。
「お店、予約してるから行こうよ。パフェの美味しいお店なんだ。話をして、終わったら夫と子供を呼ぶから、みんなでご飯を食べよう」
「……分かった」
そのあと、私たちは中の棚商店街にあるカフェに入った。
「ごめんね。本当はせっかく来てくれたから、広島らしい物を食べられる所が良かったかもしれないけど、ここ、個室があるから」
「いや、込み入った話をするから、そのほうがいい。気を遣ってくれてありがとう」
個室に案内されて座ったあと、宮本さんは「暑いね」と私に笑いかける。
私はそれに「ホントですね」と相槌を打ちながら、昨日の夜に抱いていた不安が杞憂だったと知った。
宮本さんはとても自然体で、尊さんに懐かしそうな目は向けるものの、彼を異性として見てはいない。
一緒にいる私に常に配慮してくれ、嫌な想いをしないように気遣ってくれているのだと分かった。
メニューを見て宮本さんおすすめのパフェを頼み、尊さんはホットコーヒーを頼んだ。
「そうだ、先にこれをどうぞ」
宮本さんは手にしていた紙袋をズイッと勧めてくる。
「私の住んでる呉のグルメで、揚げケーキに餡子が入っているフライケーキや、海軍カレー、揚げかまぼこのがんす、呉が発祥のラグビーボール型をしたメロンパンもあるよ」
「変わった形なんですね」
紙袋を受け取った私が言うと、彼女はニコッと笑う。
「昔、マクワウリがメロンと呼ばれていた頃、高額で食べられなかった人のためにラグビーボール型のメロンパンを考案したんだって。ビスケット生地の中にクリームがずっしり詰まってて、一般的なメロンパンとは違うから、旅の思い出に食べてみて」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、尊さんが例の沢山の紙袋を宮本さんに差しだした。
「……東京にいたのに東京土産っていうのも変かもしれんが、……お子さんもいるし一緒に食べてくれ」
「沢山ありがとう。うちの子、喜ぶわ~」
宮本さんは大量のお菓子を見て破顔し、座っている横に置く。
「さて……」
彼女はそう言ってお水を飲み、溜め息をつく。
「ここからはあまり面白くない話になるけど、……速水くんは大体の事は知っていると思っていいのかな?」
「……手紙を書いてくれたのに、継母が妨害したせいで俺のもとには届いていなかった。酷い目に遭ってつらい想いをした直後だったのに、とても残酷で酷い事をしたと思う。……無視して悪かった」
尊さんが苦しそうな顔で謝ると、宮本さんは微笑んで「うん」と頷く。
「ま、そうだろうなと思ってた。速水くんはひねくれた人だけど、親しくしていた同僚の手紙を無視する人ではないと信じてた。仮に継母に何か言われて、無視するように命令されてたのかも……とも思ったけど、君はあの人を心底嫌っていたし、素直に言う事を聞くなんてあり得ないかな? って思った。だから〝事情〟があるんだと言い聞かせていた」
「すまない」
昨日の八丁堀駅より一駅すぎただけで、場所はほぼ変わらない。
電車から降りて左手にある牛丼屋さん前で、宮本さんが待っているとの事だけど……。
ドキドキして横断歩道を渡ると、赤い看板の前に日傘を差した女性が立っている。
「……速水くん?」
そう呼びかけられ、何より私がドキンッと胸を高鳴らせてしまった。
おそるおそる女性を見ると、ショートヘアの爽やかな印象の女性が立っている。
耳ぐらいまで前髪を伸ばして真ん中で分けた彼女は、色白で頭が小さい。
耳には大ぶりなピアスがあり、痩身には紺とアイボリーのボーダーのカットソーと、インディゴのワイドデニムを身に纏っている。
ナチュラルメイクに薄付きのリップがとても彼女らしいと思った。
まるでこの季節にぴったりな、爽やかな夏の風みたいな女性だ。
「……宮本か?」
「うん。今は夏目だけど、ややこしいから宮本でいいよ。お久しぶり! そっちが婚約者の上村朱里さんだね? こんにちは。初めまして。ようこそ、広島へ」
彼女はまるで以前から私を知っていたように温かく迎えてくれ、魅力的に笑う。
尊さんはそんな彼女を見て泣きそうな表情になり、その場で綺麗な一礼をした。
「…………お久しぶりです」
頭を下げた彼を見て、宮本さんも一瞬泣きそうな顔になる。
けれどニコッと笑うと、道の奥を指さした。
「お店、予約してるから行こうよ。パフェの美味しいお店なんだ。話をして、終わったら夫と子供を呼ぶから、みんなでご飯を食べよう」
「……分かった」
そのあと、私たちは中の棚商店街にあるカフェに入った。
「ごめんね。本当はせっかく来てくれたから、広島らしい物を食べられる所が良かったかもしれないけど、ここ、個室があるから」
「いや、込み入った話をするから、そのほうがいい。気を遣ってくれてありがとう」
個室に案内されて座ったあと、宮本さんは「暑いね」と私に笑いかける。
私はそれに「ホントですね」と相槌を打ちながら、昨日の夜に抱いていた不安が杞憂だったと知った。
宮本さんはとても自然体で、尊さんに懐かしそうな目は向けるものの、彼を異性として見てはいない。
一緒にいる私に常に配慮してくれ、嫌な想いをしないように気遣ってくれているのだと分かった。
メニューを見て宮本さんおすすめのパフェを頼み、尊さんはホットコーヒーを頼んだ。
「そうだ、先にこれをどうぞ」
宮本さんは手にしていた紙袋をズイッと勧めてくる。
「私の住んでる呉のグルメで、揚げケーキに餡子が入っているフライケーキや、海軍カレー、揚げかまぼこのがんす、呉が発祥のラグビーボール型をしたメロンパンもあるよ」
「変わった形なんですね」
紙袋を受け取った私が言うと、彼女はニコッと笑う。
「昔、マクワウリがメロンと呼ばれていた頃、高額で食べられなかった人のためにラグビーボール型のメロンパンを考案したんだって。ビスケット生地の中にクリームがずっしり詰まってて、一般的なメロンパンとは違うから、旅の思い出に食べてみて」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、尊さんが例の沢山の紙袋を宮本さんに差しだした。
「……東京にいたのに東京土産っていうのも変かもしれんが、……お子さんもいるし一緒に食べてくれ」
「沢山ありがとう。うちの子、喜ぶわ~」
宮本さんは大量のお菓子を見て破顔し、座っている横に置く。
「さて……」
彼女はそう言ってお水を飲み、溜め息をつく。
「ここからはあまり面白くない話になるけど、……速水くんは大体の事は知っていると思っていいのかな?」
「……手紙を書いてくれたのに、継母が妨害したせいで俺のもとには届いていなかった。酷い目に遭ってつらい想いをした直後だったのに、とても残酷で酷い事をしたと思う。……無視して悪かった」
尊さんが苦しそうな顔で謝ると、宮本さんは微笑んで「うん」と頷く。
「ま、そうだろうなと思ってた。速水くんはひねくれた人だけど、親しくしていた同僚の手紙を無視する人ではないと信じてた。仮に継母に何か言われて、無視するように命令されてたのかも……とも思ったけど、君はあの人を心底嫌っていたし、素直に言う事を聞くなんてあり得ないかな? って思った。だから〝事情〟があるんだと言い聞かせていた」
「すまない」