部長と私の秘め事
「私たちは奇しくも同じ相手に傷つけられ、大きな不幸に見舞われた。……でも絶望して死を選ばず、こうして図太く雑草みたいに生きて幸せになってる事を誇ろうよ。どれだけ踏みつけられても起き上がり、したたかに生きる事のほうが何よりも大切だ。私たちはとりあえず、大きな試練に一つ打ち勝った。きっと、私たちが幸せになっている姿こそ、あの人がもっとも悔しがる事だと思うよ」
「違いない」
尊さんはフハッと息を吐くように笑い、コーヒーを飲む。
宮本さんは溶けかかったパフェの続きを急いで食べたあと、私を見て悪戯っぽく笑いかける。
「意地悪な質問をするけど、今回私と会うにあたって心配した?」
「……そ……、うですね。…………ちょっと…………」
本当はちょっとどころじゃなかったけど、彼女が目の前にいる手前、少し見栄を張る。
すると宮本さんはニカッと笑い、「可愛い!」といきなり褒めてきた。
「素直でいい子だね。美人さんだし、ちょっと繊細そうだけど、芯の強そうな子だ。いい相手と巡り会ったね、速水くん」
「ああ、自慢の婚約者だ。可愛くて堪らない」
尊さんはスルリと私の頭を撫で、私は照れて少し俯く。
「速水くんと私は、友達として気が合ったかもしれないけど、色々とタイミングが合わなくて駄目だった。私は運命の相手を見つけたし、君も朱里ちゃんと出会った。お互いそれぞれ幸せを掴んで、十年経った今こうして報告できている。……きっと十年前、事件が起こった直後じゃ駄目だったんだ。時間を空けて冷静になって、幸せを得て心の余裕を掴んだ今が、再会して〝話〟をするジャストタイミングだったんだと思う」
「そうだな。宮本の言う通りだと思う」
尊さんは静かに笑い、テーブルの下、彼女に見えないところで椅子の上にある私の手をポンポンと叩いた。
「君が幸せだと分かって良かった。これで私は一つ荷物を下ろして、身を軽くして前に進める」
過酷な目に遭っても、なおも尊さんの幸せを願っていた宮本さんを前にして、私は思わず涙を流してしまった。
「おっと、……どうしたの? 大丈夫? 何か不快にさせてしまった?」
宮本さんは心配そうに私を見て、慌ててバッグからハンカチを出そうとする。
私は首を横に振ってそれを制し、自分のハンカチを出して目元を押さえると、彼女に向かって笑いかけた。
「私、宮本さんみたいな女性になりたいです。気高くて、名前の通り凜と咲く一輪の花みたいな、そんな人になりたい」
「あはは、そんな大した人間じゃないんだけど……。でも、そう言ってもらえて光栄だよ。ありがとう」
そんな宮本さんを見て、尊さんは微笑む。
「俺にとっても宮本は自慢の友人だ。……俺のせいで酷い目に遭わせてしまって、恨まれても仕方ないと思っていたが、お前は前を向き続けた。……どうしようもなく絶望し、打ちひしがれた時もあったと思うが、こうやって再会して幸せを報告し合えて、心から良かったと思えている」
「いつまでも〝自分のせいで〟って思うの、やめなよ。私は君を恨んでないし、君のせいじゃない。君のせいにするほど、私は落ちぶれてないんだ。何でも他人のせいにするのは良くないけど、少なくとも私たちの〝傷〟については、篠宮怜香が悪い。あの人にすべての責任を被せて、私たちは前を向くんだ。たまにはそういう事があってもいい」
キッパリと言われ、尊さんは頷いた。
「ああ、……そうする。…………『俺は悪くない』」
尊さんが噛み締めるように言った時、彼が長年その身を雁字搦めにしていた、見えない鎖から解き放たれたのが分かった気がした。
「それでいいよ。……私たちみたいな常識人は、何かがあったら『自分のせい』と思って自責してしまうけど、篠宮怜香みたいな人は、自分が不幸なのは他人のせいだと思ってる。たまにはそういう所を見習ってもいいと思うよ」
宮本さんの冗談めかした言葉を聞き、私たちは思わず笑った。
そのあと、彼女は近くにいるらしい旦那さんに連絡を入れ、お子さんと一緒に店に来てもらった。
国語の教師をしているという旦那さんは、文系……と思いきや、しっかり体を鍛えている人で、週末には家族で海遊びをするのが好きなんだとか。
二人のお子さんもやんちゃ盛りで、よく日に焼けていて元気な子たちだ。
