部長と私の秘め事
「お前は性格悪くないし、単に付き合いが悪かっただけだと思う。でも周りは〝孤高の上村さん〟に対して〝何か〟言っていたはずだ。それを聞いてしまった時、お前は傷付かないように自分を守った。その結果、傷付くのを怖れて、『私はどうせこうだから』と自分に言い聞かせ、納得させていた」
彼の言葉を聞いていると、心の奥まで手を入れられ、自分でも気づいていなかった一面を引っ張り出されているような気持ちになる。
「だからお前は自分を語る時に、ほんのりネガティブなエッセンスが加わるんだよ」
言われて、深く納得した。
「気持ちは理解する。でもいい加減、幸せになる覚悟を決めろよ。自分を卑下せず、俺に愛されて幸せなら、自分をもっと好きになってやれ。……って言いたかったんだ」
「っ~~~~」
心底私を思いやってくれる言葉に涙ぐんだ私は、慌てて目を瞬かせて涙を誤魔化す。
「…………でも、『私、幸せ!』なんて言ったら、嫉妬されません?」
彼の言葉に逆らいたい訳じゃないけれど、ついそう思ってしまった。
尊さんと付き合っている事は、まだ会社の人には内緒にしている。
でも結婚したら嫌でもバレるだろうし、その時は彼を狙っていた人に絶対に何か言われる。
私だって本当は、こんなに素敵な人と付き合って、お姫様みたいなデートをしたって事を色んな人に自慢したい。
けど、「自慢しやがって」とか「お前みたいなブスにイケメンは似合わねーよ」と言われないか、とても怖い。
幸せが大きいほど、その代償として強い嫉妬が待ち構えているのは、承知しているつもりだ。
「……あのさ、誰に遠慮してる訳?」
尊さんに言われ、私は目を瞬かせて彼を見る。
彼はハンドルを握って前を向いたまま、迷いなく言った。
「幸せになる事をためらうなよ。嬉しかったら『嬉しい』って言っていいんだ。お前の幸せを願ってるのは、俺や家族、友達だろ? どうでもいい奴の事より、朱里が幸せになったら喜んでくれる人の事を考えろよ」
「はい……」
そう言われ、自分が大切な人たちより、不特定多数の〝皆〟を気にしていたと気づかされた。
「まだ付き合いたてだから、俺はお前の好き嫌いを詳しく知らない。だから色んな事を逐一報告してくれると、すげぇ助かる。嬉しい事も幸せだと感じた時も、素直に言ってくれると『そうか』って安心できる。食べ物の好き嫌いや、何をされたら嫌かも知りたい。だからもっと素直に感情を表してほしい」
最後の言葉を聞き、ストンと納得した。
「……そうですね。……私、自分を押し殺すのが癖になってました」
呟くように言うと、尊さんは「ん」と頷く。
「自慢しろとは言わないけど、嬉しい事があったらシェアしたいのは普通だろ。美味い飯を食ったらSNSに写真を投稿するぐらい、誰だってやってる。他人の幸せを見て僻むほうがおかしいんだから、遠慮する必要はない。どうせそいつらだって、嬉しい事があったら誰かに自慢してるんだから」
スパッと一刀両断する彼を見て、私はしばし呆然とする。
「お前を嫌う奴は、お前が何をしても嫌うんだよ。そんな奴の事を気にする時間が勿体ない。嬉しい事、幸せな事をして『おめでとう、良かったね』って言ってくれる人で周りを固めとけ。あとは気にするだけ無駄だ」
「……凄いですね。私、そういうふうに思った事なかったです」
私がしみじみと言うと、尊さんは溜め息混じりに言った。
「俺さ、もう三十二歳なワケ。そりゃ二十代の社員におっさんって言われるよ」
あ、割と気にしてる。
「三十五歳まであっという間だし、四十歳になるのもすぐだろ。気がついたら五十歳になって人生後半戦だ。ボーッとしてたら一年なんてあっという間に終わるし、いつ病気になり、事故に遭うか分からない。俺は自分の人生を生きるのに精一杯なんだよ。……ただでさえ、幸せになるためのハードルが高くできてるしな」
「……確かに」
怜香さんの事を思いだし、私は深く納得する。
「だから俺は、自分の欲望に正直に生きるようにしてる。後先考えずに行動するのとは違うけど、美味いもんは食べたいし、行きたい所には行っておく。好きな女ができたら徹底的に懐かせて、俺から離れないようにする。……その時、好きな女が素直に好意を受け取ってくれたら最高だ」
最終的に、このまじめな話が始まる前の話題に戻り、彼が何を言いたかったのかを知った。