私を見て「芸能人?」と言ってくれたので、ついお小遣いをあげたくなって宮本さんから止められてしまった。
全員でランチをとったあと、宮本さん……もとい、夏目さん一家の案内で平和記念公園や原爆ドームに向かう事にした。
「違いない」
尊さんはフハッと息を吐くように笑い、コーヒーを飲む。
宮本さんは溶けかかったパフェの続きを急いで食べたあと、私を見て悪戯っぽく笑いかける。
「意地悪な質問をするけど、今回私と会うにあたって心配した?」
「……そ……、うですね。…………ちょっと…………」
本当はちょっとどころじゃなかったけど、彼女が目の前にいる手前、少し見栄を張る。
すると宮本さんはニカッと笑い、「可愛い!」といきなり褒めてきた。
「素直でいい子だね。美人さんだし、ちょっと繊細そうだけど、芯の強そうな子だ。いい相手と巡り会ったね、速水くん」
「ああ、自慢の婚約者だ。可愛くて堪らない」
尊さんはスルリと私の頭を撫で、私は照れて少し俯く。
「速水くんと私は、友達として気が合ったかもしれないけど、色々とタイミングが合わなくて駄目だった。私は運命の相手を見つけたし、君も朱里ちゃんと出会った。お互いそれぞれ幸せを掴んで、十年経った今こうして報告できている。……きっと十年前、事件が起こった直後じゃ駄目だったんだ。時間を空けて冷静になって、幸せを得て心の余裕を掴んだ今が、再会して〝話〟をするジャストタイミングだったんだと思う」
「そうだな。宮本の言う通りだと思う」
尊さんは静かに笑い、テーブルの下、彼女に見えないところで椅子の上にある私の手をポンポンと叩いた。
「君が幸せだと分かって良かった。これで私は一つ荷物を下ろして、身を軽くして前に進める」
過酷な目に遭っても、なおも尊さんの幸せを願っていた宮本さんを前にして、私は思わず涙を流してしまった。
「おっと、……どうしたの? 大丈夫? 何か不快にさせてしまった?」
宮本さんは心配そうに私を見て、慌ててバッグからハンカチを出そうとする。
私は首を横に振ってそれを制し、自分のハンカチを出して目元を押さえると、彼女に向かって笑いかけた。
「私、宮本さんみたいな女性になりたいです。気高くて、名前の通り凜と咲く一輪の花みたいな、そんな人になりたい」
「あはは、そんな大した人間じゃないんだけど……。でも、そう言ってもらえて光栄だよ。ありがとう」
そんな宮本さんを見て、尊さんは微笑む。
「俺にとっても宮本は自慢の友人だ。……俺のせいで酷い目に遭わせてしまって、恨まれても仕方ないと思っていたが、お前は前を向き続けた。……どうしようもなく絶望し、打ちひしがれた時もあったと思うが、こうやって再会して幸せを報告し合えて、心から良かったと思えている」
「いつまでも〝自分のせいで〟って思うの、やめなよ。私は君を恨んでないし、君のせいじゃない。君のせいにするほど、私は落ちぶれてないんだ。何でも他人のせいにするのは良くないけど、少なくとも私たちの〝傷〟については、篠宮怜香が悪い。あの人にすべての責任を被せて、私たちは前を向くんだ。たまにはそういう事があってもいい」
キッパリと言われ、尊さんは頷いた。
「ああ、……そうする。…………『俺は悪くない』」
尊さんが噛み締めるように言った時、彼が長年その身を雁字搦めにしていた、見えない鎖から解き放たれたのが分かった気がした。
「それでいいよ。……私たちみたいな常識人は、何かがあったら『自分のせい』と思って自責してしまうけど、篠宮怜香みたいな人は、自分が不幸なのは他人のせいだと思ってる。たまにはそういう所を見習ってもいいと思うよ」
宮本さんの冗談めかした言葉を聞き、私たちは思わず笑った。
そのあと、彼女は近くにいるらしい旦那さんに連絡を入れ、お子さんと一緒に店に来てもらった。
国語の教師をしているという旦那さんは、文系……と思いきや、しっかり体を鍛えている人で、週末には家族で海遊びをするのが好きなんだとか。
二人のお子さんもやんちゃ盛りで、よく日に焼けていて元気な子たちだ。
私を見て「芸能人?」と言ってくれたので、ついお小遣いをあげたくなって宮本さんから止められてしまった。
全員でランチをとったあと、宮本さん……もとい、夏目さん一家の案内で平和記念公園や原爆ドームに向かう事にした。