「まぁ、それらの欲望を叶えるために、日々まじめに働いたり、健康に気を遣ったり、ジムで体力作ったり、色々してるけどな」
凄いなぁ……。
私は溜め息をついたあと、ポツポツと話す。
彼の言葉を聞いていると、心の奥まで手を入れられ、自分でも気づいていなかった一面を引っ張り出されているような気持ちになる。
「だからお前は自分を語る時に、ほんのりネガティブなエッセンスが加わるんだよ」
言われて、深く納得した。
「気持ちは理解する。でもいい加減、幸せになる覚悟を決めろよ。自分を卑下せず、俺に愛されて幸せなら、自分をもっと好きになってやれ。……って言いたかったんだ」
「っ~~~~」
心底私を思いやってくれる言葉に涙ぐんだ私は、慌てて目を瞬かせて涙を誤魔化す。
「…………でも、『私、幸せ!』なんて言ったら、嫉妬されません?」
彼の言葉に逆らいたい訳じゃないけれど、ついそう思ってしまった。
尊さんと付き合っている事は、まだ会社の人には内緒にしている。
でも結婚したら嫌でもバレるだろうし、その時は彼を狙っていた人に絶対に何か言われる。
私だって本当は、こんなに素敵な人と付き合って、お姫様みたいなデートをしたって事を色んな人に自慢したい。
けど、「自慢しやがって」とか「お前みたいなブスにイケメンは似合わねーよ」と言われないか、とても怖い。
幸せが大きいほど、その代償として強い嫉妬が待ち構えているのは、承知しているつもりだ。
「……あのさ、誰に遠慮してる訳?」
尊さんに言われ、私は目を瞬かせて彼を見る。
彼はハンドルを握って前を向いたまま、迷いなく言った。
「幸せになる事をためらうなよ。嬉しかったら『嬉しい』って言っていいんだ。お前の幸せを願ってるのは、俺や家族、友達だろ? どうでもいい奴の事より、朱里が幸せになったら喜んでくれる人の事を考えろよ」
「はい……」
そう言われ、自分が大切な人たちより、不特定多数の〝皆〟を気にしていたと気づかされた。
「まだ付き合いたてだから、俺はお前の好き嫌いを詳しく知らない。だから色んな事を逐一報告してくれると、すげぇ助かる。嬉しい事も幸せだと感じた時も、素直に言ってくれると『そうか』って安心できる。食べ物の好き嫌いや、何をされたら嫌かも知りたい。だからもっと素直に感情を表してほしい」
最後の言葉を聞き、ストンと納得した。
「……そうですね。……私、自分を押し殺すのが癖になってました」
呟くように言うと、尊さんは「ん」と頷く。
「自慢しろとは言わないけど、嬉しい事があったらシェアしたいのは普通だろ。美味い飯を食ったらSNSに写真を投稿するぐらい、誰だってやってる。他人の幸せを見て僻むほうがおかしいんだから、遠慮する必要はない。どうせそいつらだって、嬉しい事があったら誰かに自慢してるんだから」
スパッと一刀両断する彼を見て、私はしばし呆然とする。
「お前を嫌う奴は、お前が何をしても嫌うんだよ。そんな奴の事を気にする時間が勿体ない。嬉しい事、幸せな事をして『おめでとう、良かったね』って言ってくれる人で周りを固めとけ。あとは気にするだけ無駄だ」
「……凄いですね。私、そういうふうに思った事なかったです」
私がしみじみと言うと、尊さんは溜め息混じりに言った。
「俺さ、もう三十二歳なワケ。そりゃ二十代の社員におっさんって言われるよ」
あ、割と気にしてる。
「三十五歳まであっという間だし、四十歳になるのもすぐだろ。気がついたら五十歳になって人生後半戦だ。ボーッとしてたら一年なんてあっという間に終わるし、いつ病気になり、事故に遭うか分からない。俺は自分の人生を生きるのに精一杯なんだよ。……ただでさえ、幸せになるためのハードルが高くできてるしな」
「……確かに」
怜香さんの事を思いだし、私は深く納得する。
「だから俺は、自分の欲望に正直に生きるようにしてる。後先考えずに行動するのとは違うけど、美味いもんは食べたいし、行きたい所には行っておく。好きな女ができたら徹底的に懐かせて、俺から離れないようにする。……その時、好きな女が素直に好意を受け取ってくれたら最高だ」
最終的に、このまじめな話が始まる前の話題に戻り、彼が何を言いたかったのかを知った。
「まぁ、それらの欲望を叶えるために、日々まじめに働いたり、健康に気を遣ったり、ジムで体力作ったり、色々してるけどな」
凄いなぁ……。
私は溜め息をついたあと、ポツポツと話す。